「質問の置き換え」
人は、複雑な質問に対して、なぜか直感的に一応の意見を言えてしまいます。
なぜなのか?
それは、難しい質問に対してすぐに答えが出せないとき、脳は、
- もとの質問に関連する簡単な質問を見つけて、それに答える
からです。
たとえば、仕事において、上司から「この前、頼んだ明日期限の仕事どうなってる?」と聞かれたとします。
上司から頼まれた仕事は、別の仕事があったせいで、まだ着手できいていません。
そんなとき、「すいません、お客様のクレーム対応をしていました」などと答えてしまうことが往々にしてあります。
これが「質問の置き換え」です。
「まだ頼まれた仕事はやっていません」が上司の質問に対する答えです。
しかし、自分を良く見せたい・責められたくない・自分を守りたいという思いから、「仕事はやってません」と答えることは困難です。
そこで、脳は、「質問の置き換え」を行います。
上司の「この前、頼んだ明日期限の仕事どうなってる?」という質問を、勝手に「仕事ができない理由はなぜだ?」という関連する質問に置き換えて答えたのです。
「質問の置き換え」は、無自覚に行われる
このように、勝手に代わりの質問を作って答える操作を「置き換え」といいます。
もともと答えるべき質問を「ターゲット質問」、代わりに答える簡単な質問を「ヒューリスティック質問」と呼びます。
ヒューリスティクスとは、「困難な質問に対して、適切ではあるが、不完全な答えを見つけるための単純な手続き」のことをいいます。
(ヒューリスティクスという言葉は、「見つけた!」を意味するギリシャ語のユーレカを語源にもちます)
上の例でいうと、「ターゲット質問」は、上司の「この前、頼んだ明日期限の仕事どうなってる?」という質問です。
「ヒューリスティック質問」は、部下が勝手に作り出した「仕事ができない理由はなぜだ?」という質問になります。
「ターゲット質問」の「ヒューリスティック質問」への置き換えは、無自覚に行われます。
おかげで、質問の置き換えをしたことに、うろたえることもなし、頭を悩ませることもないし、本来答えるべき質問に答えていないことにも気づきません。
しかも、質問の置き換えにより、答えが直感的にすぐさま浮かんでくるため、ターゲット質問が難しかったことにさえ気づきません。
「質問の置き換え」が行われる脳のカラクリ
なぜ人は、確率とは何かを正確には知らないのに、確率の判断ができるのでしょうか?
これは、確率を判断するように要求されると、実際には、何かほかのことを判断し、それをもって「自分は確率を判断した」と考えるためです。
脳は、
- 答えられない課題を出されたときに、答えられない課題をいくらか単純化し
- 単純化した課題に対して、答えを出して納得し
- 答えられない課題に対して、答えを出したと錯誤する
のです。
メンタル・ショットガン
メンタル・ショットガンとは、一つのことを考えようとしても、ほかの関連事項に影響されてしまう人間の脳の特性をいいます。
脳は、ショットガンの一つの銃口から拡散発射される弾丸のように、一つのことから、連想的に別のことを思い浮べる動きをします。
質問に対して答えるとき、正確に狙いを絞れず、質問の置き換えを行ってしまうのもメンタル・ショットガンが影響しています。
一つの質問から、別の質問を連想して答えることをやってしまうのです。
「質問の置き換え」と「メンタル・ショットガン」をセットで考えると、「質問の置き換え」の理解が深まります。
「質問の置き換え」に自覚的であるべき
「質問の置き換え」に無自覚のままでいると、
相手の質問にきちんと答えない
ことを、これから先も無自覚に行ってしまいます。
「質問の置き換え」をすると、相手に「こいつ、質問にまともに答えられないヤツだな」という印象を抱かれます。
的を得た答えを返せないので、相手の時間も奪います。
なので、「質問の置き換え」をやってしまうことに自覚的になる必要があります。
【追記】脳の「質問の置き換え」能力を利用する
「質問の置き換え」は、うまく使えば武器になります。
ある質問を別の質問に置き換えるのは、困難な問題を解決するときの優れた戦略になるからです。
仕事において、「売上を10倍するにはどうすべきか?」という質問に答えるのは難しいです。
そこで「売上を10倍するにはどうすべきか?」という問いを、「売上げを上げるためのマーケティング戦略は何が考えられるか?」に置き換え、置き換えた問に対する答えを出しす。
このような質問の置き換えを繰り返して、もともとの質問に対する答えに近づいていきます。
どうしても解けない問題に対しては、自分に解けそうな、より簡単な問題を探して答えを出していくのが、難しい問題の解決に近づくための有効な戦略になります。