刑法(準詐欺罪)

準詐欺罪(1) ~「準詐欺罪とは?(未成年者、精神病者に対して欺罔手段を用いないで行う詐欺罪)」を判例で解説~

準詐欺罪とは?

 準詐欺罪(刑法248条)は、

未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させることによって成立する罪

です。

 平たくいうと、準詐欺罪は、①知識の乏しい未成年者、②判断能力を欠く精神病者に対し、人を欺く手段を用いることなく、金品・サービスを詐取する詐欺罪です。

 準詐欺罪は、詐欺罪(刑法246条)の補充規定です。

 人の知慮の足りないのに乗じて、財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得ることは、人を欺く手段を用いなくても、それを用いたと同じような意味を持つため、これを詐欺罪に準じて処罰することとしたものです。

 したがって、被害者が知慮浅薄な未成年者又は心神耗弱者であっても、人を欺く手段を用いて財物を交付させた場合は、詐欺罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正4年6月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第248条の罪は、未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱なる状況を利用し、詐欺又は恐喝に該当せざる誘惑その他の方法を用い財物を交付せしむるによりて成立するものとす
  • 知慮浅薄なる未成年者又は心神耗弱者に対し、詐欺又は恐喝の方法を用い、これによりて財物を交付せしめたる所為は、刑法第248条に該当せずして、同法第246条又は同法第249条に該当するものとす

と判示しました。

行為

 準詐欺罪の行為は、未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させることです。

「未成年者の知慮浅薄」、「人の心神耗弱」とは?

 「未成年者」とは、18歳未満の者をいいます(民法4条)。

 「知慮浅薄」とは、知識が乏しく、思慮の足りないととを意味します。

 この知慮浅薄が、全てのことについて思慮の不足していることを要するか、事件被害に関する具体的事項について思慮が欠けていれば足りるのかが問題になりますが、通説は、具体的事項について知慮が不足していればよいとされています。

 「心神耗弱」とは、知慮浅薄の一種です。

 大審院判決(明治45年7月16日)において、

  • 刑法第248条にいわゆる心神耗弱とは、全然意思能力を喪失するに至らざるも、精神の健全を欠き、事物の判断をなすに充分なる普通人の知能をそなえざる状態をいう

と判示しています。

 ここにいう「心神耗弱」は、限定責任能力者としての心神耗弱の概念(刑法39条2項)にこだわるべきではないが、それに準じて考えればよいとされています。

 責任無能力者としての心神喪失者も、誘惑に乗せられうる者である限り、ここにいう「心神耗弱」に含めてよいとする考え方もあります。

「乗じて」財物を交付させ、又は不法利得するとは?

 「乗じて」とは、つけ込むこと、利用することです。

 つまり、「未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱」といった誘惑にかかりやすい状態を財物又は財産上の利益の取得のために利用することです。

 積極的に誘惑的行為を行う場合のほか、未成年者、心身耗弱者が、任意に財産的処分行為を行おうとしているのに任せておく場合でもよいとされます。

 例えば、相手の無知に乗じて誘惑的行為を行い、無価値な物を対価として与え、その代わりに高価な物を相手から交付させる行為は、準詐欺罪が適用されるケースです。

 具体的には、知慮浅薄な未成年者又は心神耗弱者が、菓子を欲しがり、これと高価な時計との交換を申し込んだのに乗じて、これを承諾し、菓子を与えて右時計の交付を受けた場合は、準詐欺罪を構成します。

 ただし、誘惑的行為は、詐欺罪における人を欺く行為に当たらないものであるととを要します。

 誘惑的行為が、詐欺罪に該当する人を欺く行為であったならば、準詐欺罪ではなく、詐欺罪が優先して成立するためです。

 なお、誘惑的行為ではなく、恐喝の手段を用いれば、恐喝罪が成立します。(この点については、上記の大審院判決(大正4年6月15日)で判示)。

未成年者・心神耗弱の状態にある者の財産的処分行為を要する

 準詐欺罪が成立するためには、未成年者又は心神耗弱の状態にある者の財産的処分行為(財物の交付行為、サービスの提供行為)があり、犯人が財物又は財産上の利益の取得することを要します。

 準詐欺罪の成立に被害者の財産的処分行為が必要なことは、詐欺罪の場合と同様です(この点については前回記事参照)。

 したがって、被害者の心神耗弱に乗じて、その財物を奪取したような場合は、被害者の財産的処分行為がないので、準詐欺罪は成立しません(この場合は窃盗罪が成立します)。

 心神耗弱状態において財産的処分行為があったとして準詐欺罪の成立が認められた以下の判例があるので紹介します。

福岡高裁判決(昭和25年2月17日)

 飲酒酪酊してほとんど正常の意識を失い心神耗弱の状態に陥っている通行人から、その着用していたオーバーと背広上着を奪取した事案で、裁判官は、

  • 刑法248条には、人の心神耗弱に乗じて、その財産を交付せしめとあるので、原判示のように財物を奪取した場合の如きは、これに包含しない観がないではないけれども、刑法第248条は、正常でない意思状態にある被害者の同意を利用して財物を領得する行為を処罰の対照とするものであること極めて明瞭であるから、その領得行為の形式が被害者において自ら財物を交付した揚合はもちろん、被害者の心神耗弱の状況にあるのに乗じて財物を奪取したような場合においても、また同罪が成立するものと解するのが相当である

と判示して、準詐欺罪の成立を肯定しました。

 なお、この判例に対しては、被害者の財産的処分行為(財物の交付又はこれと同視しうる行為)が認められないとすれば、犯人の用いた財物奪取の態様に応じて窃盗又は強盗の罪の成立を認めるべきという意見があります。

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