刑訴法論文(2)~平成28年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ~
平成28年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ
平成28年司法試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。
この論文からは以下のテーマが学べます。
1⃣ 留め置きの適法性(任意捜査の限界)
2⃣ 接見指定
3⃣ 伝聞証拠
4⃣ 証言の制限、公判前整理手続に付した事件の新たな主張に沿った供述の制限
問題
法務省ホームページの「平成28年司法試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。
答案
設問1
1 本件留め置きは、逮捕として「強制の処分」(刑訴法197条1項ただし書)に当たり、令状なく行われているため違法とならないか。
⑴ 強制処分法定主義・令状主義の趣旨は、捜査の迅速性等の利益を犠牲にしてもなお保護すべき重要な権利・利益を侵害する捜査につき、立法的・司法的コントロールを及ぼそうという点にある。
よって、「強制の処分」とは、相手方の意思に反し、重要な権利・利益を侵害する処分というと解すべきである。
そして、逮捕が強制処分とされるのは、それが被疑者の重要な移動の自由を奪うからである。
そこで、実質逮捕として強制処分に当たるかは、留め置き時間、態様、被処分者の移動の意思の有無等を考慮して、重要な移動の自由を侵害したといえるかという観点から判断すべきである。
⑵ 本件留め置きは、午後11時30分から令状請求を指示した段階の前後において、「純粋に任意捜査として行われている段階」と「強制採尿令状の執行に向けて行われている段階」とでその性質を異にすることから、これを分けて検討すべきである。
まず、令状請求前を検討するに、留め置きの時間は職務質問を開始してから約30分と短時間である。
また、応援警察官4名が臨場しているものの、いずれもパトカー内で待機しており、甲に圧力を加えるようなことはしていない。
さらに、応援パトカーは、Pらのパトカーの後方に止めており、甲車を発進させることを妨げていない。
甲が車を降りて歩き出した時、Pは甲の前に立ちふさがったのみで直接の有形力の行使はない。
かかる態様からすれば、甲の行動の自由の制約は緩やかである。
また、甲は「警察行くくらいなら、ここにいる。」と述べるだけで、移動の意思を明確に示していない。
そうすると、かかる段階で甲の重要な移動の自由が侵害されたということはできない。
次に、令状請求指示後について検討すると、その時間は、Qが令状を受けて現場に戻るまでの5時間という長時間にわたる。
Pは、応援パトカーを甲車の前後各1メートルの位置に挟むように停車させた上、甲車の左右に警察官を配置しており、甲の移動を事実上不可能にしている。
また、午後1時、甲は、弁護士の助言を受けた後、「帰るぞ。」と言って、もはやPの指示に従う意思なく歩き出した時、Pはこれを制止するのみならず、胸部及び腹部を前方に突き出しながら、甲の体を甲車運転席まで押し戻し、「座っていなさい」と言っており、午後4時にも再度同じ対応をとっている
そうすると、Pらは、甲が車という特定の空間から移動できないようにしていると評価できる。
また、令状請求前と異なり、甲は「帰るぞ。」と移動の意思をはっきりと示している。
そうだとすれば、令状請求後においては、甲の重要な移動の自由が強度に制約されていたというべきで、実質逮捕に当たるというべきである。
⑶ よって、令状請求後の留め置き行為は、逮捕状なくされた強制処分として、令状主義に反し違法である。
2 もっとも、前述のように、令状請求前後の留め置きは、職務質問に付随する行政警察活動から捜査に明確に移行したと評価できる点で、別個の行為と捉えることができる。
そこで、いまだ強制処分と評価できない令状請求前の留め置きが任意処分の限界を超えて違法ではないかを別途検討する。
当該留め置きは、甲の移動の自由を一定程度侵害するため、警察比例の原則(刑訴法197条1項前段)に鑑み、必要性・緊急性の下で、相当と認められる範囲にとどまる場合には、適法となる。
甲には目の焦点が合わないなど、覚醒剤使用者特有の様子が存在していた。
また、甲は覚醒剤取締法違反の前科を有していた。
さらに、甲の左腕内側に赤色の真新し注射痕が存在した。
これらの事情から、採尿手続に移行するために甲を現場に留め置く必要性が認められる。
また、採尿によって覚醒剤が顕出される期間は限られているため、留め置きをなす緊急性も認められる。
その上で、留め置きの態様は、歩き出す甲の前に立ち、進路をふさぐというものに過ぎず、有形力は行使されていないし、時間も30分と短時間のものである。
よって、本件留め置きは相当なものである。
以上より、令状請求前における留め置きは、任意処分の限界を越えず、適法である。
設問2
1 本件各措置は、接見指定(刑訴法39条3項本文)に当たり、各措置が「捜査のために必要がある」ためになされたといえるか。
⑴ 接見指定は、「捜査のため必要があるとき」に限りなし得るとされるところ、このように接見指定を限定するのは、接見交通権(刑訴法39条1項)が、被告人・被疑者の弁護人選任権(憲法37条)という憲法上の権利の保障を実現化し、被告人・被疑者の防御の利益を確保する重要な権利だからである。
そこで、「捜査のために必要があるとき」とは、被告人・被疑者の接見交通権という重要な権利の犠牲を正当化できる場合、すなわち、接見を認めることで捜査に顕著な支障を生じる場合に限られるべきと解する。
具体的には、①被疑者の取調べ中である、②まさにこれから被疑者の取調べを行うところである、③被疑者を実況見分や検証に立ち会わせているといった場合が挙げられる。
さらに、接見指定は、「防御の準備するをする権利を不当に制限するようなものであってはならない」(同条3項ただし書)とされる。
特に、逮捕後の初回接見については、外部との連絡手段が遮断されている被疑者にとって、自己の防御の利益を確保する重要な手段となるので、むやにみ制限してはならない。
かかる観点から、初回接見については、弁護人と十分協議した上、できる限り早い段階で接見交通をなしうるよう配慮を尽くす必要があり、かかる配慮を欠いた場合には、「防御の準備をする権利を不当に制限」したものとして、違法となるものと解する。
⑵ 措置①について
Tが接見を申し立てた午前9時50分には、現に甲に対する弁解録取手続の最中であり、Tが希望する午前10時30分からのH警察署での接見を実現するためには、移動の所要時間を考慮すると、弁解録取手続を中断する必要がある。
そうすると、接見指定をしなければ、捜査に顕著な支障が生じるといえ、「捜査のために必要があるとき」に当たる。
指定した日時は、移動の所要時間を考慮して午前11時であり、Tも「仕方ないですね。」と言ってこれを許容している。
これらの事情から、措置①が「防御の準備をする権利を不当に制限」するとはいえない。
よって、措置①は、接見指定として適法である。
⑶ 措置②について
ア 甲は、「実は、お話ししたいことがあります。」と自白をほのめかすような発言をしており、弁解録取手続の終了に引き続き、取調べを行う必要が生じている。
Sが接見指定をなしたのは、自白を得たいと考えたからである。
そうすると、間近に甲の取調べが予定されているといえ、「捜査のために必要があるとき」に当たる。
イ もっとも、本件接見交通権は、甲にとって初回接見に当たる。
にもかかわらず、SはTに対し、「接見は、午後零時30分以降に変更していただきたい。」と一方的に伝えたのみで、電話を切り、その後のTの電話にも出ていない。
そうすると、SはTとできるだけ早く接見をなしうるよう協議をなしたとは評価できない。
また、これに先立ってS自ら午前11時に接見指定を行った以上、これを変更するのであれば相応の配慮を尽くすべきであったといえるのに、これを尽くしたとはいえない。
よって、上記接見指定は、甲の「防御の準備をする権利を不当に制限する」ものといえる。
ウ 以上より、措置②の接見指定は、刑訴法39条3項ただし書に反し、違法である。
設問3
1 本件証言は、「公判期日外における」乙の「供述を内容とする」ものである。
そこで、伝聞証拠として証拠能力が否定されないか(刑訴法320条1項)。
伝聞法則の趣旨は、公判廷外の供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述の過程を経て生成されるため、その各過程で誤りが混入するおそれがあることから、反対尋問による真実性の審査を経ないものについて、原則として証拠能力を否定することで、誤判を防ぐことにある。
かかる趣旨から、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用を受ける「書面」「供述」とは、要証事実との関係で、その供述内容の真実性が問題となるものをいう。
その判断は、要証事実との関係で相対的に決まる。
2 本件公訴事実は、甲への覚醒剤の譲渡であり、これが認められるためには、譲渡の事実のみならず、それが覚醒剤であることを認識していたことが必要である。
乙は、取調べにおいて、「甲に風邪薬をあげたことはあるが、覚醒剤など見たこともない。」と弁解し、甲に譲渡したのが覚醒剤であることの認識を否認している。
公判前整理手続の結果では、乙の覚醒剤の認識の有無が争点となっている。
甲の証言に現れた乙の原供述は、「K通りは警察がよく検問をしているから、遠回りでもL通りから帰れよ。」というものであり、乙の警察との接触を避けろという意思を窺わせるものである。
また、「お前が捕まったら、俺も刑務所行きだから」という乙の現供述は、警察と接触すると逮捕される可能性があることの認識を示している。
よって、かかる乙の原供述は、乙が甲に渡した物が逮捕につながるような禁製品であること、すなわち、乙が覚醒剤であることを認識していたことを推認させるものである。
そうすると、乙の原供述の要証事実は、「乙に覚醒剤であるとの認識があったこと」となり、乙の原供述の内容の真実性の問題とはならない。
3 以上より、甲の証言は伝聞証拠に当たらず、証拠能力が認められる。
設問4
1 刑訴法295条1項は、訴訟関係人のする「尋問」が「相当でないとき」に、これを制限することを許容している。
その趣旨は、迅速かつ充実した証拠調べを実現するために、これを阻害するような尋問の排除を許容する点にある。
公判前整理手続は、刑事裁判の充実・迅速化を図ることを目的とし、第1回公判期日前に、裁判所主催の下、裁判官、検察官、被告人・弁護人が集まり、事件の争点や証拠を十分に整理する話し合いを行い、審理計画を策定する手続である。
公判前整理手続が終了した後は、新たな証拠の証拠調べ請求は、これを無制限に認めると、公判前整理手続で争点や証拠を整理したことの意味がなくなるため、制限される(刑訴法316の32第1項)。
ただし、刑訴法316の32は、新たな証拠の証拠調べ請求を制限する規定であって、公判前整理手続後の新たな主張を制限する規定ではない。
よって、公判期日において、被告人が公判前整理手続ではできていなかった新たな主張に沿った供述をし始めても、それを当然に制限することはできない。
もっとも、被告人に新たな主張に沿った供述を許すことが、公判前整理手続を行った意味を失わせるものと認められる場合には、新たな主張に係る事項の重要性等も踏まえた上で、被告人の供述を刑訴法295条1項により制限することができると解する。
2 公訴事実は乙方で覚醒剤を甲に譲り渡したというものであるところ、乙及び弁護人Uは、公判前整理手続において、裁判所からアリバイ主張の具体化の釈明を受け、「平成27年6月28日は、終日、丙方にいた。」と釈明している。
その結果として、乙方において覚醒剤を譲り渡したかが争点として整理された。
同争点は、「犯行当時、乙は、乙方ではなく、丙方にいた」ことを乙が主張するという整理がされたものと評価できる。
そうすると、Uの「戊方いた」かという尋問は、新たな主張に沿った供述である。
乙にこの新たな主張に沿った供述を許すことが、公判前整理手続を行った意味を失わせるものといえるか。
その判断につき、この新たな主張の重要性等が問題となる。
乙が覚醒剤の譲渡事実自体を否認している本件では、アリバイの主張は犯罪の成否を左右し、乙の防御活動の上で重要な事項である。
また、乙は、被告人質問において、「前回の公判期日後、戊から手紙が届き、丙方ではなく、戊方でテレビを見たことを思い出しました。」と供述しており、公判前整理手続で戊方にいたこと主張できなかった理由を述べており、これはやむを得ない事情といえる。
これらを考慮すると、乙にこの新たな主張に沿った供述を許すことは、公判前整理手続を行った意味を失わせるものとはいえない。
よって、刑訴法295条1項の訴訟関係人のする「尋問」が「相当でないとき」に当たらないため、乙の本件尋問を制限することはできない。