前回までの記事では、正当行為のうち、以下の①~⑤について説明しました。
今回は、「⑥ 労働争議行為」について説明します。
- 法令行為
- 正当業務行為
- 自救行為
- 被害者の承諾による行為
- 被害者の推定的承諾による行為
- 労働争議行為
労働争議行為とは?
春になると「賃金をあげろー!」と街中でデモをする集団を見たことがあるでしょうか?
これは、春闘(しゅんとう)と呼ばれ、労働者の待遇向上を経営者に訴えるデモ活動です。
春闘は1980年頃までは、頻繁に行われていたようですが、近年では、ほとんど見なくなりました。
このような活動を労働争議行為といいます。
もし、労働者たちが仕事をせずに、会社の前で「賃金をあげろー!」などと叫ぶデモ活動を始めたら、会社の業務がストップし、会社に損害が発生してしまいます。
労働争議行為を行えば、威力業務妨害罪や強要罪などの犯罪が成立しそうですが、犯罪は成立しません。
正当な労働争議行為は、正当行為として認められ、違法性が阻却され、犯罪にならないという法律(刑法35条)になっているためです。
労働争議行為は、違法性阻却事由なのです。
労働争議行為が違法とならない条件
労働争議行為が違法とならないための条件は、
① 労働争議行為が、
- 労働者の経済的地位の向上
- 労働組合の組織
- 労働協約の締結
などを目的とすること
(平たくいうと、『勤務する会社内部の労働条件の改善を目的とすること』をいいます)
② 暴力の行使を伴わず、その手段が社会通念上相当と認められるものであること
の2つになります(労働組合法1条)。
労働争議行為が①と②の条件を満たすときに、争議行為の違法性が阻却され、威力業務妨害罪や強要罪は成立しないことになります。
労働争議行為が違法となるかどうかの判断基準
労働争議行為が違法になるか、違法にならいかの判断基準について、最高裁判所は以下のように裁判で示しています。
憲法は…(団結権、団体交渉権、団体行動権、平等権、自由権、財産権等の)もろもろの基本的人権と労働者の権利との調和をこそ期待しているのあって、この調和を破らないことが、すなわち争議権の正当性の限界である。
その調和点を何処に求めるべきかは、法律制度の精神を全般的に考察して決すべきである。
最高裁判所判決(昭和25年11月15日)
これは、労働争議行為が違法となるかどうかは、法律制度全体の見地から、許容されるかべきかどうかが判断されるということです。
公務員の労働争議行為は禁止されている
公務員の労働争議行為は、国家公務員法98条2項、地方公務員法37条1項により禁止されています。
公務員が争議行為をすれば、公務を停滞させ、国民の利益に重大な影響を及ぼすことから、禁止されています。
とはいえ、もし公務員がこの禁止規定に違反して、労働争議行為を行っても、犯罪にはならない点が興味深いところです。
これは、公務員の労働争議行為を禁止する法律はあっても、刑罰を与える法律がないためです。
ただし、刑罰はなくても、懲戒処分はあると思います。
まとめ
今回の記事で正当行為の説明はすべて終わりました。
正当行為とは、違法性阻却事由です。
犯罪に該当する行為をしても、その行為が正当行為と認められれば、犯罪は成立しません。
正当行為は、以下の①~⑥に分類されます。
- 法令行為
- 正当業務行為
- 自救行為
- 被害者の承諾による行為
- 被害者の推定的承諾による行為
- 労働争議行為
それでは、また次の記事でお会いしましょう。