刑訴法論文(3)~平成29年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ~
平成29年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ
平成29年司法試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。
この論文からは以下のテーマが学べます。
1⃣ 捜索差押え
- 必要な処分
- 捜索差押許可状を事後呈示
- 場所に対する捜索差押許可状の効力が第三者が所持している物に及ぶか
- 場所に対する捜索差押許可状の効力が第三者の身体にも及ぶか
2⃣ 刑訴法328条の証明力を争うための証拠
問題
法務省ホームページの「平成29年司法試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。
答案
設問1
1 捜査①
⑴ Qらが窓ガラスを割って甲方に入った行為は「必要な処分」(刑訴法222条1項、111条1項)として適法か。
「必要な処分」として適法かどうかは、捜査比例の原則に基づき、捜索差押えの実行性を確保するために必要かつ相当であるかという観点から判断する。
甲に対する被疑事実は、覚醒剤取締法違反であるところ、覚醒剤はトイレに流すなどして証拠隠滅が容易であることから、証拠保全のため、呼び鈴を鳴らした直後には甲方に立ち入る必要があった。
しかし、甲方の玄関は、ドアチェーンがかかっている可能性が高く、速やかに玄関から室内に突入できない可能性があった。
そのため、玄関以外の場所から入る必要があった。
これらの事情からすると、ベランダの窓ガラスを割ったことは、捜索差押えの実効性を確保する手段として合理的であり、必要なものであったと認められる。
また、突入に対し、窓ガラス1枚を割ったのみであり、そのほかに損壊した物はないことから、捜査の必要性に照らして、侵害の程度は軽微であったといえ、突入方法は相当なものであったと認められる。
よって、Qらが窓ガラスを割って甲方に入った行為は「必要な処分」として適法である。
⑵ 捜索差押許可状を事後呈示したことは適法か。
捜索差押許可状(刑訴法222条1項、110条)の呈示は、手続の公正を担保するとともに、処分を受ける者の人権に配慮する趣旨で行われる。
通常、捜索・差押えは、捜索差押許可状を捜索・差押えを受ける者に呈示した後に実行される。
しかし、捜索差押許可状を捜索・差押えを受ける者に呈示してから捜索・差押えに着手したのでは、捜索・差押えを受ける者に証拠を処分されるなどの恐れがある場合は、令状の呈示を事後的に行ってもよいと解する。
本件被疑事実は、覚醒剤取締法違反であり、証拠物である覚醒剤はトイレ等に流せば短時間で証拠隠滅が完了することから、捜索差押許可状を提示してから捜索・差押えに着手したのでは、簡単に証拠を処分されてしまう。
よって、捜索差押許可状を事後呈示にする必要があった。
したがって、捜索差押許可状を事後呈示したことは適法である。
2 捜査②
⑴ 乙が所持するハンドバッグを捜索した行為は適法か。
場所に対する捜索差押許可状の効力が第三者が所持している物に及ぶかが問題になる。
令状主義(憲法35条、刑訴法218条)の趣旨は、捜査について事前の司法審査をし、捜査機関の恣意的な捜査により被処分者のプライバシーなどが侵害されることを防止する点にある。
裁判官の令状審査は、場所に対する捜索差押許可状については、場所の管理権者ごとになされるため、捜査対象場所と同一の管理権に属する「物」については、場所のプライバシーに包摂されるものとして場所に対する令状の効力が及ぶ。
捜査対象場所において、「物」を第三者が所持していた場合、捜索差押対象物である蓋然性が高いのに捜索差押えができないとするのは妥当ではない。
そこで、第三者が所持してた物であっても、捜査対象場所と同一の管理権に属する「物」であれば、捜索差押許可状の効力が及び、捜索差押えすることができると解する。
乙は甲の内妻であり、甲方に居住する者であることから、乙の所持するハンドバッグは甲の管理権が及んでいるといえる。
よって、同ハンドバッグに捜索差押許可状の効力が及ぶことから、同ハンドバッグを捜索した行為は適用である。
⑵ 次に、乙のハンドバッグをつかんで取り上げた行為は「必要な処分」として適法か。
「必要な処分」として適法かどうかは、捜査比例の原則に基づき、捜索差押えの実行性を確保するために必要かつ相当であるかという観点から判断する。
捜索差押えの際に被処分者から抵抗されることは容易に想定され、これを一切排除できないとするのは妥当ではない。
乙は、ハンドバッグが捜索されることに抵抗しているため、Pは捜索をするための実力行使する必要がある。
また、実力行使の内容も、ハンドバッグにして触れておらず、必要最小限度で相当性が認められる。
よって、「必要な処分」として適法である。
3 捜査③
⑴ 場所に対する捜索差押許可状で第三者の身体を捜索することは適法か。
場所に対する捜索差押許可状の効力が第三者の身体にも及ぶかが問題になる。
場所に対するプライバシーと人の身体に対するプライバシーは異質であることから、そこに包摂させることはできない。
よって、原則として、場所に対する令状をもって人の身体を捜索することはできない。
しかし、捜索すべき場所に現在する第三者が、差し押さえるべき物をその着衣・身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、許可状の目的とする差押を有効に実現するためにはその者の着衣・身体を捜索する必要が認められる場合には、その者の着衣・身体にも許可状の効力が及ぶものと解する。
丙の右ポケットは膨らんでおり、時折右ポケットに触れるなど右ポケットを気にして、丙は落ち着きがない様子であった。
また、Qがポケットの中身について尋ねても答えず、トイレに入ろうとした。
これらの事情からすると、丙はポケットの中に覚醒剤を隠匿しており、覚醒剤をトイレに流すなどの証拠隠滅を図ろうとしていたと推測される。
よって、丙は、差し押さえるべき物を着衣に隠匿所持している疑があり、差押を有効に実現するためには丙の者の着衣を捜索する必要が認められ、丙の着衣にも許可状の効力が及ぶといえる。
したがって、丙のズボンのポケットに手を入れ、そこから5枚の断片を取り出した行為は適法である。
⑵ また、Qが丙の右手をつかんで引っ張った行為は、トイレに行こうとする丙の抵抗を排除するために必要であり、それ以上の有形力を行使していないため相当性も認められる。
したがって、「必要な処分」として適法である。
設問2
1 小問1
下線部④で請求された各証拠を刑訴法328条により証拠として取り調べる旨の決定をすることができないか。
刑訴法328条は、刑訴法321条ないし324条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができるとする規定である。
これは、伝聞証拠として証拠能力のない証拠であっても、被告人・証人等の法廷供述の証明力を争うためであれば、これを証拠とすることができることを定めたものである。
刑訴法328条の証明力を争うための証拠(以下、「弾劾証拠」という。)として使用される証拠は、主に、供述書、供述録取書、伝聞供述の伝聞証拠である。
弾劾証拠が用いられる具体的な状況は、証人尋問を行い、その証人尋問での証人の証言が真実ではないと疑われる場合に、刑訴法328条を使って真実が記載されたその証人の供述書、供述録取書又は伝聞供述を裁判官に提出し、その証人の証人尋問での供述が真実ではないことを主張する場合である。
以下、各証拠について検討する。
⑴ 証拠1(P作成の捜査報告書、甲の署名・押印なし)
証拠1は、甲の供述を録取した書面であり、「丁は覚醒剤の密売には関与していない」との記載が甲証言と矛盾しており、自己矛盾供述に当たる。
しかし、証拠1は、甲の署名・押印がない。
供述者の署名・押印のない書面は、録取の正確性の担保がないため、弾劾証拠として使用できないと解する。
証拠1は、供述者である甲の署名・押印がなく、甲の供述の録取の正確性の担保がないため、弾劾証拠として使用できない。
よって、裁判所は、証拠1を取り調べる旨の決定をすることはできない。
⑵ 証拠2(P作成の供述録取書、甲の署名・押印あり)。
証拠2は、甲の供述を録取した供述録取書であり、「丁から覚醒剤を仕入れていない」旨の供述、「丁に覚醒剤の売上金を分配していない」旨の供述であり、甲証言と矛盾しており、自己矛盾供述に当たる。
甲の署名・押印があり、録取の正確性が担保されているため、弾劾証拠として使用できる。
したがって、裁判所は、証拠2を取り調べる旨の決定をすることはできる。
⑶ 証拠4(Q作成の供述録取書、乙の署名・押印あり)
刑訴法328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものである。
よって、弾劾証拠は、証明力を争う対象となる法廷供述者自身の法廷外における自己矛盾の供述に限られる。
つまり、法廷供述者以外のほかの人の書面・供述を、証明力を争う対象となる法廷供述者自身の法廷供述にぶつけることはできない。
証拠4は、乙の供述録取書であり、甲のものではないから、弾劾証拠として使用できない。
よって、裁判所は、証拠4を取り調べる旨の決定をすることはできない。
2 小問2
証拠3(R作成の供述録取書、甲の署名・押印あり)につき、甲の証言の証明力を回復させるために弾劾証拠として使用できるか。
弾劾証拠は、供述証拠の証明力を減殺するためのもののみでなく、弾劾証拠により減殺された供述証拠の証明力を回復するためのものをも含むと解する。
このように解することが、攻撃防御に関する当事者対等・公平という刑訴法の原則、さらに真実の究明という刑訴法の理念にも適合するためである。
証拠3は、丁が覚醒剤密売グループのトップであることなど、丁が犯行の主犯であり、犯行に深くかかわっていることなどを供述するものである。
よって、証拠3は、弾劾証拠により減殺された甲証言を回復することができる弾劾証拠となる。
よって、裁判所は、証拠3を取り調べる旨の決定をすることができる。