刑法(住居・建造物侵入罪)

住居・建造物侵入罪⑬ ~「住居侵入罪と窃盗罪、不動産侵奪罪、常習特殊強窃盗・常習累犯強窃盗との関係」を判例で解説~

住居侵入罪と窃盗罪との関係(牽連犯)

 住居侵入罪(刑法130条)と窃盗罪(刑法235条)の関係について説明します。

 住居(建造物)に侵入して窃盗をした場合、住居侵入罪(建造物侵入罪)と窃盗罪とは、牽連犯(けんれんぱん)になるというのが判例の立場です。

 牽連犯とは、

複数の犯罪が、手段と結果の関係にある犯罪形態

をいいます。

 住居(建造物)侵入は、性質上、窃盗の手段として通常用いられることから、住居侵入(建造物侵入)と窃盗とには、牽連関係があるとされます。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判例(昭和28年2月20日)

  • 住居侵入罪と窃盗罪とは、その被害法益及び犯罪の構成要件を異にし、住居侵入の行為は窃盗罪の要素に属せず、別個独立の行為である
  • しかも、通常、両罪の間には、手段結果の関係があることが認められるから、第一審判決が両罪を刑法54条1項後段のいわゆる牽連犯として取扱ったのは正当である

と判示し、住居侵入罪と窃盗罪は、観念的競合併合罪ではなく、牽連犯の関係になるとしました。

住居侵入罪と不動産侵奪罪との関係(吸収関係)

 住居侵入罪(刑法130条)と不動産侵奪罪(刑法235条の2)の関係について説明します。

 不動産侵奪罪は、他人の不動産を奪った場合に成立する犯罪です。

 不動産侵奪罪が成立する場合は、住居侵入罪(建造物侵入罪)は成立しません。

 この点を判示した以下の判例があります。 

福岡高裁判決(昭和37年8月22日)

 他人の管理する家屋の一部を、自己の居住として使うため、管理者の意に反して不法に占拠した事案で、裁判官は、

  • 不法領得の意思で不動産を奪取したものであり、被告人の右行為は刑法235条の2の不動産侵奪罪を構成する
  • 被告人の本件所為が不動産侵奪罪に該当する以上、不動産侵奪の行為としての本件所為が、不動産侵奪罪のほかに、別異の犯罪を構成するものとは解し得られない

と判示し、原判決が本件所為につき、住居侵入罪を適用したのは誤りであり、住居侵入罪は成立せず、不動産侵奪罪のみが成立するとしました。

住居侵入罪と常習特殊強窃盗・常習累犯強窃盗との関係(吸収関係)

住居侵入罪(刑法130条)と常習特殊強窃盗・常習累犯強窃盗盗犯等の防止及び処分に関する法律)の関係について説明します。

 以下は、盗犯等の防止及び処分に関する法律の条文です。

盗犯等の防止及び処分に関する法律の条文

第1条 左の各号の場合において、自己又は他人の生命、身体又は貞操に対する現在の危険を排除するため犯人を殺傷したるときは刑法第36条第1項の防衛行為ありたるものとす

1 盗犯を防止し又は盗贓を取還せんとするとき

2 凶器を携帯して又は門戸牆壁等を踰越損壊し、もしくは鎖鑰を開きて人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは船舶に侵入する者を防止せんとするとき

3 なく人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは船舶に侵入したる者又は要求を受けて、これらの場所より退去せざる者を排斥せんとするとき

② 前項各号の場合において、自己又は他人の生命、身体又は貞操に対する現在の危険あるに非ずといえども、行為者恐怖、驚愕、興奮又は狼狽により、現場において犯人を殺傷するに至りたるときは之を罰せず

第2条 常習として左の各号の方法により刑法第235条第236条第238条もしくは第239条の罪又はその未遂罪を犯したる者に対し、窃盗もって論ずべきときは3年以上、強盗をもって論ずべきときは7年以上の有期懲役に処す

1 凶器を携帯して犯したるとき

2 二人以上現場において共同して犯したるとき

3 門戸牆壁等を踰越損壊し又は鎖鑰を開き人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき

4 夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき

第3条 常習として前条に掲げたる刑法各条の罪又はその未遂罪を犯したる者にして、その行為前10年内にこられらの罪又はこれらの罪と他の罪との併合罪につき3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受け又はその執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは前条の例による

第4条 常習として刑法第240条の罪(人を傷したるとき限る)又は第241条第1項の罪を犯したる者は無期又は10年以上の懲役に処す

常習特殊強窃盗の罪(2条3号・4号)との関係

 住居侵入罪と常習特殊強窃盗(2条3号・4号)との関係について説明します。

 条文(2条3号・4号)に「侵入して犯したるとき」と記載されています。

 この意味は、常習特殊強窃盗の構成要件(犯罪に成立要件)に、手段としての住居侵入が取り込まれているので、住居侵入は常習特殊強窃盗の罪に吸収されます。

 つまり、常習特殊強窃盗を犯すために、住居侵入罪を犯しても、常習特殊強窃盗のみが成立することになります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和7年3月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 常習として夜間の人の住居する邸宅に侵入して、窃盗の罪を犯したる者に対しては、刑法第235条盗犯等防止及び処分に関する法律第2条第4号を適用するをもって足り、刑法130条を適用すべきものにあらず

と判示しました。

常習累犯強窃盗との関係

 常習特殊強窃盗と異なり、常習累犯強窃盗(3条)については、構成要件に手段としての住居侵入が取り込まれていません。

 しかし、住居侵入罪と常習累犯窃盗は、常習特殊強窃盗と同様に、一罪の関係にあることが判例で明らかにされています。

最高裁判決(昭和55年12月23日)

 この判例で、裁判官は、

  • 盗犯等の防止及び処分に関する法律3条中、常習累犯窃盗に関する部分は、一定期間内に数個の同種前科のあることを要件として常習性の発現と認められる窃盗罪(窃盗未遂罪を含む)を包括して処罰することとし、これに対する刑罰を加重する趣旨のものであるところ、右窃盗を目的として犯された住居侵入の罪は、窃盗の着手にまで至った場合にはもちろん、窃盗の着手にまで至らなかった場合にも、右常習累犯窃盗の罪と一罪の関係にあるものと解するのが、同法の趣旨に照らして相当である

と判示し、住居侵入罪と常習累犯窃盗とは、常習特殊強窃盗と同様に、一罪の関係にあることを明らかにしました。

 つまり、常習累犯窃盗を犯すために、住居侵入罪を犯しても、住居侵入罪は常習累犯窃盗に吸収され、常習累犯窃盗のみが成立することになります。

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