刑法(失火罪)

失火罪(5)~「火災の発生につき過失が否定され、失火罪は成立しないとされた事例」を説明

 前回の記事の続きです。

火災の発生につき過失が否定され、失火罪は成立しないとされた事例

 火災の発生につき過失が否定され、失火罪は成立しないとされた事例として、以下の裁判例があります。

福岡高裁判決(昭和34年10月6日)

 自動三輪車のバッテリーからの配線と車体鉄骨部分とが接触発火することは一般的、客観的に見て予見不可能であるとして、被告人に失火の過失はないとし、失火罪の成立を否定しました。

仙台高裁判決(昭和27年12月26日)

 七輪を使ってタ食の汁を作った被告人に、証拠上、火災発生を防止すべき注意義務があるとは認められないとし、被告人に失火の過失はないとし、失火罪の成立を否定しました。

室蘭簡裁判決(昭和40年3月10日)

 4歳4か月の幼児の火遊びにより住宅を焼損した事案において、幼児の保護者(父親)にその幼児の火いたずら及びその結果として火災が発生するに至るべきことの予見可能性がなかったとして、失火につき保護者に過失があったとはいえないとし、失火罪の成立を否定しました。

東京高裁判決(昭和41年11月28日)

 溶接作業における失火の事案で、冷凍機の製作・設置などを目的とする会社の社員で、同社が請け負ったりんご冷蔵貯蔵庫の建設工事の現場責任者であった被告人に対し、裁判官は、

  • 被告人は木下工業株式会社の工事課員として本件建設工事一般について現場の監督責任者であったが、東洋ゴム化学工業株式会社に下請けさせたネオプレン塗布作業については右塗料に対する専門的な知識経験がないので、これに含まれていた引火性物質トリオールの飛散時間につき同会社から事前に実験の結果に基づく説明を受けるとともに、同会社から派遺され、実際の塗布作業を実施した技術員とも具体的に相談の末、右説明や相談の結果に従ってトリオールが完全に飛散し引火の危険が消失したと考える時刻に及んで本件熔接作業を行わしめたのであるから、このような事情の下において一般通常人を被告人の立場におき注意を払わせたとしても、本件出火の危険を予見することができたであろうとは思われない

と判示して、失火罪の成立を否定しました。

武生簡裁判決(昭和49年11月21日)

 夫婦でせんべいの製造販売業を営む被告人(夫)につき、妻と共同で長時間にわたって電気乾燥機を使用してせんべいの乾燥作業を行った後に外出したときは、外出後の火気管理は妻が行うべきものであり、被告人としては特段の事情がない限り、共同作業者である妻が危険の発生を防止するため適切な行動をとるであろうと信頼してよく、外出に当たり火を止めるとか、監視人を置くまでの注意義務はないとし、被告人に失火の過失はないとし、失火罪の成立を否定しました。

鯵ケ沢簡裁判決(昭和57年7月20日)

 たき火の残り火が落葉を介して近接する建造物に燃え移り火災が発生した事案で、証拠上、たき火と火災発生との間の因果関係に疑問があるとして、失火罪の成立を否定し、無罪を言い渡しました。

次回の記事

 次回の記事から業務上失火罪(刑法117条の2)を説明します。

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