前回の記事の続きです。
この記事では、性的姿態等影像送信罪(性的姿態撮影等処罰法5条)の行為(影像送信行為)を説明します。
性的姿態等影像送信罪の行為は、
- 5条1項の影像送信行為
- 5条2項の影像送信行為
と内容が異なることから、それぞれについて説明ます。
① 5条1項の性的姿態等影像送信罪の影像送信行為
1⃣ 5条1項の性的姿態等影像送信罪の影像送信行為は、2条の性的姿態等撮影罪と同様の態様・方法により性的な姿態の影像を捕捉してその影像送信をする行為が処罰対象とされています。
2⃣ 1項の性的姿態等影像送信罪の処罰対象となる影像送信行為は、「不特定又は多数の者」に対するものに限られます(5条1項柱書)。
「不特定」とは、
相手方が特殊の関係によって限定されていないこと
をいいます。
「多数」とは、
少なくとも2人以上であること
をいいます。
3⃣ 5条1項の性的姿態等影像送信罪の影像送信行為は、5条1項の1号~4号の行為があり、以下でそれぞれについて説明します。
1号の「正当な理由がないのに、送信されることの情を知らない者の対象性的姿態等の影像の影像送信をする行為」とは?
1⃣ 1号の「送信されることの情を知らない…」とは、
被害者に対象性的姿態等を送信することを知られないような態様で送信する行為
を意味します。
2⃣ 「正当な理由」としては、例えば、
- 医療行為としての必要性から医師が被害者の上半身裸を不特定・多数の医療従事者にライブ配信する場合
が挙げられます。
「正当な理由」であるか否かの判断は、
- 影像送信行為者(犯人)と撮影対象者(被害者)の関係
- 影像送信の目的、撮影方法
- 性的姿態の内容
などを総合して判断されます。
3⃣ 「影像送信」とは、
電気通信回線を通じて影像を送る行為
をいいます。
「影像送信」は、例えば、インターネットのライブ配信行為が該当し、スマートフォンやパソコンなどの記録装置に既に存在して記録されている性的姿態影像を電気通信回線を通じて送信する行為は含まれません。
電気通信回線の「電気通信」とは、
有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けること
をいいます。
「電気通信回線」 とは、
「電気通信」を行うために設定される回線
をいい、有線・無線を問いません。
2号の「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて…影像送信する行為」とは?
2号の「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて…影像送信する行為」とは、
不同意わいせつ罪(刑法176条)と同様の原因行為・原因事由により、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて影像送信する
という意味です。
そうであるので、以下①~④で不同意わいせつ罪(刑法176条)の条文にある「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の意義を説明します。
①「同意しない意思を形成…することが困難な状態」とは?
「同意しない意思を形成…することが困難な状態」とは、
わいせつな行為をするかどうかの判断・選択をする契機や能力が不足し、わいせつな行為をしない、したくないという発想をすること自体が困難な状態
をいいます。
例えば、
- 眠るなどして意識がない状態
- 知的障害などの影響により、わいせつな行為に同意しないかどうかの判断をするだけの能力が不足している状態
- 虐待を受けていたため、わいせつな行為に同意しないという考え自体が浮かばない状態
- わいせつ行為が不意打ちで行われたため、状況が把握できない状態
- 驚きや恐怖などで思考停止状態になり、わいせつな行為に同意しないかどうかの判断自体ができない状態
が挙げられます。
②「同意しない意思を…表明…することが困難な状態」とは?
「同意しない意思を…表明…することが困難な状態」とは、
わいせつな行為をしない、したくないという意思を形成すること自体はできたものの、それを外部に表すことが困難な状態
をいいます。
例えば、
わいせつ行為をしない、したくないと思ったものの、それを犯人に伝えたときの不利益(犯人を怒らせてひどい目に遭わされるなど)を憂慮して言い出せない状態
が挙げられます。
③「同意しない意思を…全うすることが困難な状態」とは?
「同意しない意思を…全うすることが困難な状態」とは、
わいせつな行為をしない、したくないという意思を形成し、又は、その意思を表明したものの、その意思のとおりになるのが困難な状態
をいいます。
例えば、
- 犯人に押さえつけられて身動きがとれない状態
- 恐怖心からわいせつな行為をしたくないという意思表明以上のことができない状態
が挙げられます。
④「…困難な状態」とは?
不同意わいせつ罪の成立を認めるに当たり、「困難」の程度は問いません。
改正前刑法の強制わいせつ罪(改正前刑法176条)では、暴行又は脅迫の程度について、
- 被害者の意思に反して、わいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制する程度・態様の暴行であれば足りる
とされ、改正前刑法の強制性交等罪(刑法177条)では、暴行又は脅迫の程度について、
- 相手の反抗を著しく困難ならしめる程度
とされていましたが、不同意わいせつ罪と不同意性交等罪では、「困難」が著しく困難である必要はなく、困難の程度は問わないとされます。
「影像送信行為」は、行為者(犯人)が自ら影像送信行為をする場合だけでなく、行為者が撮影対象者(被害者)を利用して行う場合も該当する場合がある
「影像送信行為」は、行為者(犯人)が自ら影像送信行為をする場合だけでなく、行為者が撮影対象者(被害者)を利用して行う場合も該当する場合があります。
例えば、
- 影像送信行為の性質が性的なものではないとの誤信している被害者に、被害者自ら自己の性的姿態を撮影させて影像送信した場合
は、被害者を利用して犯人が影像送信を行ったといい得るため、「影像送信をする行為」に該当し得ます。
3号の「行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは不特定若しくは多数の者に送信されないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて…影像送信をする行為」とは?
1⃣ 3号は、
- 被害者に影像送信の性質が性的なものではないとの誤信がある場合
- 被害者に影像送信された影像が不特定若しくは多数の者に送信されないとの誤信がある場合
につき、被害者が影像送信に応じるかどうかの自由な意思決定の前提となる認識を欠くことから、それらの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じた性的姿態の影像送信を処罰することとしたものです。
2⃣ 「行為の性質が性的なものではないとの誤信」とは、
影像送信が性的な性質を有するにもかかわらず、性的な性質がないものと誤信していること
をいいます。
例えば、被害者が乳房の影像の送信されたが、
- 被害者は、胸部の皮膚の炎症の治療のために必要な医療行為に必要な撮影行為であるとの誤信をしていた場合
がこれに該当し得ます。
3⃣ 「不特定若しくは多数の者に送信されないとの誤信」とは、
撮影行為により生成される記録を不特定若しくは多数の者に送信するにもかかわらず、不特定若しくは多数の者には送信しないものと誤信すること
をいいます。
4⃣ 4号の実行行為である「影像送信をする行為」についても、2号と同様に、行為者(犯人)が自ら行う場合だけでなく、行為者(犯人)が撮影対象者(被害者)を利用して行う場合も該当する場合があります。
4号の「正当な理由がないのに、…16歳未満の者を対象として、…影像送信をする行為」とは?
1⃣ 16歳未満の者(被害者)は、
性的な姿態の撮影行為に応じるかどうかについて有効に自由な意思決定をする前提となる能力が十分に備わっていない
と考えられています。
そのため、16歳未満の者(被害者)を対象とする影像送信行為は、その者の自由な意思決定に基づくものとはいえず、性的姿態等撮影罪の保護法益(自己の性的な姿態を他人に見られないという性的自由・性的自己決定権)を侵害する行為となります。
そこで、4号は「16歳未満の者」を対象とする影像送信行為を、年齢差要件を設けた上で処罰することとしたものです。
※ 年齢差要件の詳しい説明は、性的姿態等撮影罪(1)の記事の「主体(犯人)」の項目を参照願います。
2⃣ 4号の実行行為である「影像送信をする行為」についても、2号、3号と同様に、行為者(犯人)が自ら行う場合だけでなく、行為者(犯人)が撮影対象者(被害者)を利用して行う場合も該当する場合があります。
3⃣ 4号の「正当な理由」は、1号の「正当な理由」 と同様の意義です。
5条2項の性的姿態等影像送信罪の影像送信行為
5条2項の性的姿態等影像送信罪は、5条1項の性的姿態等影像送信罪の行為により影像送信された影像を、更に不特定・多数の者に対して送信(転送)する行為する行為(二次影像送信行為)を処罰するものです。
1⃣ 5条2項の「情を知って」とは、
影像送信をされた影像を受信した者が更に別の者に影像送信をする行為の対象となる影像が、5条1項の性的姿態等影像送信罪の1号~4号のいずれかに掲げる行為により影像送信されたものであることを認識していること
をいいます。
2⃣ 2項の性的姿態等影像送信罪の「不特定」「多数」「影像送信」の意義は、上記で説明した1項の性的姿態等影像送信罪のものと同じです。