刑法(殺人罪)

殺人罪(43) ~「殺人罪と①堕胎罪、②死体遺棄罪・死体損壊罪、③逮捕監禁罪、④凶器準備集合罪、⑤銃刀法違反との関係」を解説~

 前回の記事の続きです。

 殺人罪と

  1. 堕胎罪
  2. 死体遺棄罪・死体損壊罪
  3. 逮捕監禁罪
  4. 凶器準備集合罪
  5. 銃刀法違反(銃砲刀剣類の所持)

との関係を説明します。

① 堕胎罪との関係

 堕胎罪は、自然の分娩期に先立って人為的に胎児を母体外に排出することによって成立し、胎児が死産したことは要件ではないから、堕胎した後、嬰児を殺害した場合は、堕胎罪と殺人罪の併合罪となります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正11年11月28日)

 裁判官は、

  • 堕胎の目的をもって、自然の分娩期に先立ち、人為をもって胎児を母体外に排出したる後、これを殺害したる場合において、堕胎罪と殺人罪とは併合罪の関係を有し、手段又は結果の関係を有せず

と判事しました。

② 死体遺棄罪・死体損壊罪との関係

 殺人犯人が被害者の死体を現場にそのまま放置するのは、犯人がとくに葬祭の義務を有する者でない限り、殺人罪とは別に死体遺棄罪(刑法190条)は成立しません。

 しかし、

  • 死体を他に移し、犯跡隠蔽するためこれを焼損すること
  • 死体を全裸体とし、その頭部・左右上下肢を切断し、胴体を雑木林の中に、頭部を渓流の中に隠匿すること
  • 犯跡隠蔽の目的で死体を地中に埋没すること
  • 床下に隠匿すること

といった行為は、殺人罪のほかに死体遺棄罪を構成します。

 そして、死体遺棄の結果は殺人行為から当然生ずべき結果ではないから、殺人罪と死体遺棄罪の関係は牽連犯ではなく併合罪となります。

 この考え方は、死体損壊罪(刑法190条)の場合も同様です。

 死体損壊罪の結果は殺人行為から当然生ずべき結果ではないから、殺人罪と死体損壊罪の関係は牽連犯ではなく併合罪となります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治44年7月6日)

 裁判官は、

  • 死体遺棄の行為は、常に必ず殺人行為に伴うものにあらざるをもって、人を殺したる後、更に死体を遺棄するにおいては、殺人罪のほかに、なお死体遺棄罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和8年7月8日)

 裁判官は、

  • 人を殺害したる上、死体を全裸体となして、その頭部及び左右上下肢を順次切断したるにとどまらず、胴体を雑木林の中に、また頭部を渓流中に隠匿するがごとき場合においては、殺人罪のほか、死体損壊遺棄罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和13年6月17日)

 裁判官は、

  • 人を殺害したる後、罪証隠滅の目的をもって、死体を地中に埋め、又はこれを支解折割するときは、殺人の罪と死体遺棄又は損壊罪との併合関係を生ずるものとす

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年11月26日)

 裁判官は、

  • 人を殺した者が、その殺した死体を屋内床下に運び、これを隠匿した本件被告人の所為は正に刑法第190条所定の死体を遺棄した行為に該当するものである

と判示し、殺人罪のほか、死体遺棄罪も成立するとしました。

最高裁判決(昭和26年6月7日)

 裁判官は、

  • 旅館の客室で人を殺した者がその死体を客室の床下に投棄秘匿する場合には、殺人罪のほかに死体遺棄罪が成立することは明らかである

と判示しました。

大審院判決(明治43年11月1日)

 裁判官は、

  • 被告人は、Kの殺害しようと決意し、棍棒及びをもってKの頭部を乱打して死に至らしめ、これが死体をK方西側の井戸の中に投棄した
  • 死体遺棄の犯罪は、殺人罪より当然の結果として生じたる行為にあらずして、被告がKを殺害し、進んでその死体を井戸の中に投棄したるものなれば、これは目して直ちに刑法第54条を適用すべきものにあらざるや明らかなり

と判示し、殺人罪と死体遺棄罪は手段と結果の関係にないので牽連犯にならず、殺人罪と死体遺棄罪はそれぞれ独立して成立し、併合罪になるとしました。

大審院判決(昭和11年1月29日)

 裁判官は、

  • 強盗殺人罪を犯したる者が、その犯跡隠滅せむがため、死体を他の場所に運搬し、ひとかにこれを土中に埋蔵するがごときは、刑法第190条の死体を遺棄したるものに該当す
  • 強盗殺人罪と死体遺棄罪とは、刑法第54条牽連犯を構成すべきものにあらず

と判示し、強盗殺人罪(刑法240条)と死体遺棄罪は牽連犯ではなく、併合罪の関係になるとしました。

大審院判決(昭和9年2月2日)

 裁判官は、

  • 人を殺し、その死体を損壊したる行為は、殺人及び死体損壊の併合罪を構成するものにして、牽連犯となるべきものにあらず

と判示しました。

③ 逮捕監禁罪との関係

 逮捕監禁(刑法220条)とその間に犯された殺人とは併合罪の関係にあると解されています。

 殺人ではありませんが、傷害の手段として監禁し、傷害を加えた場合に、監禁罪と傷害罪は、手段と結果の関係になりから牽連犯を構成しないという判例(最高裁決定(昭和43年9月17日)があることから、逮捕監禁罪と殺人罪も併合罪になると解されています。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和43年9月17日)

 裁判官は、

  • 傷害の手段として監禁がなされたものであっても、その行為の性質からみて、両者が通常手段結果の関係にあるものとは認められないから、刑法54条1項牽連犯にはあたらない

と判示し、傷害罪と監禁罪は併合罪になると認定しました。

④ 凶器準備集合罪との関係

 凶器準備集合罪刑法208条の2)と、その共同加害目的の実現としての殺人罪・殺人未遂罪とは併合罪にあると解されています。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和43年7月16日)

 裁判官は、

と判示しました。

 凶器準備集合罪と暴力行為等処罰に関する法律違反(集団や常習的な暴行傷害など)は併合罪に当たるとしていることから、凶器準備集合罪と殺人罪も併合罪になるといえます。

 ただし、上記最高裁判例と異なり、凶器準備集合罪と殺人未遂罪とは牽連犯の関係にあるとした高裁判決があります。

大阪高裁判決(昭和47年1月24日)

 被告人らが、共謀の上、A組長及びA組員らを殺傷する目的をもって拳銃、短刀等の凶器を準備したという凶器準備集合と、その準備した凶器を携えて、A組事務所を襲撃し、応戦のため出てきたA組員関係者Bに対し、殺意をもって拳銃を発射し、短刀で突いたが、殺害の目的を遂げなかったという殺人未遂の行為と、A組員関係者Cを、短刀の鞘で殴って傷害を与えたという傷害の行為とは、それぞれ牽連犯の関係にあると解するのが相当であるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人らの凶器準備集合は、殺人未遂、傷害を目的とする準備行為であり、殺人未遂、傷害は兇器準備集合において準備した凶器を使用して行なった凶器準備集合の目的を実現した結果であり、前者が発展して後者に至ったものである
  • かような関係にある凶器準備集合と殺人未遂、傷害とは、一般社会生活上、手段結果の関係にあるものと認められるのみでなく、社会人らの主観においてはもちろんのこと、本件の具体的事情を客観的にみても、手段結果の関係にあるものと認められる
  • そうすると、本件凶器準備集合と殺人未遂、傷害とは、通常、手段結果の関係にあり、刑法54条1項後段牽連犯であると解するのが相当である

と判示しました。

⑤ 銃刀法違反(銃砲刀剣類の所持)との関係

 銃刀法違反における銃砲刀剣類の所持と、それを用いての殺人とは併合罪とするのが判例の考え方です。

最高裁判決(昭和26年2月27日)

 裁判官は、

  • 被告人は、本件殺人行為を為す以前から殺人行為を為すに使用した銃剣を不法に所持していたものである
  • そして、銃剣の不法所持罪は、その所持を開始した時に成立するのであるから、本件殺人行為の行われる以前において本件不法所持罪は成立したわけであって、たまたま被告人が本件殺人行為を為すに用いた銃剣が不法所持にかかるものであるとしても、殺人行為と不法所持行為とは別個の行為であり、別個の犯罪と見るべきであって、1個の行為と見ることはできない
  • 従って、原審において被告人の判示行為に対し、刑法第54条1項前段(※牽連犯の規定)を適用せず、同第45条前段(※併合罪の規定)を適用したことは正当である

と判示し、銃刀法違反(銃砲刀剣類の所持)と殺人罪とは、牽連犯でなく、併合罪の関係になるとしました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、殺人罪と

  1. 業務上過失傷害罪
  2. 公務執行妨害罪
  3. 決闘罪

との関係を説明します。

①殺人罪、②殺人予備罪、③自殺教唆罪・自殺幇助罪・嘱託殺人罪・承諾殺人罪の記事まとめ一覧