刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(3) ~「公務執行妨害における『職務』とは、公務員が職務上なすべき事務の全てを含む」「公務の軽重は、本罪の成否に影響しない」を解説~

公務執行妨害における「職務」とは、公務員が職務上なすべき事務の全てを含む

 公務執行妨害罪(刑法95条)の行為は、

公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えること

です。

 今回は、「職務を執行する」の意義について説明します。

 「職務」について、公務員が担当・処理すべき事務である限り、職務の範囲については特に限定はありません。

 「職務」には、広く公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれます(最高裁判決 昭和53年6月29日)。

 「職務」は、強制的性質を持つものであることを要しません。

 執行されるべき職務に限定はないので、強制的性質を具備する職務に限らず、内部的事務処理を含め、「職務」は、広く公務員の行う職務一般と解されます。

 この点につき、参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治42年11月19日)

 村役場書記が、税金の徴収事務のため、課税台帳を取り調べ中、被告人がその台帳を奪いとって公務の執行を妨害した事案です。

 裁判官は、

  • 刑法第95条第1項には、公務員の職務を執行するに当たり云々とありて、職務の執行に何ら制限するところなければ、そのいわゆる執行とは、単に公務員が人又は物に対して法律規則を執行し、若しくは公務所の命令を執行する場合のみに限らず、公務所において、公務員が職務上なすべき事務の取扱をも全てこれを指称包含せしめたるものと解するを相当とす
  • 何となれば、同条項は、公務員の取り扱うべき職務の遂行を保護する立法の趣旨にほかならざれば、公務所における公務員のなすべき事務の取扱といえども、広義における職務の執行なるをもって、これに対して暴行若しくは迫害を加えるは、公務員が人又は物に対して、公務所の命令を執行するに当たり、暴行若しくは迫害をなす場合と職務の実行を妨げる点において、二者差別あることなければなり

と判示し、公務執行妨害における「職務」とは、公務員が職務上なすべき事務の全てを含むとしました。

大審院判決(明治44年4月17日)

 税務署職員が酒税法違反事件の証拠物件として差し押さえたを官署に送付の途中、被告人が、税務署職員に対し暴行を加えた公務執行妨害の事案です。

 裁判官は、

  • 刑法第95条第1項に公務員の職務を執行するに当たりとあるは、その職務を行うことが人を強制するに至るべき場合のみに限らず、あまねく職務の範囲内に属する事項を行う場合を包含するものにして、敢えて執行なる語辞において、強制の意義を表彰したるものというべからず

と判示しました。

公務の軽重は、本罪の成否に影響しない

 公務の軽重は、公務執行妨害罪・職務強要罪(刑法95条)の成否に影響しません。

 妨害される公務の内容が軽いものだったとしても、本罪は成立します。

 この点について判示したのが以下の判例です。

最高裁判決(昭和25年10月20日)

 裁判官は、

  • 刑法第95条の罪は、公務員の職務を執行するに当たり、これに対して暴行・脅迫を加えることにより成立するのであって、その公務の実質の軽重は、犯情に影響あることはあっても、本罪の成否を決する標準となるものではない

と判示しました。

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