刑事訴訟法(公判)

公判の流れ⑦~「証拠調べ請求において、人証(証人・鑑定人・通訳人・翻訳人)の人定事項を秘匿するなどして保護するための具体的な手続」を説明

 前回の記事の続きです。

 公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。

 前回の記事では、証拠調べ手続のうちの

証拠調べ請求の方法

を説明しました。

 今回の記事では、証拠調べ請求における

証拠調べ請求において、人証(証人・鑑定人・通訳人・翻訳人)の人定事項を秘匿するなどして保護するための具体的な手続

を説明します。

証拠調べ請求において、人証(証人・鑑定人・通訳人・翻訳人)の人定事項を秘匿するなどして保護する規定

 証拠調べ請求において、

  • 人証(証人・鑑定人・通訳人・翻訳人)の尋問を請求するに当たっては、相手方(例えば、検察官が証拠調べ請求する場合の相手方は被告人・弁護人)に、証人となる者の氏名・住居を知る機会を与える
  • 証拠書類・証拠物の取調べを請求するに当たっては、相手方に証拠書類・証拠物を閲覧する機会を与える

ことが必要になります(刑訴法299条1項本文)。

 検察官が、被告人・弁護人に対し、証人・鑑定人・通訳人・翻訳人(以下、証人等といいます)となる者の氏名・住居を知る機会を与えることや、証拠書類・証拠物を閲覧させることで、被告人・弁護人は、証人等の人定情報を知るところになります。

 被告人・弁護人が証人等の人定情報を知ることで、証人等に対し、加害行為などがなされるおそれがある場合、検察官は、被告人・弁護人に対し、以下の①、②の措置をとることができます。

① 証人等の身体・財産への加害行為の防止のための配慮要請

 刑訴法299条1項に基づき、人証の氏名・住居を知る機会又は証拠書類等を閲覧する機会を与えるに当たり、検察官又は弁護人は、人証若しくは証拠書類等にその氏名が記載・記録されている者、若しくはこれらの親族の身体若しくは財産への加害行為又はこれらの者を畏怖困惑させる行為がなされるおそれがあるときには、相手方に対し、その旨を告げ、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が、犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人を含む関係者に知られないようにすることなど、これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができます(刑訴法299条の2316条の23)。

② 証拠開示の際の被害者特定事項の秘匿要請

 検察官は、法299条1項に基づき、人証の氏名及び住居を知る機会又は証拠書類等を閲覧する機会を与えるに当たり、「被害者特定事項」が明らかにされることで、「被害者等」の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え、若しくはこれらの者を畏怖・困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができます(刑訴法299条の3本文316条の23)。

 「被害者特定事項」とは、

氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項

をいいます(刑訴法290条の2)。

 「被害者等」とは、

被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹

をいいます(刑訴法290条の2)。

 また、被告人に知られないようにすることを求めることについては、被害者特定事項のうち、起訴状に記載された事項以外のもの(例えば、被害者の供述調書に記載されている被害者の生年月日や連絡先など)に限ります(刑訴法299の3ただし書)。

証拠調べ請求において、人証(証人・鑑定人・通訳人・翻訳人)の人定事項を秘匿するなどして保護するための具体的な手続

 検察官は、弁護人に対し、上記のとおり、

  1. 証人等の身体・財産への加害行為の防止のための配慮要請
  2. 証拠開示の際の被害者特定事項の秘匿要請

を行えるところ、それを実行するための具体的な手続は、以下のように定められています。

1⃣ 検察官による証人等の氏名・住居を被告人に知らせないなどする措置(刑訴法299の4第1項・2項)

 検察官は、刑訴法299条1項に基づき、被告人・弁護人に対し、証人等の氏名・住居を知る機会を与えるべき場合において、証人等、若しくはその親族に対して加害行為等がなされるおそれがあるときは、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、

  1. 弁護人に対し、当該氏名及ひ住居を知る機会を与えた上で、証人等の氏名・住居について、被告人に知らせてはならない旨の条件を付し、又は被告人に知らせる時期、若しくは方法を指定する措置をとることができる(刑訴法299条の4第1項
  2. ①の措置によっては加害行為等を防止できないおそれがあるときは、被告人・弁護人に対し、証人等の氏名又は住居を知る機会を与えないこととした上で、氏名にあってはこれに代わる呼称を、住居にあってはこれに代わる連絡先をそれぞれ知る機会を与える措置をとることができる(刑訴法299条の4第2項

とされます。

2⃣ 検察官による証拠書類・証拠物に記載された証人等の氏名・住居を被告人に知らせないなどする措置(刑訴法299の4第3項・4項)

 検察官は、刑訴法299条1項に基づき、証拠書類・証拠物を閲覧する機会を与えるべき場合において、検察官請求証人等(証拠書類・証拠物に氏名・住居が記載され、若しくは記録されている者であって検察官が証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人として尋問を請求するもの若しくは供述録取書等の供述者)若しくはその親族に対して加害行為等がなされるおそれがあるときは、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、

  1. 弁護人に対し、証拠書類・証拠物を閲覧する機会を与えた上で、検察官請求証人等の氏名・住居を被告人に知らせてはならない旨の条件を付し、又は被告人に知らせる時期若しくは方法を指定する措置をとることができる(刑訴法299条の4第3項
  2. ①の措置によっては加害行為等を防止できないおそれがあるときは、被告人及び弁護人に対し、証拠書類等のうち、検察官請求証人等の氏名又は住居が記載され又は記録さている部分について閲覧する機会を与えないこととしたで、氏名にあってはこれに代わる呼称を、住居にあってはこれに代わる連絡先を知る機会を与える措置をとることができる(刑訴法299条の4第4項

とされます。

裁判所による裁定(可否の判断)

 裁判所は、検察官が上記1⃣、2⃣の措置をとった場合において、刑訴法299条の5第1項1~3号のいずれかに該当すると認めるとき(証人等への加害のおそれがないなどと認めるとき)は、被告人又は弁護人の請求により、決定で、1⃣、2⃣の措置の全部又は一部を取り消さなければならないとされます(刑訴法299条の5第1項)。

3⃣ 裁判所による証人等の氏名・住居を被告人に知らせないなどする措置

 上記1⃣、2⃣は、検察官による証人等の氏名・住居を被告人に知らせないなどする措置を定めたものです。

 検察官のほか、裁判所も、そのような措置を採ることができることが以下のとおり定められています。

① 弁護人が証拠書類・証拠物を閲覧・謄写する際に、証人等の氏名・住居を被告人に知らせないなどする措置

 裁判所は、上記1⃣、2⃣の措置に係る者又はその親族に対して加害行為等がなされるおそれがある場合において、検察官及び弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、弁護人が訴訟に関する書類又は証拠物を閲覧・謄写する(刑訴法40条1項)に当たり、当該訴訟書類又は証拠物に記載され、又は記録されている当該措置に係る者の氏名又は住居について、その部分の閲覧若しくは謄写を禁じ、又は被告人に知らせてはならない旨の条件を付する等の措置をとることができるとされます(刑訴法299の6第2項)。

② 被告人が公判調書を閲覧・謄写する際に、証人等の氏名・住居を被告人に知らせないなどする措置

 裁判所は、上記1⃣、2⃣の措置に係る者又はその親族に対して加害行為等がなされるおそれがある場合において、検察官及び弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、被告人が公判調書の閲覧・謄写をするに当たり(刑訴法49条)、当該措置に係る者の氏名又は住居について、その部分の閲覧を禁じる等の措置をとることができるとされます(刑訴法299の6第3項)。

4⃣ 弁護十会に対する証人等の氏名・住居を被告人に知らせないなどする処置請求

 上記1⃣~3⃣の検察官と裁判所がとり得る措置について、その実効性を担保するため、検察官又は裁判所は、弁護人による条件違反があったときは、弁護士である弁護人については、当該弁護士の所属する弁護士会又は日本弁護士連合会に通知し、適当な処置をとるべきことを請求することができます(刑訴法299条の7第1項・2項)。

 そして、その請求を受けた者は、そのとった処置をその請求をした検察官又は裁判所に通知しなければならないとされます(刑訴法299条の7第3項)。

上記1⃣~4⃣の措置は、公判前整理手続・期日間整理手続に準用される

 上記1⃣~4⃣の証人等の氏名・住居の開示に係る措置に関する規定(刑訴法299条の4567)は、公判前整理手続期日間整理手続に準用されます(刑訴法316の23第2項316条の28第2項)。

次回の記事に続く

 次回の記事では、証拠調べ請求において、

  • 検察官は手持ちの証拠の全てを証拠調べ請求する必要はない
  • 検察官が必ず証拠調べ請求しなければならない証拠がある
  • 反証となる証拠の証拠調べ請求

を説明します。

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