刑事訴訟法(捜査)

実況見分・検証とは? ~「実況見分と検証の違い(任意捜査と強制捜査)」「実況見分調書と検証調書の証拠能力」を判例などで解説~

実況見分とは?

 実況見分とは、

捜査機関(警察官・検察官・検察事務官)が、五感の作用により、物・身体・場所について、その状態を確認することを目的とする任意による捜査手法

をいいます。

 実況見分の代表的な例は、交通事故における現場見分です。

 交通事故が起こると、警察官が、事故の当事者立会のもとで、事故現場において、事故状況を確認して写真撮影を行うなどします。

検証とは?

 検証とは、

裁判所または捜査機関が、五感の作用により、物・身体・場所について、その状態を確認することを目的とする強制による捜査手法

をいいます(刑訴法128条刑訴法218条)。

 検証は、裁判官の発する令状(検証許可状)の効力で、強制で行うことができる捜査です。

 よって、検証現場において、

  • 人の出入りを禁止すること
  • 強制的に人を退去させること

ができます(刑訴法112条142条113~114条、118~125条)。

実況見分と検証の違い

 実況見分と検証の違いは、以下のとおりです。

任意捜査か強制捜査かが違う

実況見分➡任意捜査

検証➡強制捜査

という違いがあります。

 実況見分は、任意捜査です。

 なので、実況見分を強制で行うことはできません。

 実況見分に立会人や、実況見分現場の管理人が、捜査機関が実況見分を行うことを拒否した場合、実況見分を行うことはできません。

 これに対し、検証は、強制捜査です。

 検証は、裁判官の発する令状(検証許可状)の効力により実施される強制捜査なので、検証の立会人や、検証現場の管理人は、検証が行われることを拒否できず、強制的に検証が実施されます。

 ちなみに、捜査機関が行う検証は、令状(検証許可状)が必要ですが、裁判所が行う検証は、令状(検証許可状)は不要とされます。

 これは、令状を発布する立場にある裁判所が、裁判所自らに対して、検証許可状を発布する必要はないという理由づけができるからです。

実施主体が違う

実況見分➡捜査機関が実施

検証➡裁判所または捜査機関が実施

という違いがあります。

 実況見分は、捜査機関が行うものです。

 これに対し、検証は、捜査機関のほか、裁判所も行うことがあることに違いがあります。

実況見分の実施主体は捜査機関に限られる

 実況見分の実施主体は、捜査機関に限られます。

 捜査機関以外の団体や一般人が実況見分を行っても、それは実況見分になりません。

 この点について、最高裁判例(平成20年8月27日)があり、裁判官は、一般人(元消防士)が作成した火災の燃焼実験報告書について、報告書を作成したのが一般人であることを理由に、実況見分調書として証拠採用することを否定しました。

 なお、この裁判において、前記燃焼実験報告書は、実況見分調書ではなく、鑑定人が作成した書面(刑訴法321条4項)として証拠採用されました。

実況見分調書と検証調書の作成

 実況見分の結果を記した書面を

実況見分調書

といいます。

 検証結果を記載した書面を

検証調書

といいます。

 作成された実況見分調書と検証調書は、裁判で犯罪を証明するための証拠として活用されます。

実況見分調書と検証調書の証拠能力 

 証拠能力とは、

捜査で取得した書面や物を、裁判において、犯罪を証明するための証拠として裁判官に採用してもらえる力

をいいます。

 検証調書は、刑訴法321条3項の規定により、証拠能力が与えられます。

 実況見分調書の証拠能力は、検証調書と同様と見なされ、同じく刑訴法321条3項により証拠能力が与えられます。

 この点については、最高裁判例(昭和35年9月8日)があり、裁判官は、

『刑訴321条3項所定の書面には、捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含するものと解する』

と判示し、実況見分調書は、刑訴法321条3項により証拠能力が与えられることを示しました。

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