前回の記事の続きです。
公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。
前回の記事では、証拠調べ手続のうち、
- 証人尋問(証人が召喚に応じない場合の罰則と勾引、証人の証言拒絶権など)
を説明しました。
今回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、
- 証人尋問の順序(主尋問→反対尋問→再主尋問)
- 証人尋問の方法(個別尋問、一問一答主義)
を説明します。
証人尋問の順序(主尋問→反対尋問→再主尋問)
証人尋問の順序は、刑事訴訟法上は、裁判官が先に証人を尋問し、その後で検察官、被告人又は弁護人が証人を尋問するのを原則とし、検察官、被告人又は弁護人が裁判官よりも先に尋問するのを例外として規定しています(刑訴法304条)。
しかし、予断排除の原則に基づき、事件を白紙で臨んでいる裁判官が、検察官、被告人又は弁護人よりも先に証人を尋問することは困難です。
そのため、実際の公判では、検察官、被告人又は弁護人が先に証人を尋問し、その後で裁判官が証人を尋問する方法が採られています。
検察官、被告人又は弁護人が先に証人を尋問をすることを
交互尋問
といいます。
交互尋問は、
- 主尋問(証人の尋問を請求した者が行う尋問)
- 反対尋問(相手方が行う尋問)
- 再主尋問(主尋問者が再度行う尋問)
の順で行われます(刑訴法規則199条の2)。
例えば、検察官が証人の尋問を請求した場合、
- 主尋問→検察官が行う
- 反対尋問→被告人又は弁護人が行う
- 再主尋問→検察官が行う
となります。
主尋問とは?
主尋問で尋問できる事項
主尋尋問は、
- 立証すべき事項
- 立証すべき事項に関連する事項
- 証人の供述の証明力を争うために必要な事項
についての尋問を行うことができます(刑訴法規則199条の3第1項・2項)。
③の「証人の供述の証明力を争うために必要な事項」の尋問は、
- 証人の観察、記憶又は表現の正確性などの証言の信用性に関する事項
- 証人の利害関係、偏見、予断などの証人の信用性に関する事項
について行われます。
ただし、この時、みだりに証人の名誉を害する事項に及ぶことは許されません(刑訴法規則199条の6)。
原則として誘導尋問は許されないが、誘導尋問が許される場合もある
主尋問では、誘導尋問は原則として許されませんが、以下の①~⑦の場合には、誘導尋問をすることが許されます(刑訴法規則199条の3第3項)。
※ 誘導尋問とは、「~ですよね」と質問し、相手に「はい、そうです」と言わせるような、相手の言葉を引き出さず、質問者の質問内容がそのまま相手の答えになるように答えを誘導する尋問のやり方をいいます。
- 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先立って明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき
- 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき
- 証人の記憶が明らかでない事項について、その記憶を喚起するため必要があるとき
- 証人が主尋問者に対して、敵意又は反感を示すとき
- 証人が証言を避けようとする事項に関するとき
- 証人が前の供述と相反するか、又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき
- その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき
反対尋問とは?
反対尋問で尋問できる事項
反対尋問は、
- 主尋問に現れた事項
- 主尋問に現れた事項に関連する事項
- 証人の供述の証明力を争うために必要な事項
についての尋問を行うことができます(刑訴法規則199条の4第1項)。
必要があるときは、誘導尋問が許される
反対尋問では、必要があるときは、誘導尋問が許されます。
ただし、不相当な誘導尋問は制限されます(刑訴法規則199条の4第3項・4項)。
反対尋問者は、裁判官の許可を得て、反対尋問の機会に、「自己の主張を支持する新たな事項」についても尋問することができる
反対尋問者は、反対尋問の機会に、
- 自己の主張を支持する新たな事項(主尋問に現れていない事項)
についても尋問することができます。
ただし、この場合は、裁判官の許可を得て、尋問をする必要があります(刑訴法規則199条の5第1項)。
しかも、この場合は、その尋問は「主尋問」とみなされるので、原則として誘導尋問はできません(刑訴法規則199条の5第2項)。
この場合に、例外として誘導尋問が許されるのは、刑訴法規則199条の3第3項に規定する
- 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先立って明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき
- 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき
- 証人の記憶が明らかでない事項について、その記憶を喚起するため必要があるとき
- 証人が主尋問者に対して、敵意又は反感を示すとき
- 証人が証言を避けようとする事項に関するとき
- 証人が前の供述と相反するか、又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき
- その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき
の場合になります。
再主尋問とは?
再主尋問で尋問できる事項
再主尋問は、
- 反対尋問に現れた事項
- 反対尋問に現れた事項に関連する事項
についての尋問を行うことができます(刑訴法規則199条の7第1項)。
再主尋問者は、裁判官の許可を得て、再主尋問の機会に、「自己の主張を支持する新たな事項」についても尋問することができる
再主尋問者は、再主尋問の機会に、裁判官の許可を受けて、
- 自己の主張を支持する新たな事項(主尋問に現れていない事項)
についても尋問することができます(刑訴法規則199条の7第2項・3項)。
原則として誘導尋問は許されないが、誘導尋問が許される場合もある
再主尋問は、主尋問の例によります(刑訴法規則199条の7第2項)。
なので、再主尋問でも、主尋問と同様に、原則として誘導尋問はできません(刑訴法規則199条の5第2項)。
例外として誘導尋問が許されるのは、刑訴法規則199条の3第3項に規定する
- 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先立って明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき
- 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき
- 証人の記憶が明らかでない事項について、その記憶を喚起するため必要があるとき
- 証人が主尋問者に対して、敵意又は反感を示すとき
- 証人が証言を避けようとする事項に関するとき
- 証人が前の供述と相反するか、又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき
- その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき
の場合になります。
尋問は、証人ごとに各別に行う「個別尋問」が原則
証人尋問の方法は、
- 証人ごとに各別に行う「個別尋問」が原則
です(刑訴法規則123条1項)。
個別尋問は、ほかの証人がいた場合に、ほかの証人とは一緒に尋問を行わない尋問方法です。
例えば、後に尋問を行う証人が法廷内にいて、前に証言した証人の話を聞いていた場合、それが予断や先入観となり、後に尋問を行う証人の証言が歪められてしまうおそれがあります。
そのため、後に尋問すべき証人が法廷内にいる場合は、裁判官は、その証人の退廷を命じなければなりません(刑訴法規則123条2項)。
ただし、必要があるときは、証人と他の証人や被告人と対質させて行う「対質尋問」もできるとされます(刑訴法規則124条)。
発問と証人の回答は一問一答で行われる(一問一答主義)
証人に対する発問は、できる限り個別的かつ具体的で簡潔に行わなければならないとされます(刑訴法規則199条の13条1項) 。
具体的には、質問者が簡潔に一つの質問をして、それに対し、証人が簡潔に答えを述べるというように、簡潔な質問と簡潔な回答が細かく繰り返し行われる方法がとられます。
これを
一問一答主義
といいます。
次回の記事に続く
次回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、
- 書面・物・図面等を示しての証人尋問のルール
- 証人に尋問できる事項、できない事項
- 裁判官による証人尋問の制限と介入
を説明します。