刑事訴訟法(捜査)

捜索・差押え・記録命令付差押えとは?③ ~「令状の呈示と執行」「現場の立会人」「捜索・差押え時にできる必要な処分」を刑事訴訟法、判例で解説~

捜索・差押えの令状の呈示と執行

 捜索差押許可状などの捜索・差押えの令状は、捜索・差押えを受ける者に呈示してから、捜索・差押えを執行(実行)する必要があります(刑訴法110条222条1項)。

 捜索・差押えの令状の呈示は、

手続の公正を担保するとともに,処分を受ける者の人権に配慮する趣旨

で行われます(最高裁判例(平成14年10月4日)

 犯罪捜査規範141条にも、

1 令状により捜索、差押え、記録命令付差押え、検証又は身体検査を行うに当たつては、当該処分を受ける者に対して、令状を示さなければならない

 やむを得ない理由によつて、当該処分を受ける者に令状を示すことができないときは、立会人に対してこれを示すようにしなければならない

と規定されています。

 捜索・差押え現場には、処分を受ける者か、処分を受ける者(捜索、差押えを受ける者)が立ち会えなければ、誰か別の立会人を見つけて捜索・差押の現場に立ち会わせる必要があります。

 処分を受ける者が立ち会わないなどの理由で、処分を受ける者に令状を示すことができない場合は、立会人に令状を示す必要があります。

捜索・差押えに着手した直後に令状を呈示しても適法となることがある

 通常、捜索・差押えは、令状を捜索・差押えを受ける者に呈示した後に実行します。

 しかし、捜索・差押えの令状を捜索・差押えを受ける者に呈示してから、捜索・差押えに着手したのでは、捜索・差押えを受ける者に証拠を処分されるなどの恐れがある場合は、令状の呈示を事後的に行ってもよいとされます。

 たとえば、覚醒剤取締法違反の被疑者の家の捜索・差押えを行う場合、

「警察です。捜索・差押えの令状をあなたに示したいので、家のドアを開けてください。」

と言っていたのでは、被疑者は、家のドアを開ける前に、覚醒剤をトイレに流すなどして罪証隠滅行為をするでしょう。

 この点については、最高裁判例(平成14年10月4日)があり、裁判官は、

  • 警察官らは、被疑者に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、被疑者が宿泊しているホテル客室に対する捜索差押許可状を被疑者在室時に執行することとした
  • 捜索差押許可状執行の動きを察知されれば、覚せい剤事犯の前科もある被疑者において、直ちに覚せい剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物件を破棄隠匿するおそれがあったため、ホテルの支配人からマスターキーを借り受けた上、来意を告げることなく、施錠された上記客室のドアをマスターキーで開けて室内に入り、その後直ちに被疑者に捜索差押許可状を呈示して捜索及び差押えを実施したことが認められる
  • 以上のような事実関係の下においては、捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は、捜索差押えの実効性を確保するために必要であり、社会通念上相当な態様で行われていると認められるから,刑訴法222条1項111条1項に基づく処分として許容される

と判示しています。 

捜索・差押えの現場には立会人が必要

 捜索・差押えの令状は、捜索・差押えを受ける者に呈示する必要があります。

 これが意味することは、捜索・差押えの現場には、令状を示すための立会人が必ずいなければならないということです。

 いくら令状が出ているからといって、立会人なしで、捜査機関が単独で人の住居などに立ち入って、捜索・差押えを実行することはできないのです。

 立会人は、通常、捜索する場所の支配者になります(刑訴法114条)。

 もし、支配者がいない場合は、代人(家族、弁護人など)に立ち会ってもらって捜索・差押えを実行します。

 代人もいない場合は、隣人又は地方公共団体の職員を立ち会わせることになります(刑訴法114条)。

 また、捜索、差押えの現場に被疑者を立ち会わせる必要があれば(目的の証拠物がある場所を被疑者が知っていて案内できるなど)、被疑者を立ち会わせることができます(刑訴法222条6条)。

捜索・差押えの執行に当たり、必要な処分ができる

 刑訴法111条に、

『差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる』

と規定されています。

 この『必要な処分』が何かについて説明します。

捜索・差押現場えの写真撮影

 必要な処分として、捜査機関が、捜索・差押え状況を写真撮影することや、差し押さえた物の写真撮影をすることができます。

 どこから何を差し押さえたのかを写真撮影して保全しておく必要性は高いです。

捜索・差押え現場の部外者の立入禁止

 必要な処分として、捜査・差押え現場の部外者の立ち入りを禁止することができます(刑訴法112条)。

 また、捜査・差押えを中断する場合に、捜索・差押えが終わるまで、その場所を閉鎖し、看守者を起き、部外者の出入りを禁止できます(刑訴法118条)。

写真の現像

 必要な処分として、差し押さえたフィルムから写真を現像することができます。

 この点については、東京高裁判例(昭和45年10月21日)があり、裁判官は、

  • 司法警察員が刑事訴訟法218条1項の定めるところによって、裁判官の発する令状により捜索差押をする場合には、同法222条1項により111条が準用され、司法警察員は押収物について同条2項により1項の処分、すなわち 「錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」ことが明らかである
  • そして、「必要な処分」とは、押収の目的を達するため合理的に必要な範囲内の処分を指すものであって、必ずしもその態様を問わない
  • これを本件フイルムについてみると、犯行を証明する重要な証拠物であるが、これをその証明の用に供するためには、本件の場合未現像のままでは意味がなく、そのフイルムがいかなる対象を写したものであるかが明らかにされることによってはじめて証拠としての効用を発揮する
  • したがって、本件犯行と関係ある証拠物であるかどうかを確かめ、かつ裁判所において直ちに証拠として使用しうる状態に置くために、本件フイルムを現像して、その影像を明かにしたことは、当該押収物の性質上、これに対する「必要な処分」であったということができる

と判示しています。

ドアの鍵や扉の破壊しての捜索・差押え現場への突入

 捜索・差押えを行う建物が施錠されている場合、捜査機関は、必要な処分として、ドアの鍵や扉を破壊し、建物内部に入ることができます。

 この点については、大阪高裁判例(平成6年4月20日)があり、裁判官は、

  • 法は、捜索を受ける者が受忍的協力的態度をとらず、令状を提示できる状況にない場合においては、捜査官に対し令状提示を義務付けている法意に照らし、社会通念上相当な手段方法により、令状を提示することができる状況を作出することを認めていると解される
  • かつ、執行を円滑、適正に行うために、執行に接着した時点において、執行に必要不可欠な事前の行為をすることを許容している(111条)
  • 例えば、住居の扉に施錠するなどして令状執行者の立入りを拒む場合には、立ち入るために必要な限度で、錠をはずしたり破壊したり、あるいは扉そのものを破壊して、令状の提示ができる場に立ち入ることも許していると解される

と判示しています。

宅配業者を装っての捜索・差押え現場への突入

 捜査機関が、宅配業者などを装って、捜索・差押えを受ける者に部屋の鍵を開けさせ、部屋の内部に突入することが、必要な処分として認められます。

 この点については、先ほどの大阪高裁判例(平成6年4月20日)があり、裁判官は、

  • ごく短時間で証拠隠滅ができる薬物犯罪において、捜索に拒否的態度をとるおそれのある相手方であって、その住居の玄関扉等に施錠している場合は、そもそも、正直に来意を告げれば、素直に開扉して捜索に受忍的協力的態度をとってくれるであろうと期待することが初めからできない場合であるし、開扉をめぐっての押し問答等をしている間に、容易に証拠を隠滅される危険性がある
  • このような場合、捜査官は、令状の執行処分を受ける者らに証拠隠滅工作に出る余地を与えず、かつ、できるだけ妨害を受けずに円滑に捜索予定の住居内に入って捜索に着手でき、かつ捜索処分を受ける者の権利を損なうことがなるべく少ないような社会的に相当な手段方法をとることが要請され、法は、前同条の「必要な処分」としてこれを許容しているものと解される
  • 被告人については、警察官が覚醒剤取締法違反の疑いで捜索差押に来たことを知れば、直ちに証拠隠滅等の行為に出ることが十分予測される場合であると認められるから、警察官らが、宅急便の配達を装って、玄関扉を開けさせて住居内に立ち入ったという行為は、有形力を行使したものでも、玄関扉の錠ないし扉そのものの破壊のように、住居の所有者や居住者に財産的損害を与えるものでもなく、平和裡に行われた至極穏当なものであって、手段方法において、社会通念上相当性を欠くものとまではいえない

と判示しています。

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