刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(19) ~暴行の程度②「公務執行妨害罪の暴行に当たるとされた事例」を解説~

 前回の記事の続きです。

公務執行妨害罪の暴行に当たるとされた事例

 公務執行妨害罪(刑法95条第1項)における暴行の「暴行の程度」は、公務執行の妨害となるべきものであれば足り、それ以上何の限定もありません。

 具体的に、どのようなものが公務執行妨害罪の暴行に当たるかどうかの理解は、判例を見ていくのがよいです。

 裁判において、公務執行妨害罪の暴行に当たるとされた事例として、以下のものがあります。

公務員に対する直接暴行の事例

最高裁決定(昭和33年9月30日)

 警備中の警察官に対する1回だけの瞬間的な投石行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

名古屋高裁判決(昭和27年9月24日)

 手で殴ろうとしたが、被害者の機敏な動作による避難のため、その頭部をかすめたにすぎない場合について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

 この判決で、裁判官は、

  • 相手方の自由に対し、不正な影響を与え、その自由行動を阻害する作用をなす以上、この種の行為は公務執行妨害罪の構成要件たる暴行と解し得べきことは論を俟たない

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和33年6月30日)

 警察官に対し、陶器製のまね猫を振り上げて殴りかかる行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

東京高裁判決(昭和55年10月21日)

 警察官が規制を行うのために接近してきたのに対し、警察官に向かう姿勢で角材を振り上げた行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

 この判決で、裁判官は、

  • 公務執行妨害罪における「暴行」は、とりわけて積極的直接的な暴行であることを要するものでなく、犯人が単に逮捕を免れるという消極的な意図で逮捕官憲の身体に向かってする一過的偶発的な暴力が、かつ、それが官憲の身体に向けられている以上は、結果的にその身体に直接の打撃を及ぼすに至らない場合であっても、なお右にいう「暴行」に該当する

と判示しました。

東京高裁判決(平成19年2月22日)

 職務質問後、交番に戻ろうとした警察官の顔面を平手で1回殴る行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

東京高裁判決(昭和29年3月9日)

 公判中の検察官の肩や手をつかみ、検察官を席から引っ張り出そうとした行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

福岡高裁判決(昭和35年3月2日)

 ピケ排除に当たった民営化前の鉄道公安職員をスクラムにより押し返す行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

東京高裁判決(昭和34年6月29日)

 職務質問のため自動車を停止させようとしてその車のドアを両手で掴んだ警察官の手を振り払おうとした上、時速約25 キロメートルで進行を続け、約175メートル引きずった行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

大阪高裁判決(昭和40年10月28日)

 自動車運転者が、巡査の停車要求に従わず、逃走するため加速進行し、自動車のドアをつかんでいる巡査を引っ張り転倒させた行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

高松高裁判決(昭和35年10月26日)

 巡査が、被告人運転の自動三輪車のステップに足を乗せハンドルを握っている被告人の左手を抑え、下車するよう要求したが、逃走を企て発車し、巡査の手を払いのけて車外に振り落した行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

福岡高裁判決(昭和32年4月13日)

 警察官が暴行の準現行犯人刑訴法212条2項)を逮捕しようとした際、警察官と犯人の間に割って入り、警察官を犯人から引き離すべく、上体や手で押した行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

大阪高裁判決(昭和53年12月7日)

 爆発物を投てきして爆発させ、公務の執行を妨害する場合、投てきから爆発までの全過程が公務執行妨害罪における暴行に当たるとしました。

最高裁判決(昭和53年6月29日)

 民営化前の電報局長の耳もとで、ガソリンの空缶を4、5回激しく連打する行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

最高裁判決(平成元年3月9日)

 罵声を浴びせながら一方的に抗議する過程において、丸めたパンフレットを県職員の顔面付近に突きつけて、その先端をあごに触れさせ、県職員の座っているいすを揺さぶった行為及び県職員がいすから立ち上がるのを阻止するため、その手首を握った行為は、いずれも公務執行妨害罪にいう「暴行」に当たるとしました。

東京高裁判決(平成15年2月25日)

 留置管理係の警察官の顔面等に、留置施設内の便器からコップでくみ上げた汚水を2回金網越しに浴びせかける行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

公務員に対する間接暴行の事例

大審院判決(明治37年7月5日)

 税務署職員が、職務上、徳利を取り上げてその内容物について訊問する際、徳利を腕力により奪い取って破砕する行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

 この判決で、裁判官は、

  • 刑法第139条(現行法:刑法95条)にいわゆる暴行は、必ずしも官吏の身体に対し、直接にこれを加えることを要せず
  • 官吏その職務を執行するに当たり、苟も暴行をもって、その官吏に抗拒したるときは、直接たると間接たるとを問わず、官吏の職務執行妨害罪を構成す

と判示しました。

最高裁判決(昭和26年3月20日)

 地方専売局事務官が押収してトラックに積み込んだ煙草を街路上に投げ捨てる行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

最高裁判決(昭和28年8月18日)

 税務署職員が差押物件を搬出しようとするのを妨害するため、入口に及び空樽等を積み重ねた行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

最高裁判決(昭和33年10月14日)

 税務署係員らが、許可状により現場を捜索して差し押さえた密造の疑いある焼酎入りを運搬して引き揚げるため、自動車にこれを積載した際、でこれを破砕し焼酎を流失させる行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

最高裁決定(昭和34年8月27日)

 逮捕現場で差し押さえた覚せい剤注射液入りアンプルを足で踏みつけ損壊した行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

高松高裁判決(昭和25年7月5日)

 収税官吏が差し押さえたかめ3個及びビン2本を路傍に置き、これらを積んで持ち帰るため、その場所から約20メートル離れた見通しのきく箇所で、小型自動車の方向転換をしていた際、まさかりで、これらのかめ及びビンを打ち砕いて、その内容物を流出させた行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

大阪高裁判決(昭和27年5月27日)

 収税官吏の捜索押収の現場において、収税官吏らの制止を排除し、差押えに係る密造酒入りのびんその他の押収物を積載した三輪自動車に乗り込み、その押収物を取って車内に投げつけ又は足で蹴って破砕流失させた行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

広島高裁判決(昭和38年3月27日)

 差押密造酒の容器を倒してこぼした行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

仙台高裁秋田支部判決(昭和31年7月3日)

 警察官及ひ税務署職員が、国税犯則取締事件の証拠物として酒1個を差し押さえ運搬しようとしたところ、その酒樽や、既に証拠品として押収し、トラックに積載監視中の2個、酒樽1個及び酒粕在中のりんご箱1箱をトラックから引きずりおろし、まさかりをもって各物件を破壊した行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

広島高裁岡山支部判決(昭和31年11月20日)

 巡査が覚せい剤注射液30本を差し押さえ、整理のため、巡査がこれを差押場所の出入口に置いていたのを足で踏みつけ、その中の21本を損壊した行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

大審院判決(明治42年6月10日)

 賭博犯人として引致され、派出所事務室において取調中の被疑者の手をつかみ、室外に引き出そうとし、警察官の被疑者の取調べを中止させた行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

 この判決で、裁判官は、

  • 刑法第95条にいわゆる暴行とは、公務員の身体に対し、直接たると間接たるとを問わず、不法に攻撃を加えるをいう

と判示しました。

仙台高裁秋田支部判決(昭和28年4月14日)

 収税官吏が差し押さえた帳簿をAに示し、質問顛末書の承認を求めたところ、BがAからその帳簿をつかみ取り、収税官吏が制止した手を振り払って収税官吏の前でこれを破った行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

 この判決で、裁判官は、

  • 収税官吏の制止する手を振り切った行為は、直接身体に対し加えられた暴行、Aから帳簿をつかみ取り収税官吏の面前で破った行為は、間接に収税官吏の身体に対する暴行又は脅迫と解する

としました。

東京高裁判決(昭和38年3月19日)

 公務執行中の警察官から、その携帯する拳銃を奪い取ろうとした行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

福岡高裁判決(昭和30年2月2日)

 翌日開催予定の市議会に提出すべき書類を閲覧中の市役所総務課長から、その書類を奪い取った行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

大審院判決(昭和7年4月5日)

 村議会において、議席から議案をかっさらう行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

福岡高裁判決(昭和32年5月15日)

 巡査が作成中の供述調書等を突如奪い取って破棄する行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

福岡高裁判決(昭和38年3月23日)

 県議会において、議長の机を手でたたき、議長に発言の中止を迫り、議長の机を前方より押し傾かせてその使用を困難とし、議長が使用しているマイクロホンのコードを引っ張り、議長の着席している椅子の肘掛部分をつかんで揺り動かし、又はこれを持ち上げるなどして議長を椅子から揺り落すの行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

東京高裁判決(昭和37年11月9日)

 警察官ら数名が捜索差押現場においてその職務を執行中、電灯を消して暗闇とし、警察官の職務執行を妨害し、第三者を逃亡させようとし、隣室から飛び出して差押現場に侵入し、電灯設備に手をかけて引っ張り、電灯を破壊し、暗闇とする行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

大審院判決(大正6年12月20日)

 見回り中の警察署長が乗務中の船にとりすがり、船に乗っていた水夫に暴行を加え、船板で船をたたき、を舶先に投げつけ、備え付けの器具を破壊する行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

高松高裁判決(昭和34年9月22日)

 漁業取締船の追跡から逃れるべく、その船のスクリューに口ープ、ワイヤー等を巻きつかせてその推進機能を停止させようとし、ロープ、 ワイヤー等を流し、船のスクリューにワイヤーを巻きつかせて、一時、船の航行を停止させた行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

東京高裁判決(昭和39年7月28日)

 被告人が、民営化前の国鉄駅構内にある駅員の詰所内に立ち入り、列車の発車合図をするため待機中であった駅職員が、国鉄労働組合員によりその詰所が包囲されるという急迫した状況を輪送本部へ電話連絡しようとしたところ、その駅員の腕をつかみ、電話を押さえて電話することを妨げ、「話があるから表へ出ろ」と語気荒く申し向け、机にしがみつく駅員を2人で左右からその両腕をかかえて詰所から連れ出し、更に詰所から約450m北方の駅地下道まで、駅員の腕を取り、あるいは組合員に腕を組ませるなどして連行するなどの暴行を加えたという一連の行為の中、駅員が輪送本部に電話連絡をするのを妨害するために電話器を押さえた行為について、公務執行妨害罪の暴行に当たるとしました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

公務執行妨害罪の暴行に当たらないとされた事例

を紹介します。

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