前回の記事の続きです。
客体(性的影像記録)
性的影像記録提供等罪(性的姿態撮影等処罰法3条)の客体は、「性的影像記録」です。
「性的影像記録」とは?
1⃣ 「性的影像記録」とは、
により生成された
- 電磁的記録その他の記録
又は
- 当該記録の全部若しくは一部を複写したもの
です。
2⃣ 「性的影像記録」といえるためには、
により生成されたものであることが認められれば足り、性的姿態等撮影罪、性的姿態等影像記録罪の犯罪事実が詳細に特定されている必要はなく、起訴されている必要もないとされます。
「電磁的記録」とは?
3条1項の条文中にある「電磁的記録」とは、
- 電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録
であって、
- 電子計算機による情報処理の用に供されるもの
をいい、
- 刑法7条の2の「電磁的記録」と同義
です。
「その他の記録」とは?
3条1項の条文中にある「その他の記録」は、例えば、
- 性的影像記録である電磁的記録を紙媒体に印刷したもの
が該当します。
「電磁的記録その他の記録」の複写物も「性的影像記録」に含む
「電磁的記録その他の記録」を複写したものが提供された場合においても、性的影像記録提供等罪を構成します。
複写物であっても提供されれば、性的影像記録提供等罪の保護法益(自己の性的な姿態を他人に見られないという性的自由・性的自己決定権)を侵害することから、複写物も「性的影像記録」に含むとされています。
もっとも、
により生成された「電磁的記録その他の記録」には、
① 性的姿態等の影像に係る部分
のほか、
② 背景など、性的姿態等の影像ではない部分
が含まれ得ます。
ここで、②の部分だけを複写した記録を提供したとしても、保護法益を侵害するとはいえないことから、3条1項では、「性的影像記録」の定義において、
原本の一部が複写されたにとどまる場合については、「対象性的姿態等(前条第1項第4号に掲げる行為により生成された電磁的記録その他の記録又は第5条第1項第4号に掲げる行為により同項第1号に規定する影像送信をされた影像を記録する行為により生成された電磁的記録その他の記録にあっては、性的姿態等)の影像が記録された部分」が複写されたものであることを要する
とされました。
被害者が自分の意思で自己の性的な部分を撮影した性的影像記録は本罪の客体にならない
性的影像記録提供等罪の客体は、性的姿態等撮影罪(2条1~4号)の行為又は性的姿態等影像記録罪(6条1項)の行為により生成された電磁的記録その他の記録又は当該記録の全部若しくは一部を複写したものでなければなりません。
そのため、例えば、
- 撮影行為者が被害者自身である場合で、被害者自身が任意に自身の性的な部位を撮影した場合
は、その行為は、性的姿態等撮影罪(2条1~4号)の行為にも、また、性的姿態等影像記録罪(6条1項)の行為にも該当しないため、その行為により生成された電磁的記録は性的影像記録提供等罪の客体になりません。
したがって、そのような電磁的記録を他人に提供したり陳列しても、性的影像記録提供等罪は成立しません。
提供された「性的影像記録」が加工されたものであった場合の本罪の成否
提供された「性的影像記録」が加工されたものであった場合は、加工によって影像の同一性が失われたか否かによって「性的影像記録」に該当するか否かが判断されます。
同一性の判断に当たっては、性的影像記録提供等罪の保護法益が「自己の性的な姿態を他人に見られないという性的自由・性的自己決定権」であることを踏まえ、
性的影像の本質的部分である性的姿態の影像に変更があるかどうか
が重視されるとされます。
加工がされていても同一性が失われないとされる場合として、例えば、
- 撮影対象者の顔にはモザイク処理がされているが、性器や乳房にはモザイク処理がされていない場合
は、性的影像の本質的部分である性的姿態の影像に変更があるとはいえないので、同一性が認められ、性的影像記録提供等罪が成立すると考えられています。
反対に、加工により同一性が失われているとされる場合として、例えば、
- 撮影対象者の性的部位を他人の性的部位を置き換える加工がされている場合
は、性的影像の本質的部分である性的姿態の影像に変更があるといえるので、同一性が認められず、性的影像記録提供等罪が成立すると考えられています。