刑事訴訟法(捜査)

取調べとは?② ~「供述拒否権(黙秘権)と何か・デメリット・法的根拠・告知義務・不告知と供述の任意性問題」を判例などで解説~

供述拒否権(黙秘権)とは?

 供述拒否権(黙秘権)とは、被疑者が、警察官や検察官の取調べを受けるにあたり、

供述を拒否し、黙っていることができる権利

をいいます。

 たとえば、取調べにおいて、警察官に、

「Aさんを殺したのはお前か?」

と聞かれたら、被疑者は、

「言いたくありません。黙秘します。」

などと言って、供述を拒否し、黙秘することができます。

供述拒否権(黙秘権) を行使することのデメリット

 被疑者には、供述拒否権(黙秘権)があるからといって、調子に乗って、供述を拒否し、黙秘すると、

  • 「自分が犯人です」と言っているようなものである
  • まったく反省をしていないと見なされ、より重く処罰される可能性がある
  • 任意では取調べができないと判断され、逮捕される可能性がある
  • 被疑者から話が聞けないとなれば、捜査機関は、被疑者の家族や知人などの関係者から話を聞くことになるので、周囲の人に大迷惑をかける

などのデメリットが生まれるので、自分が本当に犯罪をやっているのなら、正直に話した方がよいでしょう。

 もし、自分が犯人でないのなら、 「言いたくありません。黙秘します。」 と言うのではなく、自分が犯人でない理由を、警察や検察官に対し、きちんと説明した方がよいでしょう。

供述拒否権(黙秘権) の法的根拠

 供述拒否権(黙秘権)の法的根拠は、憲法38条Ⅰにあります。

憲法38条

1 何人も、自己に不利益な供述を強要されない

2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない

3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

 『何人も、自己に不利益な供述を強要されない』という憲法のルールを体現したのが、供述拒否権(黙秘権)です。

 憲法38条Ⅰを受けて、刑訴法198条Ⅱにおいて、警察官や検察官などの取調べ官が、被疑者の取調べを行うにあたり、供述拒否権(黙秘権)があることを被疑者に告知しなければならないことを義務づけています。

刑訴法198条 (被疑者の出頭要求・取調べ)

1 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

2 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。

3 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。

4 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。

5 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

 取調べ官が、『取調べに際し、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない』とする義務を

供述拒否権(黙秘権)の告知義務

といいます。

供述拒否権(黙秘権)の不告知 ➡ 供述の任意性に問題発生

 供述拒否権(黙秘権)の告知は、刑訴法198条Ⅱで、警察官や検察官などの取調べ官が、取調べを行う者に対して行うことを義務づけています。

 では、警察官や検察官が、被疑者に対し、供述拒否権(黙秘権)の告知を行わなかった場合どうなるかというと、

被疑者の供述の任意性に疑義(問題)が生じる

ことになります。

 たとえば、取調べ官が、被疑者の取調べを開始する前に、被疑者に対し、供述拒否権(黙秘権)の告知を忘れてしまい、しなかったとします。

 ここでもし、供述拒否権(黙秘権)の告知義務がなかったことで、被疑者が、裁判において、裁判官に対し、

  • 黙秘権という権利があるなんて知らなかった
  • 取調べ官に黙秘権は告知されていない
  • もし取調べ官から黙秘権を告知されていたら、「黙秘します」と答えていたし、供述調書の作成に応じなかった

という訴えをした場合、その取調べで作成された供述調書は、

任意にされた供述ではない

とされ、証拠能力が認められなくなる(犯罪を認定する証拠として採用できない)可能性があります。

 これは、刑訴法322条Ⅰただし書きにより、被疑者の供述調書は、供述が任意にされたものでない疑いがある場合は、証拠とすることができないルールになっているためです。

供述拒否権(黙秘権)の告知がなくても、ただちに供述の任意性がなくなるわけではない

 取調べ官が、供述拒否権(黙秘権)の告知を怠ったからといって、ただちに被疑者の供述の任意性が失われるわけではありません。

 これについては、 最高裁判例(昭和25年11月21日) があり、裁判官は、

『検察事務官がその取調に際し、被告人に黙秘権のあることを告知しなかったからとて違法はなく、またこれらの取調に基く被告人の供述が任意性を欠くものと速断することもできない』

と判示しています。

1回目の取調べで供述拒否権(黙秘権)を告知していれば、2回目以降の取調べで告知しなくても違反ではない

 供述拒否権(黙秘権)の告知は、1回の取調べで行われていて、被疑者が供述拒否権(黙秘権)を知っている場合は、2回目以降の取調べで、あらためて告知しなくても、違反ではないという判例があります。

 最高裁判例(昭和28年4月14日)において、裁判官は、

  • 第1回供述調書には、検事が被疑者を取調べるにあたり、あらかじめ刑訴198条2項に従って供述を拒むことができる旨告げたという記載がある
  • 第2回の取調べは、それから8日の後になされたのであるが、同一の犯罪につき、同一の検事によってなされた取調べであるから、被疑者は、この時には供述を拒み得ることを既に充分知つていたものと認められる
  • このような場合には、あらためて検事から供述拒否権のあることを告知しないでも、刑訴198条2項に違反するものとは言えない

と判示しました。

 ちなみに、

  • 取調べが相当期間中断した後、再び開始する場合
  • 取調べ官が交代した場合

は、2回目以降の取調べでも、供述拒否権(黙秘権)の告知が必要とされます。

 この点については、犯罪捜査規範169条Ⅱに規定あり、

『前項の告知(供述拒否権の告知)は、取調べが相当期間中断した後再びこれを開始する場合又は取調べ警察官が交代した場合には、改めて行わなければならない」

と定められています。

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