ストーカー規制法

ストーカー規制法(8)~2条1項5号の「電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること」を説明

 前回の記事の続きです。

2条1項5号の「電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること」とは?

 ストーカー規制法2条1項5号は、ストーカー行為として、

  • 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること

と規定します。

 2条1項5号の行為は、

  1. 無言電話、連続電話
  2. 文書送付
  3. ファクシミリ、電子メールの送信

に分けることができます。

 以下でそれぞれについて説明します。

① 無言電話、連続電話

 行為の内容は、

  • 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけること

です。

「電話をかけて何も告げず」とは?

1⃣ 「電話をかけて何も告げず」とは、

  • 行為の相手方(被害者、被害者の密接関係者)に電話をかけ、その相手方が電話に出たにもかかわらず、何も言わないこと

をいい、

  • 電話をかけて何も言わないで沈黙を保つ
  • 電話をかけて何も言わないで切る

という行為が該当すると解されています。

2⃣ 無言ではないが実質的に何も伝えていない場合も「電話をかけて何も告げず」に該当し得ると解されています。

 例えば、電話をかけて、

  • うめき声を発する
  • 喘ぎ声を発する

といった行為が該当し得ます。

3⃣ 「電話をかけて何も告げず」が認められるためには、一旦は「電話がつながる」という状態が確保されることが必要であると解されています。

「拒まれたにもかかわらず」とは?

1⃣ 「拒まれたにもかかわらず」とは、

  • 行為の相手方(被害者、被害者の密接関係者)が電話をかけられることなどを拒絶していること

をいいます。

2⃣ 「拒まれたにもかかわらず」が認められるためには、

  • 犯人が被害者から拒絶されていることを認識していること

が必要です。

 犯人の被害者から拒絶されていることの認識は、

  • 被害者から直接拒むことを告げられた場合

はもちろん、

  1. 被害者が警察に相談し、警察から犯人に対して被害者が拒んでいることを告げ、犯人がそれを認識した場合
  2. 犯人が被害者から拒絶していることを明示的に告げられていなくても、犯人が被害者から拒絶されていること察して認識した場合(被害者の拒絶は、黙示の拒絶でもよい)

も含むと解されています。

 ②の被害者の黙示の拒絶の具体例として、

  • 被害者が犯人から電話を着信拒否し、「おかけになった電話番号への通話は、おつなぎできません」といった着信拒否の自動音声が犯人の電話に流れた場合
  • 被害者が犯人からスマートフォンで送信されてくるメッセージの受信拒否設定をし、犯人が受信拒否設定をされていることが分かる場合

が挙げられます。

「連続して」とは?

1⃣ 「連続して」とは、

  • 短時間や短期間に何度も

という意味です。

 例えば、

  • 連日にわたり、一日のうちに何度も電話をかけたり、SNSメッセージを送信する場合
  • 電話をかけたり、SNSメッセージを送信するのは1日に1回程度だが、それが長期間続いている場合

が該当し得ます。

2⃣ 電話、文書、ファクシミリ、電子メール等の内容はどのようなものでもよいとされます。

 電話、文書、ファクシミリ、電子メール等のいずれか一つのみを連続して送信等する場合に限られるものではなく、これらのものの複数を連続して送信等を行う場合でもよいとされます。

「電話をかけ」とは?

1⃣ 「電話をかけ」は、

  • 被害者との間で通話状態となる必要はなく、被害者が着信拒否設定をしている場合でも、着信履歴から連続して電話をかけたことが認められれば、「電話をかけ」に該当する

と解されています。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(平成15年3月5日)

 被害者が着信許否設定をしている携帯電話に電話をかけ続ける行為がストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項5号の「電話をかけ」る行為に該当させるとされた事例です。

 裁判所は、

  • 論旨(※弁訴人の主張)は、要するに、原判決は、被告人が、前後299回にわたり、Bから拒まれたにもかかわらず、連続して被告人所有の携帯電話からB所有の携帯電話に電話をかけた行為が、法2条1項5号に該当する旨判示するが、Bの携帯電話には、それ以前から、被告人の携帯電話からの電話に対しては着信拒否とする設定がなされており、被告人がBの携帯電話に電話をかけようとしてもその信号は届かず、Bは着信音もバイプレーターによる振動も感じたことはなく、Bの平穏な生活は一切侵害されておらず、法益の侵害がないから、被告人が前記電話をかけた行為は法2条1項5号に該当しないにもかかわらず、前記のとおり判示した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである
  • 関係証拠によれば、Bは、被告人が頻繁に電話をかけてくることから、平成13年夏ころ、被告人の使用する携帯電話からBの使用する携帯電話への通話に対して着信拒否の設定をしたこと、しかし、そのような被告人からの電話でもBの携帯電話には着信履歴が残るので、同人はそれを見て、被告人が頻繁に電話をかけてくることを認識していたこと、他方で被告人は、自己の携帯電話からBの携帯電話に電話をかけると、「この電話番号からはかかりません。」という趣旨のメッセージが流れ、その電話と通話できない状態になっていることを認識していたが、自己のBに対する思いを伝えるため、頻繁に同人の携帯電話に電話をかけ続けたことが認められる
  • 前記認定のとおり、Bの携帯電話には、被告人の携帯電話からの電話について着信拒否とする設定がなされていたところ、そのような場合に、被告人が電話をかけたことが、法2条1項5号の「電話をかけ」に該当するか否 かについて検討する
  • 法2条1項5号は「電話をかけ」と規定していて、通話可能状態となることまでを要件とはしていないこと、同項2号、6号ないし8号の「つきまとい等」については、被害者が「知り得る状態に置くこと」をもって足りると規定されていること、着信拒否をしているにもかかわらず、被害者は着信履歴を見て、犯人が執拗に電話をかけてくることを知り得るのであって、そのことにより被害者が不安感を抱くおそれは十分保護に値すると思われること、さらに、ストーカー行為を規制することにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする法の趣旨を考慮すると、本件のように着信拒否の設定がなされていた場合であっても、被害者が着信履歴を確認して犯人から電話があったことを認識し得る以上、犯人が電話をした行為は、法2条1項5号の「電話をかけ」に該当するものと解するのが相当である
  • これに対し、所論は、被告人が電話をしても、被害者は着信音もバイプレーターによる振動も感じたことはなく、被害者の平穏な生活は一切侵害されておらず、法益の侵害がないと主張するが、被害者が被告人からの電話があったことを知り得る以上、被害者が着信音を聞いていたか、バイブレーターを設置していたがたまたま気付かなかったか、着信拒否にしていたか、たまたま携帯電話を所持していなかったかなどの偶発的事情で犯罪の成否が左右されるのは不合理である上、前記のとおり、被害者が不安感を抱くおそれは十分保護に値するものであって、法益侵害が認められることに照らすと、所論は失当である

と判示しました。

2⃣ 電話には、LINE電話などのSNSアプリの機能を使った電話も含まれると解されています。

②文書送付

 行為の内容は、

  • 拒まれたにもかかわらず、連続して、文書を送付すること

です。

「文書」とは?

 「文書」とは、

  • 文字や記号で人の思想を表したもの

をいいます。

 例えば、

  • 手紙、封書、はがき

はもちろん文書に該当しますが、

  • 相手方の氏名のみ記載されており、便箋などの中身が入っていない封筒
  • 被害者にしか意味が分からない記号が記載された紙片

もここにう文書に含まれ得るとされます。

 なお、

  • 白紙

は文書に含まれません。

「送付」とは?

 「送付」とは、

  • ある場所・人から他の場所・人に書類その他の物を送り届けること

をいいます。

 例えば、

  • 被害者宅の郵便ポストに文書を投函する行為

が送付に該当することはもちろん、

  • 被害者宅のドアの隙間から文書を差し入れたり、ドアの隙間に文書を挟む行為
  • 被害者宅の玄関のドアノブに文書を入れた袋を掛ける行為

も送付に該当すると解されています。

③ファクシミリ、電子メールの送信

 行為の内容は、

  • 拒まれたにもかかわらず、連続して、文書をファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること

です。

「電子メールの送信等をする」とは?

1⃣ 「電子メール」とは、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律2条1号の電子メールと同様であり、

特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信(有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう(電気通信事業法2条1号)。)であって、

その全部若しくは一部においてSMTP(シンプル・メール・トランスファー・プロトコル)が用いられる通信方式を用いるもの

 又は

携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式を用いるもの

をいうと解されています。

 には

  • パソコン・携帯電話端末によるEメール

のほか、

  • Yahoo!メールやGmailといったウェブメールサービスを利用したもの

が含まれます。

 ②には

  • SMS(ショート・メッセージ・サービス。携帯電話同士で短い文字メッセージを電話番号宛てに送信できるサービスをいう。)

が含まれます。

2⃣ 「電子メールの送信等をする」については、

  • 受信拒否設定をしている
  • 電子メール等の着信音が鳴らない設定にしている

などで、個々の電子メール等の着信の時点で、相手方である受信者がそのことを認識し得ない状態であっても、

受信履歴等から電子メール等の送信が行われたことを受信者が認識し得る

のであれば、「電子メールの送信等をする」に該当するものと解されています。

3⃣ 犯人において、

  • グループメッセージやメーリングリストを利用して電子メールを送信する場合
  • メールの自動送信設定を利用して電子メールを送信する場合

についても、犯人が被害者に電子メールを送信することを意図して送信したのであれば、「電子メールの送信等をする」に該当するものと解されています。

4⃣ 「電子メールの送信等をする」を認定するに当たり、電子メールに書かれている内容は問いません。

 電子メールの内容によって「電子メールの送信等をする」に該当しないという判断になることはありません。

「その他のその受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の送信を行うこと」とは?

 「その他のその受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」(2条2項1号)とは、

  • 上記電子メールに該当しないLINEやFacebook等のSNSメッセージ機能等を利用した電気通信

が該当します。

 「電気通信の送信を行うこと」は、あらゆる電気通信による通信が対象とされています。

「特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、その第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものの当該機能を利用する行為」とは?

1⃣ 「特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、その第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものの当該機能を利用する行為」(2条2項2号)とは、

  • 被害者が開設していホームページ、ブログのコメント欄への書き込み
  • 被害者のSNSのコメント欄への書き込み

が該当すると解されています。

2⃣ 被害者が開設したものではないインターネットのプラットフォーム(ホームページ、ブログ、SNS等)にメッセージを書き込む行為は、メッセージが被害者を名指ししたものであったとして「特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させること」に該当しないと解されています。

 例えば、

  • インターネット掲示板である「2ちゃんね」のスレッドに、被害者を名指して復縁を迫るメッセージを書き込む行為

は、「特定の個人がその入力する情報を電

 また、上記のようなインターネット掲示板に、上記のようなメッセージを書き込む行為は、「第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものの当該機能を利用する行為」にも該当しないと解されます。

3⃣ 上記のようにインターネット掲示板にメッセージを書き込む行為が、2条2項5号の行為に該当しないとしても、

  • 2条1項2号の「その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと」
  • 2条1項6号の「著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を知り得る状態に置くこと」
  • 2条1項7号の「名誉を害する事項を知り得る状態に置くこと」
  • 2条1項8号の「性的羞恥心を害する電磁的記録を知り得る状態におくこと」

に該当する場合があります。

「①無言電話、連続電話」「③ファクシミリ、電子メールの送信」が複数の媒体やツールを用いて行われた場合

 2条1項5号の「電話をかけ」は、1個の電話機を使って行われたものである必要はなく、例えば、

  • 携帯電話機を使った電話
  • 固定電話機を使った電話
  • アプリ機能を使った電話(LINE電話など)

が複合して行われた場合でも、

これらの電話が犯人による電話であり、連続して行われた電話であること

が認められれば、「①無言電話、連続電話」が認定できます。

 また、2条1項5号の「③ファクシミリ、電子メールの送信」も同様であり、

  • 複数のファクシミリ機による文書送信
  • LINE、Facebookなどの複数のアプリを使ってのメッセージ送信

が複合して行われた場合でも、

これらの文書送信、メッセージ送信が犯人によって連続して行われたものであること

が認められれば、「③ファクシミリ、電子メールの送信」が認定できます。

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