捜索・差押えの範囲
捜索・差押え現場に居合わせた人の着衣・身体に対する捜索・差押え
捜索・差押えの令状の効力で、
捜索・差押え現場に居合わせた人の着衣・身体
に対する捜索・差押えができます。
この点については、東京高裁判例(平成6年5月11日)があり、裁判官は、
- 場所に対する捜索差押許可状の効力は、当該捜索すべき場所に現在する者が当該差し押さえるべき物をその着衣・身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、許可状の目的とする差押を有効に実現するためにはその者の着衣・身体を捜索する必要が認められる具体的な状況の下においては、その者の着衣・身体にも及ぶものと解するのが相当である(もとより「捜索」許可状である以上、着衣・身体の捜索に限られ、身体の検査にまで及ばないことはいうまでもない。)
- 被告人が捜索差押許可状の差押の目的物を所持していると疑うに足りる十分な理由があり、かつ、直ちにその物を確保すべき必要性、緊急性が認められるから、右許可状に基づき、強制力を用いて被告人の着衣・身体を捜索することは適法というべきである
と判示しています。
捜索・差押え現場に居合わせた人の所持品に対する捜索・差押え
捜索・差押えの令状の効力で、
捜索・差押え現場に居合わせた人の所持品
に対する捜索・差押えができます。
この点については、最高裁判例(平成6年9月8日)があり、裁判官は、
- 被告人の内妻に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、内妻と被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け、居室の捜索を実施した
- その際、同室に居た被告人が携帯するボストンバッグの中を捜索した
- このような事実関係の下においては、捜索差押許可状に基づき被告人が携帯するボストンバッグについても捜索できるものと解するのが相当である
と判示しています。
捜索・差押え現場に配達された荷物に対する捜索・差押え
捜索・差押え現場に配達された荷物に対し、捜索・差押えをすることが認められます。
この点については、最高裁判例(平成19年2月8日)があり、裁判官は、
- 覚せい剤取締法違反被疑事件につき、捜索場所を被告人方居室等、差し押さえるべき物を覚せい剤等とする捜索差押許可状に基づき、被告人立会いの下に上記居室を捜索中、宅配便の配達員によって被告人あてに配達され、被告人が受領した荷物について、警察官において、これを開封したところ、中から覚せい剤が発見されたため、被告人を覚せい剤所持罪で現行犯逮捕し、逮捕の現場で上記覚せい剤を差し押さえた
- (弁護人は,)上記許可状の効力は令状呈示後に搬入された物品には及ばない旨主張するが、警察官は、このような荷物についても上記許可状に基づき捜索できるものと解するのが相当である
と判示しています。
女性の身体の捜索
証拠物を探して差し押さえるため、女性が身に着けている衣類の中を捜索する場合は、
成年の女子を現場に立ち会わせる
これは、女性の身体に対する不当な捜索が行われないように抑止力を働かせるためと考えられます。
なお、捜索・差押え現場に男性の捜査官しかいないが、女性の身体の捜索を行うことが
急速を要する
という状況であれば、
成年の女子の立会なし
で、女性の身体の捜索ができるとされています(刑訴法115条ただし書き)。
ここでもし、女性の身体の捜索が、
服を脱がすなど、身体検査に領域に至る場合
は、それは、身体の捜索ではなく、身体検査と見なされます。
犯罪捜査規範107条には、『女子の任意の身体検査は、行ってはならない。ただし、裸にしないときはこの限りでない。』と規定されています。
言い換えると、女性の任意の身体検査は、女性を裸にしない範囲内であればできるということです。
女性の任意の身体検査はできるとはいえ、身体検査と見なされる場合は、刑訴法131条2項が適用されるので、
必ず医師または成年の女性を立ち会わせる
必要があります。
「女性の身体の捜索」と「女性の身体検査」の場合の違い
女性の身体の捜索の場合は、
急速を要する場合は、成年の女性の立会は不要
です。
これに対し、女性の身体検査の場合は、
急速を要しても、必ず医師またま成年の女性を立ち会わせる必要がある
という違いがあります。
捜索・差押えの夜間(日没前~日没後)処分の制限
捜索・差押えには、夜間処分の制限があります。
夜間とは、
日没前から日没後
を指します。
具体的には、捜索・差押えは、令状(捜索差押許可状)に
夜間でも執行することができる
旨の記載がなければ、夜間(日没前・日没後)に執行することはできません(刑訴法116条、222条3~5項)。
ただし、日没前に捜索・差押えに着手したときは、着手後に日没したとしても、捜索・差押えを継続して行うことができます(刑訴法116条2項)。
夜間営業のお店に対する捜索・差押えに夜間処分の制限はない
夜間営業のお店や、夜間でも人が出入りする場所に対する捜索・差押えは、夜間処分の制限はありません(刑訴法117条、222条4項ただし書き)。
夜間処分の制限がない場所とは、
- 賭博場
- 風俗店
- 旅館
- 飲食店
などの夜間でも人が出入りすることができる場所をいいます。
『捜索・差押え・記録命令付差押えとは?』の記事一覧
捜索・差押え・記録命令付差押えとは?① ~「根拠法令」「 捜索許可状・差押許可状・記録命令付差押許可状の発付」「別事件の証拠物の差押えの違法性」「無令状による捜索・差押え」を判例などで解説~
捜索・差押え・記録命令付差押えとは?② ~「令状の発付要件(罪を犯したと思料されること)」「捜索の場所、差し押さえるべき物の明示」などを判例で解説~
捜索・差押え・記録命令付差押えとは?③ ~「令状の呈示と執行」「現場の立会人」「捜索・差押え時にできる必要な処分」を刑事訴訟法、判例で解説~
捜索・差押え・記録命令付差押えとは?④ ~「捜索・差押えの範囲(着衣、所持品、配達物、立会人の身体)」「女性の身体の捜索」「夜間(日没前~日没後)処分の制限」を判例などで解説~
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押収(差押え・領置)とは?① ~「差押えと領置の違い」「押収拒絶権」「錯誤による領置」「ゴミ・郵便物の領置」を判例などで解説~
押収(差押え・領置)とは?② ~「証拠物の保管(善良なる管理者の注意義務)」「換価処分」「現状回復の原則」「還付と仮還付」「準抗告」を判例などで解説~