平成27年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ

 平成27年司法試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。

 この論文からは以下のテーマが学べます。

1⃣ 強制処分、任意捜査、検証

2⃣ 違法収集証拠の証拠能力、不任意自白の証拠能力、違法収集証拠の派生証拠の証拠能力

3⃣ 伝聞証拠、刑訴法321条1項3号に該当する伝聞証拠の証拠能力

問題

 法務省ホームページの「平成27年司法試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。

答案

設問1

1 捜査①は、乙のプライバシーを侵害する「強制の処分」(刑訴法197条1項)であり、無令状でなされたことは違法ではないか。

⑴ 強制処分法定主義の趣旨は、国民の権利利益を侵害する捜査については国民が国会を通じて決すべきであるという点にある。

 よって、「強制の処分」とは、国民の権利利益を侵害する捜査手法をいうと解すべきである。

 もっとも、強制処分は、令状主義(憲法35条)の下、厳格な手続規定に服するのであるから、かかる厳格な規制を置くにふさわしい、重要な権利利益の侵害のおそれがある手続に限るべきである。

 したがって、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等の重要な権利利益を侵害する捜査手法をいうと解する。

 具体的には、侵害される法益の性質、要保護性等を考慮する。

 本件は、マンションのベランダで通話する乙の声を録音するという捜査手法であるが、通話時の声は、通話の相手方以外に聞かれることは本来想定されていないことから、プライバシーを侵害するおそれのある手法であるといえる。

 乙は、自己の声が録音されていることを認識していないが、被処分者が人権侵害を認識し得ない場合でも、人権保障の観点から、権利侵害からの保護を図る必要がある。

 仮に、ICレコーダーを使用して会話を録音していることを乙が知れば、乙は録音を拒絶するにもかかわらず、録音を行う行為は、乙の意思を抑圧する行為である。

 通話場所は、ベランダであり、外である。

 隣室のベランダとは空間的に連続しており、少なくとも隣室のベランダにいる住人に聞かれること自体は受忍すべき状況であるといえる。

 電話をする乙の声は、耳を立てるなどしなくても聞こえる音量だったのであり、要保護性は大きいとはいえない。

 他方で、録音というかたちで音声が保存される点でプライバシー侵害が大きいと考えられる。

 しかし、他者に聞かれること自体は受忍すべき状況である以上、音声の録音であっても、プライバシーの侵害の程度が大きく異なるとはいい難い。

 また、録音されたのは、乙の音声だけであり、通話相手の音声は含まれていない点、録音時間は3分程度と短い点において、プライバシーの侵害は大きいものではない。

 以上の事情から、捜査①は、乙の重要な権利利益を侵害するとまではいえない。

⑵ よって、捜査①は「強制の処分」とはいえない。

 したがって、無令状で行ったとしても違法ではない。

⑶ もっとも、任意捜査の限界を超えて違法ではないか。

  任意捜査であるとしても、被処分者の権利利益の侵害が生ずるおそれがある。

 そのため、捜査比例の原則により、必要性・緊急性を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において任意捜査は許容される。

 本件では、Vを被害者とした詐欺未遂事件が発生し、甲が逮捕されている。

 甲は単なる出し子であり、主犯格が存在することが疑われている。

 甲の携帯電話機には乙との通話履歴が多く存在し、甲逮捕後も乙からの着信履歴があった。

 かかる状況において、乙が本件詐欺未遂事件の主犯格である疑いが生じていたといえる。

 そこで、乙を調査する必要があるが、乙は自宅にこもりきりで仕事もしていないので外出を期待できず、乙からの話を聞くことは困難な状況にあり、証拠収集は難航していたといえる。

 そのような状況で、隣室に部屋を借りて乙の動静を観察していたところ、乙がベランダで周囲に聞こえる音量で通話を始めたのだから、証拠収集のため、乙の音声を録音する必要性は高かったと認められる。

 この機会を逃せば、証拠収集の機会は二度と来ないことは十分に考えられ、録音の緊急性も高かったと認められる。

 乙は、ベランダという開放性の高い場所において話し始めたのであり、室内の会話のような秘匿性の高い発信ではない。

 Pは、自然に聞こえてくる音声を録音したに過ぎず、その態様は穏当であった。

 録音時間も3分に過ぎなかった。

 よって、必要性、緊急性の高さに照らせば、捜査①の捜査手法は相当な限度であったといえる。

 したがって、任意捜査として適法である。

⑷ 以上より、捜査①は適法である。

2 捜査②は、乙のプライバシーを侵害する「強制の処分」であり、無令状でなされたことは違法ではないか。

⑴ 捜査②は、乙の居室内の音声を本件機器を通じてICレコーダーで録音するものである。

 居室内は、外界と隔絶された私的空間であり、ベランダでの会話とは異なり、他者に聞かれることは想定されず、高度のプライバシーの保障を受ける。

 録音対象は、乙の生活音全てであり、犯罪事実に関係のない音声が大半であるといえるので、プライバシーの要保護性は大きい。

 本件機器を用いて音声を増幅していることから、隣室において通常聞こえてこない音声を盗み聞ぎし、それを録音していることから、仮に、本件機器を使用して会話を録音していることを乙が知れば、当然乙は録音を拒絶するのだから、それにもかかわらず録音を行う行為は、乙の意思を抑圧する行為である。

 また、捜査①と異なり、10時間にわたり録音を継続していることから、乙の行動が相当程度把握されることになり、プライバシー侵害は大きい。

 このような事情に照らせば、捜査②は、乙の意思を抑圧し、重大なプライバシー侵害を伴うものであることから「強制の処分」といえる。

⑵ 捜査②は、「強制の処分」のつち、検証として性質を有する捜査手法である。

 検証とは、裁判所または捜査機関が、五感の作用により、物・身体・場所について、その状態を確認することを目的とする強制による捜査手法である。

 捜査②は、五感のうち、聴覚を用いて居室内の音声を聞き取って獲得する強制処分なので、それを行うには検証許可状(刑訴法218条1項前段)を要する。

 しかし、捜査②は、検証許可状の発付を得ていない。

⑶ よって、無令状でなされた捜査②は違法である。

設問2

1 本件文書及び本件メモは、違法収集証拠として証拠能力が否定されないか。

⑴ 刑事手続は、適正手続が保障されている。

 適正手続の保障は、事件の捜査などの刑事手続の過程において、被疑者に与える制約を必要最小限度のものにし、被疑者の最低限の基本的人権が守られることを保障するものである。

 適正手続の保障に反する捜査が行われれば、被疑者の人権を侵害する捜査が行われたことになる。

 適正手続の保障に反して収集された証拠は、違法収集証拠とされ、証拠能力が否定される場合がある。

 本件文書及び本件メモは、甲の自白に関連して収集されている。

 そこで、まず甲の自白が違法収集証拠であり、証拠能力が否定されないかを検討する必要がある。

 その上で、甲の自白の派生証拠である本件文書及び本件メモが違法収集証拠とされ、証拠能力が否定されないかを検討する必要がある。

⑵ 甲の供述は「自白」に当たり、刑訴法319条1項の適用を受ける。

 甲の自白は、検察官の起訴猶予の約束により誘発されたものであり、自白の任意性に問題がある。

 刑訴法319条が不任意自白を排除するのは、任意ではない自白には虚偽が混入するおそれがあり、誤判を招くおそれがあるからである。

 よって、「任意ではない」とは、虚偽であるおそれがある状況でなされた自白をいうと解する。

 甲は、Qとの取調べにおいて、Qから「検察官が改悛の情を示せば起訴猶予にしてやると言っている」という趣旨の話を聞き、起訴猶予処分になることを期待して共犯者が乙であることを自白している。

 甲にとって、起訴猶予になることで刑事処罰を免れる利益は大きいことから、かかる状況は、甲が虚偽の自白をしかねない状況である。

 よって、自白をすれば起訴猶予にする旨の検察官のことばを信じた甲が、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものと解するのが相当である。

 したがって、甲の自白は、自白の収集過程に違法があり、「任意ではない」自白といえ、違法収集証拠として証拠能力が否定される。

⑶ では、違法収集証拠である甲の自白の派生証拠である本件文書及び本件メモも違法収集証拠とされ、証拠能力が否定されるのではないか。

 違法収集証拠は、その証拠能力が直ちに否定されるわけではない。

 理由は、①違法収集証拠であっても、証拠物それ自体の性質・形状に変異を来すことはなく、証拠物の存在・形状等に関する価値に変わりはないこと、②違法収集証拠であることをもって直ちにその証拠物の証拠能力を否定することは、事案の真相究明を損ない、被疑者に適正な処罰を科すことができなくなるおそれがあることが挙げられる。

 そこで、違法収集証拠の証拠能力が否定される場合は、①捜査手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある場合、かつ、②重大な違法捜査で得た証拠を、証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない場合であると解する。

 そして、違法捜査から派生して取得された証拠については、先行の違法捜査の違法性が、後行の捜査に大きく影響を与えており、上記①②の要件に照らして相当でないと認められる場合に違法収集証拠として証拠能力が否定されると解する。

 甲の自白は、起訴猶予を約束するという利益誘導が行われて獲得されたものであり、適正手続の保障に反するが、実際に甲は起訴猶予となっており、その違法の程度は重大とまではいえない。

 乙は利益誘導を受けておらず、乙の自白は任意になされている。

 そして、本件文書及び本件メモは、乙の任意になされた自白を疎明資料として、捜索差押許可状の発付を受けて差し押さえられたものであり、同許可状の発付を受けるに当たり、甲の不任意自白との関連性は小さいといえる。

 よって、本件文書及び本件メモは、違法収集証拠である甲の自白の派生証拠であるが、甲の自白の違法性が本件文書及び本件メモを取得する捜査手続に与えている影響は小さいといえる。

 よって、本件文書及び本件メモの違法性は、①捜査手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある場合、かつ、②重大な違法捜査で得た証拠を、証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない場合に当たるといえる。

 したがって、本件文書及び本件メモは、違法収集証拠として証拠能力は否定されない。

2 では、本件文書及び本件メモは、伝聞証拠として証拠能力が否定されないか(刑訴法320条1項)。

⑴ 本件文書について

 伝聞法則の趣旨は、公判廷外の供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述の過程を経て生成されるため、その各過程で誤りが混入するおそれがあることから、反対尋問による真実性の審査を経ないものについて、原則として証拠能力を否定することで、誤判を防ぐことにある。

 かかる趣旨から、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用を受ける「書面」「供述」とは、要証事実との関係で、その供述内容の真実性が問題となるものをいう。

 その判断は、要証事実との関係で相対的に決まる。

 本件文書は、詐欺のマニュアルとして使用されていたものであり、その内容は、「先物取引に手を出したら大損をしてしまった。」「息子さんの代わりに500万円を用意してもらえますか。」等と記載されており、実際にVになされた電話内容と合致していて、本件詐欺事件の手口と一致しているため、本件詐欺事件の犯罪計画を記したものと認められる。

 そして、乙は本件文書に基づいて詐欺を行ったと供述していること、乙の筆跡で電話番号が記載されていることから、乙は本件文書を閲覧することによって犯罪計画を認識していたことが推認できる。

 さらに、乙は、本件文書は他人から渡されたものであえると供述し、かつ、本件文書から丙の指紋が顕出されていることからすれば、本件文書は、丙から乙に渡ったものであることが推認できる。

 そして、本件文書のような犯行計画文書を共犯者以外の者が触れることは通常考えられないため、丙も犯罪計画を認識しており、乙と丙が本件犯行を共謀していたことが推認できる。

 これらから、本件文書により「丙の犯行への関与」「乙及び丙の謀議の存在」を立証するに当たっては、本件文書の要証事実は、本件文書の存在及び内容で足り、本件文書の供述内容の真実性は問題にならないことから、本件文書は非供述証拠となり、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用はなく、証拠能力が認められる。

⑵ 本件メモについて

ア 本件メモは、「私が書いたものです」との乙の供述があり、乙の筆跡であることが判明していることから、電話で丙が述べた内容を乙が書き留めた乙の供述書である。

 本件メモは、「丙からtel」「先物取引で会社の金を使い込んだことにする」「金額は500万円」等の記載があり、これらの記載(供述)が真実であれば、丙が本件詐欺に関与し、乙と丙との共謀の事実が立証できることとなる。

 このことから、本件メモの要証事実は、「丙が乙に対し、電話でメモ記載の内容を発信したこと」となる。

 そうすると、丙が乙に対して本当にかかる発信をしたかにつき、本件メモの記載内容(乙の供述内容)の真実性が問題となる。

 よって、本件メモは、乙の公判廷外の供述として、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用を受け、丙の弁護人が証拠とすることに同意しなかった以上(刑訴法326条1項)、証拠能力を欠くことになる。

イ もっとも、刑訴法321条1項3号により証拠能力が認められないか。

 本件メモは、丙の公判において、被告人以外が作成した供述書に当たる(刑訴法321条1項柱書)。

 また、本件メモは、裁判官及び検察官の面前における供述を録取した書面(刑訴法321条1項1号・2号)に該当しないので、刑訴法321条1項3号に該当する書面となる。

 刑訴法321条1項3号により証拠能力が認められるには、同号に記載されいる要件全てを満たす必要がある。

 この点、①乙は勾留中の被告人であり、供述不能といえる状況はないこと、②本件文書がある以上、本件メモは、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとはいえないこと、③本件メモの作成過程は明らかではなく、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに当たらないことから、本件メモは同号要件を満たさず、証拠能力は認められない。

 よって、本件メモの証拠能力は認められない。

3 以上より、本件文書の証拠能力は認められるが、本件メモの証拠能力は否定される。