マイナスの優位性(ネガティブ本能)
ほぼすべての事象において、マイナスはプラスを圧倒します。
親・先生・上司・友人など、他人からほめられた出来事より、他人から否定され、非難され、叱られ、評判をおとしめられた出来事の方が、圧倒的に強固な記憶として脳に残ります。
脳内において、悪い印象は、良い印象よりも容易に形成され、しかも、なかなか取り消されません。
このように、マイナスがプラスを圧倒するメカニズムを、「マイナスの優位性」といいます。
(マイナスの優位性は、ネガティブ本能ともいいます)
マイナスの優位性により、人は、悪い感情・悪い出来事・悪い人・悪い評判を、良い感情・良い出来事・良い人・良い評判よりも、ずっと念入りに、詳しく検討してしまうのです。
そのため、頭の中は、マイナスが支配する世界になりやすいのです。
悪い出来事が優位する脳のメカニズム
人間の脳には、危険・恐怖・不安・自己否定などの悪い出来事を優先的、かつ高速処理するメカニズムが組み込まれています。
悪い出来事を五感の作用で認知すると、認知した情報が、超高速の神経系を通って、悪い感情を作り出す脳の部位である偏桃体に伝えられます。
悪い情報を高速感知する偏桃体の働きにより、人類は、捕食者から逃げたり、危険を回避するなどして、子孫を残しながら、これまで生き延びることができたのです。
このような悪い出来事を高速処理する脳のメカニズムは、良い出来事に対しては存在しません。
良い出来事に高速反応する脳のメカニズムは、生物として、そこまで生存に必須ではなかったからと考えられます。
脳には、
悪い出来事を優先的に、かつ高速処理するメカニズムがある
のに対し、
良い出来事を優先的に、かつ高速処理するメカニズムはない
ため、どうしても、悪い出来事が、良い出来事より、優位して脳に記憶されてしまうのです。
怒った顔の写真の実験
たくさんの笑顔の写真の中に、1枚だけ怒った顔の写真を入れます。
人は、怒った顔の写真を瞬時に見つけることができます。
怒った顔の写真は、たくさんの笑顔の写真の中から飛び出して見えるからです。
逆に、たくさんの怒った顔の写真の中に混じった一つの笑顔の写真は、見つけるのが難しいことが分かっています。
これは、怒った顔の写真は、人に対し、潜在的な脅威の感情をかき立てるので、ネガティブな感情を処理する偏桃体が高速反応し、脳内で怒った写真の情報が、高速かつ、優先的かつ、明瞭に処理されるためです。
この脳反応から分かるとおり、人は、ネガティブな情報を、圧倒的な優先度で処理してしまうのです。
良好な人間関係を築くには、良い事を追い求めるより、悪い事を避ける方がうまくいく
人は、良い出来事よりも、悪い出来事を鮮明かつ強固に記憶します。
それゆえに、長年、良い出来事を積み重ねてきたとしても、たった一度の悪い出来事の発生により、長年にわたる良好な人間関係が壊れるのはよくあることです。
長期的に良好な人間関係を築くためには、良い出来事を増やすよりも、悪い出来事を起こさないようにすることの方が有効なのです。
他人から承認され、好かれようとして生きると地獄をむかえる
この世の中は、確率やランダム性の要素が色濃くあります。
そのため、どんなに努力し、慎重に行動しても、一定の確率で、悪い出来事は起きます。
人間関係でいえば、他人に気に入られるため、良い行いを連発しても、どこかで悪い行いが混ざってきてしまいます。
人は、悪い行いに強烈に反応するので、今までの良い行いが、一回の悪い行いで水の泡になります。
他人から高評価を受けることで、うまやくやってきた人間関係は崩れます。
そのため、他人から承認され、好かれようとする生き方は、分が悪いのです。
他人から承認され、好かれようとする生き方とは、
- 他人に良い顔をして、自分を認めてもらおうとする
- 他人から承認されることが、自分の安心・安全を確保する手段になっている
- 他人から否定・批判・非難をされないように、他人の意向や顔色をうかがった行動をする
ことをいいます。
どうしても一定の確率で、ランダムに悪い出来事というのは起こってしまいます。
よって、どこかのタイミングで、他人は、あなたの起こした悪い出来事に思考がとらわれてしまうことから、長期の良好な人間関係を築くのはできないことの方が多くなるのです。
にもかかわらず、そのことを知らず、他人から承認され、好かれることを目的とした生き方をすると、目的が達成できたり、できなかったりを繰り返して、メンタルを消耗し続ける地獄に陥ります。
「他人の顔色はうかがいません」「他人から否定・批判・酷評されてもOK!」という考え方をとっていた方が、自分のメンタルの安定状態を維持し、自分のパフォーマンスを下げずに済むので、地獄に落ちるのを回避できます。