刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(9) ~職務行為の適法性が認められた事例③「警察官による逮捕行為の事例」を解説~

公務執行妨害で警察官の職務行為の適法性が認められた事例③

警察官による逮捕行為の事例

 公務執行妨害罪(刑法95条第1項)に関し、警察官による逮捕行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとした事例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和25年12月19日)

 急速を要しない場合であるにもかかわらず、逮捕状を所持しないで被疑事実の要旨を告げただけで逮捕した行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

福岡高裁判決(昭和27年1月19日)

 逮捕状の緊急執行の際、窃盗の容疑により逮捕状が発せられている旨を告げたのみで、被疑事実の要旨を告げなかった事案で、裁判官は、

  • 適法な逮捕とは称し難い
  • しかし、右逮捕が不適法だからという理由から、直ちに本件被告人の所為(暴行行為)が公務執行妨害罪を構成しないものと速断してはならない
  • 公務執行妨害罪は、公務員がその一般的権限に属する事項に関し、法令に定める手続に準拠して、その職務を執行するに当たり、これに対し、暴行又は脅迫を為すによって成立するもので、たとえ、当該手続に関する法規の解釈適用を誤まりたるため、手続上の要件を充たさない場合といえども、一応その行為が形式的に公務員の適法な執行行為と認められる以上、公務執行妨害の成立を妨ぐるものではない
  • 本件において、B、C両巡査は、かねて被告人に対し窃盗の指名犯人として裁判官の逮捕状の発せられていることを知り、これが緊急執行のため、右令状を所持しないまま被告人の依命逮捕に赴きたるもので、かかる場合の逮捕の手続としては、刑事訴訟法第73条第3項に従い、被執行者に対し、被疑事実の要旨、すなわち、ある程度の被疑事実の内容と令状が発せられている旨を告げなければならないのを、誤解して、単に罪名と令状が発せられている旨を告げれば足るものと考え、被告人に対し、窃盗の嫌疑により逮捕状が発せられている旨を告げて逮捕せんとしたのであるから、逮捕行為は法令に定める手続に違背し、違法ではあるが、その違法の程度は、全然被疑事実を告げなかった場合と異り、強度のものとはいえず、なお一般の見解上、一応形式的には前記巡査等の一般的権限に属する適法な職務執行行為と称し得ないことはない
  • 従って、被告人が同巡査等の右職務執行に当たり、前記暴行を加えた所為は、当然公務執行妨害罪を構成するものといわなければならない

と判示し、公務執行妨害罪が成立するとしました。

大阪高裁判決(昭和36年12月11日)

 逮捕状の緊急執行の場合において、罪名を告げたのみで、被逮捕者が被疑事実の内容を了知し得る状況にあるときには、罪名と令状が発せられていることを告けたのみで逮捕しても適法であとし、その逮捕行為を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

広島高裁判決(昭和55年5月20日)

 呼気検査を拒否した者を、酒酔い運転の現行犯人として逮捕した行為は適法であとし、その逮捕行為を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

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