公務執行妨害罪が成立するためには、公務員がその行為を行う抽象的(一般的)権限を有する必要がある
公務執行妨害罪(刑法95条)によって公務員の職務執行が保護されるためには、
公務員がその行為を行う抽象的(一般的)権限を有する
ことが必要であるとされます。
この点に関する判例として、以下のものがあります。
大審院判決(昭和7年3月24日)
裁判官は、
- 特定の行為が職務の執行たるためには、その行為がその公務員の抽象的職務権限に属する事項に当たることを要するやもちろんなり
と判示しました。
「公務員がその行為を行う抽象的(一般的)権限を有する」の要件を満たさないことで、公務執行妨害罪の成立が否定された判例として、以下のものがあります。
大審院判決(大正4年10月6日)
警察官の示談斡旋行為はその職務範囲内に属さないとして、公務執行妨害罪の成立を否定しました。
抽象的(一般的)権限について
抽象的(一般的)権限は客観的に存在することを要します。
公務に対する抽象的(一般的)権限がある以上、内部的事務分担が違いが、公務執行妨害罪の成立の妨げることはありません。
参考になる判例として、以下のものがあります。
大審院判決(大正5年6月8日)
この判決で、裁判官は、
- 巡査は、警察に関して一般的権限を有するものにして、内勤、外勤、特務、刑事等の区別は、執務上の便宜を計り、各自が主として担任する事務の性質に従い、これを設けたるに過ぎざれば、特務巡査たるの故をもって、刑事巡査の職務を執行するの権限なきものというを得ず
と判示し、巡査は、警察に関して一般的権限を持っているので、内部の事務分担が異なる職務を行っていたとしても、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
大審院判決(昭和8年6月17日)
この判決で、裁判官は、
- 同一警察署の管内において、A派出所の巡査が、B派出所の受け持ち地域を警戒中、これに対し傷害を負わしめたるときは、傷害罪たると同時に、公務執行妨害罪に該当するものとす
と判示し、上記判例と同様、警察官の事務分担の違いは問題になることなく、公務執行妨害罪が成立するとしました。