刑法(総論)

処罰条件、処罰阻却事由とは?

 犯罪は、

  • 構成要件該当性
  • 違法性
  • 有責性

の3つの要素がそろうと成立することを前の記事で解説しました。

 この3つの要素がそろうと犯罪は成立し、国は犯人に刑罰を与えることができます。

 しかし、この3つの要素がそろって犯罪が成立しても、プラスアルファの条件がないと国が犯人に刑罰(懲役刑、罰金刑など)を与えることができない犯罪があります。

 このプラスアルファの条件を

  処罰条件

または

  処罰阻却事由

といいます。

処罰条件とは

 処罰条件とは

犯罪が成立しても、それだけでは刑罰権が発動しない特定の犯罪に対し、刑罰権を発動させるための条件

をいいます。

具体的には

 処罰条件が必要な犯罪は、事前収賄罪(刑法197条2項:これから公務員になろうとする人が賄賂をもらう犯罪)です。

 事前収賄罪は、「公務員となったという事実」(=処罰条件)がなければ、国は犯人に刑罰を与えることができません。

 破産犯罪(破産法265、266、270条:借金をしている人が自分の財産を隠して返せる金がないように見せかけるなどの犯罪)も処罰条件が必要な犯罪です。

 破産犯罪は、「破産手続開始決定が確定すること」(=処罰条件)がなければ、国は犯人に刑罰を与えることができません。

処罰阻却事由とは

 処罰阻却事由とは

成立した犯罪につき、刑罰権の発生を妨げる条件

をいいます。

 処罰阻却事由における『刑罰権の発生を妨げる条件』とは、犯人の身分についての条件であるため、「処罰阻却事由」は、「人的処罰阻却事由」と呼ばれることもあります。

具体的には

 親族間の犯罪に関する特例(刑法244条1項、257条1項)という法の規定があり、これが処罰阻却事由です。

 親族間の犯罪に関する特例とは、親族との間で起こした窃盗、詐欺などの犯罪は、刑を免除するという規定です。

 たとえば、父親の財布から千円札を抜いても窃盗罪を犯しても刑が免除されます。

 窃盗罪という犯罪自体は成立しているので注意です。

 親族間といえども、逮捕されたり、前科になる可能性があります。

 刑事事件の話ではありませんが、国会議員の免責特権(憲法51条)にも、処罰阻却事由が規定されています。

 国会議員の免責特権により、国会議員は、議院で行った演説などについて、責任を問われないというルールになっています。

 このルールが処罰阻却事由に該当します。

まとめ

 犯罪は、

  • 構成要件該当性
  • 違法性
  • 有責性

の3つの要素がそろうと成立し、犯人に刑罰を与えることができます。

 しかし、上で述べた特定の犯罪について、プラスアルファの条件がなければ、犯人に刑罰を与えることができないというルールがあります。

 そのプラスアルファの条件を

  • 処罰条件
  • 処罰阻却事由

といいます。

 ちなみに、処罰条件、違法処罰事由は、刑事政策上の便宜から取り入れられている考え方です。

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