刑訴法論文(13)~平成29年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ~
平成29年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ
平成29年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。
この論文からは以下のテーマが学べます。
1⃣ 現行犯逮捕、準現行犯逮捕
2⃣ 公訴事実、訴因、争点逸脱認定
問題
法務省ホームページの「令和29年司法予備試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。
答案
設問1
1 下線部①の現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下法名省略)213条)は適法か。
⑴ 憲法33条は、令状主義の例外として、被逮捕者が「現行犯人」(212条1項)であるときは令状によらないで逮捕できるとしている。
憲法が現行犯人について令状主義の例外を認めるのは、㋐現行犯人は、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であるため、誤認逮捕のおそれがないこと、㋑犯罪を制圧するなど、速やかに犯人を逮捕する必要性が高いことにあると解する。
このことから、現行犯人といえて現行犯逮捕が認められるためには、①犯罪と犯人の明確性、②犯行と逮捕の時間的場所的接着性、③逮捕の必要性(刑事訴訟法規則143条の3)の全ての要件を満たすことが必要であると解する。
⑵ 本件につき、甲を逮捕したのは、犯行から約30分後であり、犯行現場から約2キロメートルと人が歩いて20分程度で移動可能な距離しか離れていない場所であったことから、②犯行と逮捕の時間的場所的接着性の要件は満たす。
本件は、殺人罪という重大犯罪であり、犯人が処罰を免れるために罪証隠滅や逃亡するおそれが高いことから、③逮捕の必要性の要件も満たす。
しかし、甲を逮捕しようとする警察官にとって、甲が本件殺人罪の現行犯人である証拠は、犯行目撃者であるWのから聴取した甲の特徴のみであり、誤認逮捕のおそれがある状況であることから、①犯罪と犯人の明確性の要件は満たさない。
⑶ よって、現行犯逮捕の要件を満たさない。
2 もっとも、準現行犯逮捕(213条、212条2項)の要件を満たさないか。
⑴ 準現行犯逮捕は、212条1項のに規定された現行犯人に求められる現認性及び時間的場所的接着性がなくても、同条2項各号に該当するものが、「罪を行い終わってから間がない」と明らかに認められるときに現行犯人とみなし、無令状での逮捕を認めるものである。
同項各号の事由は、罪を行い終わってから間がないことを推認させる事情を類型化したものであり、犯罪と犯人の明確性を推認させる事情でもある。
⑵ 本件につき、Wは犯行直後は「待て」と言って犯人を追いかけたが、約1分後に見失ったから、逮捕時において「犯人として追呼」していたとはいえないので、1号に当たらない。
また、犯人が用いたサバイバルナイフはVの胸部に突き刺さったままで、甲は凶器などを有していないから、2号に当たらない。
甲の着衣に血痕が付着しているなどの犯罪の顕著な証跡はなく、3号にも当たらない。
甲は、誰何されて逃走しようとしている状況にないので4号にも当たらない。
⑶ よって、準現行犯逮捕の要件を満たさない。
3 以上より、下線部①の逮捕は、現行犯逮捕も準現行犯逮捕のいずれの要件も満たさず、違法である。
設問2
第1 小問1
1 本件公訴事実の訴因は、共謀の日時・場所・内容について具体的な記載はないところ、「罪となるべき事実」(256条3項)を特定したといえるか。
⑴ 「公訴事実」とは、歴史的・社会的事実の中で、検察官が何らかの犯罪に該当すると主張する事実(社会的事実)をいう。
「訴因」とは、上記のような社会的事実(公訴事実)を特定の犯罪に当てはめて、法律的に構成した具体的事実をいう。
検察官に訴因を掲げさせて訴因を明示するのは、審判の対象・範囲を明確にさせ(審判対象識別機能)、被告人の防御に不利益を与えないようにするため(防御範囲明示機能)である。
かかる機能からして、訴因が特定されたといえるためには、①被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足る程度に具体的事実を明らかにしていること、②他の犯罪事実と識別できることが必要であると解する。
⑵ア 本件公訴事実につき、共謀の日時・場所・内容が示されていないが、「罪となるべき事実」の特定はできているといえるか。
共謀は、黙示的なものでも足りるので、必ずしも謀議行為があるとは限らない。
謀議行為がある場合でも、謀議行為は実行行為時の犯罪の共同実行の合意を推認させる間接事実に過ぎないから、謀議行為の日時・場所・内容は、訴因の特定にとって不可欠ではない。
共謀は、犯罪の共同実行の合意であり、共謀は実行行為時に存在すれば足りる以上、構成要件に該当する具体的事実(訴因)として共謀の日時・場所・内容が必要となるものではない。
以上より、公訴事実に共謀の日時・場所・内容についての具体的な記載は不要であり、「共謀の上」との記載で足りる。
イ 本件公訴事実は、犯行日時・場所・主体・客体の全てにおいて、殺人罪の構成要件に該当する具体的事実(訴因)が指摘されており、「①被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足る程度に具体的事実を明らかにしていること」、「②他の犯罪事実と識別できること」のいずれの要件も満たしているので、「罪となるべき事実」の特定はできている。
2 よって、本件公訴事実は、「罪となるべき事実」の特定ができている。
第2 小問2
1 求釈明には、訴因の特定に不可欠な事項に関する釈明(義務的求釈明)とそうではない釈明(裁量的求釈明)がある。
上述のように、共謀の日時・場所・内容は、乙の「罪となるべき事実」の特定のために不可欠な事項ではないから、③の検察官の釈明は、義務的釈明ではなく、被告人の防御の観点から任意になされたものに過ぎない。
よって、③の釈明事項は訴因の内容とならない。
第3 小問3
1 本件では、裁判所は、当事者が平成29年5月18日の共謀の存否を釈明し、この存否を争っているのに、同月11日の共謀を認定して有罪判決を下している。
この点、上述のとおり、共謀の日時を釈明したとしてもこれが訴因の内容を構成することはないから、同月11日の共謀を認定するに訴因変更は不要であるし、訴因逸脱認定(378条3号)の問題は生じない。
2 もっとも、訴因に含まれない事実であっても、被告人の防御に重要な事項について、当事者の前提とする事実と異なる事実を裁判所が認定する場合において、それが被告人に不意打ちとなり、かつ、より不利益となる場合には、裁判所は求釈明(刑事訴訟規則208条1項)等によって争点を顕在化させる措置をとることを要するが、それを行わずに同事実を認定する行為は、争点逸脱認定として違法になる(379条)。
本件の争点は平成29年5月18日の共謀の存否とされ、検察官・弁護人ともにこのことを前提に弁論を展開したのであるから、裁判所が同月11日の共謀を認定するには、当事者に釈明などの措置をとるべきであったのに、これを行っていない。
3 よって、裁判所が平成29年5月11日の共謀を認定して有罪判決を下すことは、争点逸脱認定として、379条の訴訟手続きの法令違反に当たり、違法となる。