刑法(住居・建造物侵入罪)

住居・建造物侵入罪⑥ ~「建造物の囲繞地」「囲繞地の要件」「囲障の設備の程度」「駅構内の囲繞地性」「建物の敷地が囲繞地ではなく、建造物として扱われる場合」を判例で解説~

建造物に附属する囲繞地(いにょうち)も建造物侵入罪の対象に含む

 住居の生け垣や塀などにより囲まれた庭などの部分を

囲繞地(いにょうち)

といいます。

 刑事裁判における理解では、囲繞地とは、

  • 建物に接して建物の周辺に存在し(土地の付属地であり)、建物の利用のために使われている土地

であり、

  • その土地に侵入すれば、建物内部に侵入したと同等の法益侵害があったと評価できる土地

ということができます。

 そして、囲繞地に侵入すれば、住居侵入罪、建造物侵入罪(刑法130条)が成立することとなります。

判例

 囲繞地も住居・建造物に含むとして、囲繞地に侵入すれば、住居侵入罪や建造物侵入罪が成立すると解するのが判例・通説です(詳しくは前の記事参照)。

 建造物の囲繞地に侵入すれば、建造物侵入罪が成立することは、住居侵入罪邸宅侵入罪の場合と同じです。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年9月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法130条に建造物とは、単に家屋を指すばかりでなく、その囲繞地を包含するものと解するを相当とする
  • 本件工場敷地は、工場の附属地として、門塀を設け、外部との交通を制限し守衛警備員等を置き、外来者が、みだりに出入することを禁止していた場所であることは、記録上明らかであるから、所論敷地は刑法130条にいわゆる人の看守する建造物と認めなければならない

と判示し、工場の囲繞地に侵入した事案について、建造物侵入罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和51年3月4日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法130条にいう「人の看守する建造物」とは、単に建物を指すばかりでなく、その囲繞地を含むものであって、その建物の附属地として門塀を設けるなどして、外部との交通を制限し、外来者がみだりに出入りすることを禁止している場所に故なく侵入すれば、建造物侵入罪が成立するものであることは、当裁判所の判例(昭和25年9月27日大審院判決)の示すところである
  • そして、このような囲繞地であるためには、その土地が、建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の附属地として、建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りるのであって、右囲障が既存の門塀のほか金網柵が新設付加されることによって完成されたものであったとしても、右金網柵が通常の門塀に準じ外部との交通を阻止し得る程度の構造を有するものである以上、囲障の設置以前における右土地の管理、利用状況等からして、それが本来建物固有の敷地と認め得るものかどうか、また、囲障設備が仮設的構造をもち、その設置期間も初めから一時的なものとして予定されていたかどうかは問わないものと解するのが相当である
  • けだし、建物の囲繞地を刑法130条の客体とするゆえんは、まさに右部分への侵入によつて建造物自体への侵入若しくはこれに準ずる程度に建造物利用の平穏が害され又は脅かされることからこれを保護しようとする趣旨にほかならないと解されるからである
  • この見地に立つて本件をみると、A建物の西側に設置されたC構内を外部から区画する塀、通用門及び南側に設置されたテニスコートの金網など既存の施設を利用し、これら施設相互間及びA建物との間の部分に、前記金網柵を構築してこれらを連結し、よって完成された一連の障壁に囲まれるに至った土地部分は、A建物のいわゆる囲繞地というべきであって、その中に含まれる本件土地は、建造物侵入罪の客体にあたるといわなければならない

と判示しました。

なぜ建物ではない囲繞地への侵入が住居侵入罪や建造物侵入罪として認定される場合があるのか?

 住居侵入罪、建造物侵入罪(刑法130条)は、条文の文理からすれば「建物」への侵入を処罰するものと理解するのが自然です。

 そうであるのに、敷地である「囲繞地」への侵入も建物への侵入と同等に評価し、住居侵入罪、建造物侵入罪が成立するとするのは不自然さがあります。

 にもかかわらず、敷地である「囲繞地」への侵入に対して住居侵入罪、建造物侵入罪の成立を認めるのは、

  • 囲障地への侵入が、建物の内部への侵入と同様に、刑法の保護に値する

と評価されるためです。

 ここで、「囲障地への侵入は、建物の内部への侵入と同様に刑法の保護に値する」のであるから、囲繞地と認められる要件は厳格に判断されなければなりません。

 以下で「建造物の一部とされる囲繞地の要件」を説明します。

建造物の一部とされる囲繞地の要件

 上記のとおり、刑事裁判における囲繞地とは、

  • 建物に接して建物の周辺に存在し(土地の付属地であり)、建物の利用のために使われている土地

であり、

  • その土地に侵入すれば、建物内部に侵入したと同等の法益侵害があったと評価できる土地

という理解になります。

 そして、建造物の一部とされる囲繞地の要件として、判例・裁判例は、

  • 周囲に門塀等の物的囲障設備を設置して外部との交通を制限していること

を挙げているものが多いです。

 土地の周囲に「周囲に門塀等の物的囲障設備を設置して外部との交通を制限していること」が囲繞地であることの要件となっているわけではないので、誤解しないように注意が必要です。

 土地の周囲に囲障があることのみをもってその囲障内の敷地は囲繞地として住居侵入・建造物侵入の客体になると解するのは適切ではありません。

 この場合、囲障に囲まれた土地が囲繞地であると認定できる判断基準の一つとして、

  • 囲障が建物を保護することを主たる目的として設置されているか

が挙げられます。

 例えば、工場の敷地の周囲に囲障が張り巡らされていた場合で、その囲障は工場の建物内部への不法侵入を防ぐものではなく、工場の敷地内に置かれている工具を盗まれることを防ぐために敷地自体への侵入を防ぐ目的で設置されている認められる場合は、たとえ工場の敷地の周囲に囲障が張り巡らされていても、工場の敷地は囲繞地とは認められず、工場の敷地内への不法侵入に対して建造物侵入罪は成立しないと考えられる場合があります。

 反対に、家の周りに200坪の大きな庭がある住居において、その庭の周囲に囲障が張り巡らされている場合で、その囲障は住居への侵入を防ぐことを主たる目的として設置されていると認められる場合は、その庭は囲繞地と認められ、庭への不法侵入に対して住居侵入罪が成立すると考えられる場合があります。

 なお、守衛、警備員などを置くことは、囲繞地の要件とされていません。

判例

 建造物の囲繞地の要件を定義した判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和25年9月27日)

 隠退蔵物資などの摘発を目的として工場敷地内に侵入した事案で、裁判官は、

  • 本件工場敷地は、判示工場の附属地として門塀を設け外部との交通を制限し、守衛警備員等を置き、外来者が、みだりに出入することを禁止していた場所である

と判示し、工場の敷地を、

  • 建物の附属地であること
  • 周囲に門塀等の物的囲障設備を設置して外部との交通を制限していること

を理由にして、囲繞地と認定し、人の看守する建造物に当たるとしました。

最高裁判決(昭和44年4月2日)

 職員の登庁阻止等を目的として仙台高裁の構内に侵入した事案で、裁判官は、仙台高裁には門衛が置かれていなかったので、上記最高裁判決(昭和25年9月27日)のいう要件を欠いているとの上告趣意に答え、

  • 引用の判例は、守衛、警備員等を置いていることを、外来者がみだりに出入することを禁止している態様の例示として掲げたにとどまり、これをもって刑法130条にいう建造物の囲繞地であるための要件としたものでないことは明らかである

と判示し、『守衛、警備員等を置いていること』は、建造物の囲繞地であることを認める要件ではないとしました。

最高裁判決(昭和51年3月4日)

 この判例で、裁判官が、

  • 囲繞地であるためには、その土地が、建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の付属地として、建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りる

と判示したことにより、建造物の一部とされる囲繞地の要件(①建物の付属地であること、②周囲に門塀等の物的囲障設備を設置して外部との交通を制限していること)が明確化されました。

囲障の設備はどの程度必要か?

 判例・裁判例において、囲繞地と認めた理由として「周囲に門塀等の物的囲障設備を設置して外部との交通を制限していること」という要件を上げているものが多いところ、囲障の設備がどの程度であることを要するかについては、

塀をめぐらす、石を積む

などして、

通常の歩行では越えることができないものをいう

といわれています。

 なので、この程度に至らない

  • ロープを張る
  • 移動可能な簡易バリケードを置く

といった設備により囲障された区域内の土地は、囲繞地とはいえない可能性が高いです。

 このような土地に侵入しても、建造物侵入罪は成立せず、立入り禁止の意思が表示されたものとして、軽犯罪法違反1条32号(立ち入り禁止場所への侵入)の罪が成立するにとどまると考えられます。

駅構内の囲繞地性

 駅構内が、駅の建造物の囲繞地として、駅構内に侵入すれば、建造物侵入罪が成立すかどうかが争われた判例があります。

 駅構内が建造物の囲繞地であることを否定し、駅構内に侵入しても、建造物侵入罪は成立しないとした判例と、駅構内は建造物の囲繞地であるとして、建造物侵入罪が成立するとした判例の両方が存在ます。

 これらは決して矛盾するものではなく、個々の事案における囲障設備の有無や程度の差が結論を異にしたものと考えられています。

 判例は、以下のとおりです。

山口地裁判決(昭和36年12月21日)

 この判例では、小郡駅構内について「外部との交通を制限するような囲障その他設備がない」として囲繞地性を否定しました。

 裁判官は、

  • たとえ建造物の敷地であっても、その建物の附属地として、門塀を設け、外部との交通を規制し、守衛警備員と置き、外来者がみだりに出入りすることを禁止している場所は、これを刑法130条にいわゆる人の看守する建造物に包含されているものと解されている(最高裁判所昭和25年9月27日判決)のであるが、小郡駅北信号所下の地域である、同信号所敷地が建造物の附属地として、いわゆる人の看守する建造物に当たるかどうかについて考える
  • 同小郡駅北信号所は、小郡駅構内の一部分を占有して設置されているが、同信号所の建物敷地付近について、囲障をめぐらして外部との交通を制限するような特別の設備はないことが認められる
  • したがって、特に同信号所下の建物敷地だけを人の看守する建造物であるとして、建造物侵入罪の対象とするわけにはいかないのである
  • そこで、同信号所を包含する小郡駅構内全体を包括して、工場や事務所敷地と同様に、人の看守する建造物ということができるかどうかについて検討する
  • (小郡駅構内の)用地の南東部は、駅構外の水田に接し、その境界線は、柵、塀などの囲障はなく、また用地の北東部および南西部は、…外部との交通を制限するような囲障その他設備がないことなどが認められる
  • 小郡駅構内がこのような状況にあるとするならば、たとえ外部の交通が制限され、一般公衆は乗車券、入場券をもって出入りすべきことになっており、外来者はみだりに出入りすることを禁止されているとしても、いまだ人の看守する建造物であるということはできない
  • 小郡駅構内北信号所の敷地に侵入した事実をもっては、軽犯罪法あるいは鉄道営業法の規定により、処罰されることは別格、刑法130条所定の建造物侵入罪は構成せず、罪とならないのである

と判示しました。

札幌高裁判決(昭和33年6月10日)

 この判例は、上記山口地裁の判例を覆し、駅構内の囲繞地性を肯定し、旭川駅構内に侵入した行為について、建造物侵入罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 刑法130条所謂建造物とは、屋蓋を融資融壁を設けた家屋のみならず、柵をして外部との交通を制限した囲繞地をも包含するものであって、旭川駅長の管理看守する旭川駅構内は、右法条に所謂建造物に該当する

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和41年4月9日)

 この判例は、上記札幌高裁判決と同様、駅構内の囲繞地性を肯定し、八千代駅構内に侵入した事案について、建造物侵入罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 国鉄八代駅は、構内西側に西面する駅本屋を中心として、その南側に鉄道公安官室、倉庫、鉄郵室等の建物が、その北側に貨物室の建物がそれぞれ立ち並び、その東側に西から順次一番ないし三番ホームがあり、更にその東側に相当数の線路が南北に走っており、一番ホーム北側には二番、三番ホームに至る跨線橋が設けられ、右ホームの大部分は屋蓋を有しており、かつ前記駅本屋及び跨線橋と屋蓋により各ホームは連絡されており、本件一番ホームも右駅本屋と一体をなして駅舎を構成するものであるととが認められる
  • 従って、右八代駅構内は八代駅長の管理看守する建造物であることが明らかである

と判示しました。

 なお、この判決は、犯人が侵入した一番ホーム自体は「障壁を設けた独立の建造物に該当しない」としていますが、一番ホームと一体となる駅舎に侵入したとして、建造物侵入罪の成立を認めています。

建物の敷地が囲繞地ではなく、建造物として扱われる場合がある

 囲障がめぐらされ、その内部に建物があるからといって、常に囲障の内側が囲繞地と認定されるわけではありません。

 敷地が囲繞地ではなく、建物と一体となして、刑法130条の「人の看守する建造物」と認定されることで、建造物侵入罪の成立が認められる場合があります。

 例えば、ゴルフ場の周囲に柵などの囲障が設置されていても、ゴルフ場全体がその一角にあるクラブハウスの付属地として囲繞地とされるものではありません。

 ゴルフ場における囲障は、クラブハウスを保護することに主眼はなく、ゴルフ場全体を保護するために設置されていると考えるの自然です。

 とすれば、ゴルフ場は、クラブハウスの囲繞地ではなく、ゴルフ場全体がクラブハウスと一体となす人の看守する建造物という見方をする方が妥当といえます。

 この点について、以下の判例があります。

広島高裁判決(昭和52年2月10日)

 この判例は、自動車学校の敷地内に侵入した事案について、囲繞地ではなく、建物と一体をなす建造物であるとして、建造物侵入罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 本件自動車学校は、その形態、敷地面積、業務性質等からして、本来自動車練習場コース敷地が主体で、むしろ校舎、事務室等はこれに附随するかの観を呈する
  • 自動車学校としての機能は、右コースでの実技練習のほか、校舎での授業、事務室での管理等にも、それぞれ各別の重要な意味があって、主従という観念を入れるにふさわしくなく、むしろ相互に密接に関連従属し合って一体をなす関係にあるとみられる
  • このような場合、右敷地は、一面、校舎等建物にその効用を果たすために附属したものと観念することも可能で、そのうえ、本件敷地につき、敷地周囲の木柵等により敷地の範囲は明確に区画されて一般人の無断立ち入りが禁止されている状況にあったことは明らかであるから、右敷地が建物と一体をなして刑法130条所定の『人の看守する建造物』に含まれるものと解すべきは明らかなところといえる

と判示しました。

東京高裁判決(平成5年7月7日)

 小学校の構内(校庭)に立ち入り、校庭の囲繞地性が争われた事案で、裁判官は、

  • 本件構内に関する外形的な事実及びその管理等に徴すると、本件構内は、「囲繞地」として外来者がみだりに出入りすることを禁止している場所であって、教頭らが事実上管理するものということができ、「人の看守する建造物」に該当するものと解するのが相当である
  • 正門をはじめ、4か所の門扉がすべて施錠されておらず、また、正門を除く3か所の門扉が人一人が出入りすることができる程度に開けられたままにされることがあったとしても、右の点から直ちに本件構内と外部との交通を制限することなく一般人の自由な立入りを許容していたものとは到底認め難い

と判示し、小学校の構内(校庭)について、囲繞地ではなく、「人の看守する建造物」に該当するとして、建造物侵入罪が成立するとしました。

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