前回の記事では、正当行為のうち、以下の「① 法令行為」、「② 正当業務行為」について説明しました。
今回は、「③ 自救行為」について説明します。
- 法令行為
- 正当業務行為
- 自救行為
- 被害者の承諾による行為
- 被害者の推定的承諾による行為為
- 労働争議行為
自救行為とは?
自救行為とは、
国家に頼らず、自らの力で自分の権利を守ること(自力救済すること)
をいいます。
極端な例ですが、たとえば、自分の家族を殺された場合、犯人は国家により裁かれます。
しかし、「国家による裁きを待っていられない!」「自の力で犯人に復讐して自分の権利を守る!」と考え、復讐をして犯人を殺すことは、自救行為と位置づけることができます。
ですが、本来、自救行為は禁止されています。
どんな場合でも国家が、国民の権利を守り、救済することになっているためです。
日本では、国民が、自らの力で、自らの権利を守り、自らを救済する「自力救済」を前提としていないのです。
しかし、自力救済を全く禁止してしまったら、国家による救済を待っていられない緊急事態が起こったときに、国家は、国民に対し、「自力救済はせずに、そのままやられろ」と宣告する状態になってしまいます。
なので、自力救済を完全に禁止することは妥当ではありません。
そのため、自力救済は、一定の限度で認められているのです。
自力救済をして、それが犯罪行為になっても、違法性が阻却され、犯罪を成立させないのです。
自力救済は、違法性阻却事由となるのです。
「正当防衛・緊急避難」と「自救行為」の違い
自分の身を自分で守るという点において、正当防衛・緊急避難は、自救行為と同じです。
区別される理由は、
- 正当防衛・緊急避難は、危険が目の前に差し迫った場合に行う緊急行為
- 自救行為は、危険は過ぎ去ったが、侵害された状態が残っている場合に行う緊急行為
であるという点にあります。
自救行為の例
たとえば、道端でひったくり被害に遭い、バッグをひったくられた場合に、バッグを取り返すために、ひったくりを追いかけて捕まえ、実力行使をしてバッグを取り返すのは、自救行為になります。
自救行為が認められ、無罪判決となった判例
裁判所
福岡高等裁判所(昭和45年2月14日判決)
事件内容
店舗の賃借権をもつAが、賃借権に基づき、店舗の使用を続けるため、賃貸人が店舗に施したカギを壊して、別のカギに取りかえ、店舗内に自動車を格納しました。
Aは、カギを壊した器物損壊罪、店舗内に自動車を格納した不動産侵奪罪で起訴されました。
判決内容
裁判所は、店舗の賃借権をもつAの行動は、店舗の占有を奪回する行為であり、自救行為として法律上許されるとし、Aを無罪としました。
まとめ
自救行為は、法律に規定がありません。
つまり、法律は、基本的には、侵害に対する救済は、
国家によりなされるべき
という立場をとっています。
現に、上記のように、下級裁判所では自救行為が認められた判例は存在しますが、最高裁判所が自救行為を認めた判例はないようです。
そのくらい自救行為というのは、基本的に認められていないのです。
安易に犯罪になるような自救行為を行って、有罪にならないように注意が必要です。
何らかの犯罪被害に遭ったら、まずは警察を呼びましょう。
次回
今回は、以下の①~⑧の正当行為のうち、「③ 自救行為」について説明しました。
- 法令行為
- 正当業務行為
- 自救行為
- 被害者の承諾による行為
- 被害者の推定的承諾による行為為
- 労働争議行為
次回は、「④ 被害者の承諾による行為」、「⑤ 被害者の推定的承諾による行為」について説明します。