刑法(強制わいせつ罪)

強制わいせつ罪(4) ~「13歳未満の者に対して暴行・脅迫によってわいせつ行為をした場合には、刑法176条の前段後段を問わず刑法176条の一罪が成立する」「複数の被害者がいる場合、被害者の数に応じた個数の強制わいせつ罪が成立する」を判例で解説~

罪数

 強制わいせつ罪(刑法176条)の罪数の考え方について、裁判で争点になった事例を紹介します。

13歳未満の者に対して暴行・脅迫によってわいせつ行為をした場合には、刑法176条の前段後段を問わず刑法176条の一罪が成立する

 13歳未満の者に対して暴行・脅迫によってわいせつ行為をした場合には、刑法176条の前段後段を問わず刑法176条一罪が成立します(最高裁決定 昭和44年7月25日)。

 なお、この点については、強制性交等罪(刑法177条)についても同様であり、大審院判決(大正2年11月19日)で判示されています。

 この判例で、裁判官は、

  • 13歳に満たざる少女を姦淫したるときは、暴行又は脅迫の有無を問わず、刑法第177条に該当するものなれば、暴力をもってこれを姦淫したる場合といえども、一所為一罪名にして、少女姦淫罪(刑法177条後段)と強姦罪(刑法177条前段)とのニ罪名に触れるものに非ず
  • 従って、刑法第54条の適用なし

と判示し、13歳未満の者に対し、暴行・脅迫によって強制性交をした場合は、刑法177条前段後段を問わず、刑法177条の一罪が成立するとしました。 

複数の被害者がいる場合、被害者の数に応じた個数の強制わいせつ罪が成立する

 異なる被害者に対して行われた強制わいせつ行為は、同一の機会に行われても、被害者の数ごとに強制わいせつ罪が成立し、被害者の数に応じて成立した複数の強制わいせつ罪は併合罪となります。

 この点について判示した以下の判例があります。

広島高裁岡山支部判決(昭和48年4月3日)

 同一の動機に基づき、ほとんど同一の日時場所において行われた異なる被害者に対する強制わいせつ罪の成立個数について、裁判官は、

  • 両女に対するわいせつ行為は、それがほとんど時と所を同じくして同一の動機のもとに行なわれたものであるとはいえ、各被害者に対する別個の意思にもとづく2個の行為が存し、かつこれらは併合罪の関係にあると解するのが相当である

と判示し、同一機会に行われた2名の被害女子に対する強制わいせつ行為については、被害者女性の数と同じ2個の強制わいせつ罪が成立するとしました。

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