前回の記事の続きです。
- 公訴事実とは?
- 訴因とは?
- 公訴事実と訴因との関係
を説明しました。
今回の記事では、
- 公訴事実には訴因を明示して記載しなければならない(訴因の特定)
- 公訴事実に訴因を明示しないと公訴棄却の判決が言い渡される
- 公訴事実に訴因が明示されず、公訴棄却の判決が言い渡されても、公訴提起により公訴時効は停止する
- 訴因を明示するのは被告人の防御範囲を明確にするためである
- 裁判所は、訴因と異なる事実を認定することはできない(訴因の拘束力)
を説明します。
公訴事実には訴因を明示して記載しなければならない(訴因の特定)
検察官は、事件を裁判所に起訴する(公訴を提起する)に当たり、起訴状を裁判所に提出します(刑訴法256条1項)。
起訴状には、「公訴事実」を記載しなければならなりません(刑訴法256条2項2項)。
そして公訴事実には、「訴因」を明示して記載しなければなりません。
訴因の明示は、できる限り、
日時・場所・方法を公訴事実に記載し、罪となるべき事実を特定する方法
で行う必要があります(刑訴法256条3項)。
日時・場所・方法を公訴事実に記載し、罪となるべき事実を特定することを「訴因の特定」といいます。
公訴事実に訴因を明示しないと公訴棄却の判決が言い渡される
起訴状に記載する公訴事実の訴因が特定しておらず、しかも、それが補正・追完を許さない程度のものであるときは、「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効である」として、判決で公訴が棄却されます(刑訴法338条4項)。
公訴事実に訴因が明示されず、公訴棄却の判決が言い渡されても、公訴提起により公訴時効は停止する
起訴状の公訴事実に記載する訴因が特定していないため、判決で公訴が棄却された場合であっても、起訴状の公訴事実の記載が、特定の事実について検察官が訴追の意思を表明したものと認められるときは、その事実と公訴事実を同一にする範囲において、公訴の提起は公訴時効の進行を停止させる効力を有します(刑訴法254条)(最高裁決定 昭和56年7月14日)。
訴因を明示するのは、被告人の防御範囲を明確にするためである
検察官に訴因を掲げさせて訴因を明示するのは、審判の対象・範囲を明確にさせ、
被告人の防御に不利益を与えないようにするため
です(最高裁判決 昭和29年1月21日)。
検察官の被告人に対する「責任追及の的」を明確にすることにより、被告人が何について防御すればよいのかを明確に認識できるようにし、被告人が防御に集中できるようにすることが求められます。
裁判所は、訴因と異なる事実を認定することはできない
検察官に訴因を掲げさせるのは、審判の対象・範囲を明確にさせ、 被告人の防御に不利益を与えないようにするためです。
その結果、裁判所は、検察官の掲げた訴因に拘束されることになります。
公訴事実の同一性の範囲内にある事実であっても、訴因と異なる事実を認定することは許されないルールになっています。
例えば、検察官が窃盗罪の訴因を掲げて起訴しているのに、裁判官が判決になっていきなり横領罪の事実を認定することはできません。
これを許せば、被告人は、 予期しない訴因で有罪判決を受けるおそれがあり、被告人が防御を全うすることができないためです。
これを「訴因の拘束カ」といいます。
次回の記事に続く
次回の記事では、訴因変更について説明します。