刑法(窃盗罪)

窃盗罪㉒ ~「窃盗罪における包括一罪(接続犯)」「窃盗罪の既遂と未遂が併発した場合の罪数」「窃盗罪の間接正犯と教唆犯が併発した場合の罪数」を判例などで解説~

窃盗罪における包括一罪(接続犯)

 窃盗罪は、1回の窃取行為につき、1個の窃盗罪が成立するというのが、原則です。

 2回の窃盗行為を行えば2個の窃盗罪が成立し、3回の窃盗行為を行えば3個の窃盗罪が成立するといった感じです。

 しかし、2回以上の窃取行為がある場合でも、それらを包括して1個の窃盗罪が成立すると認定するケースがあります。

 このケースを、

包括一罪(接続犯)

呼びます。

 包括一罪とは、

実行した複数の犯罪行為が、複数ではなく、1個の犯罪行為に該当する場合

をいいます。

 包括一罪は、

  • 結合犯
  • 集合犯
  • 接続犯

に分けることができます。

 そのうちの接続犯とは、

事実上は数個の独立した犯罪を構成する行為であっても、単一の犯意に基づき、時間的・場所的に近接した条件の下で、1個の犯罪の完成を目指して行われており、犯行が分離できないような密接な関連にある犯罪

をいいます。

(包括一罪については、前の記事で詳しく説明しているので、よろしければ参照してください)

 窃盗罪における包括一罪(接続犯)の有名判例として、以下のものがあります。

最高裁判例(昭和24年7月23日)

 夜の2時間のうちに、3回にわけて、倉庫から米俵を盗んだ事案で、3個の窃盗罪ではなく、1個の窃盗罪が成立するとされました。

 裁判官は、

  • 3回にわたる米俵の窃盗行為は、わずか2時間余の短時間のうちに、同一場所でなされたもので、同一機会を利用したものである
  • いずれも米俵の窃取という全く同種の動作であるから、単一の犯意の発現たる一連の動作であると認めるのが相当である
  • 別個独立の犯意に出でたものであると認める別段の事由を発見することはできない
  • そうであるなら、本件行為を一罪と認定するのが相当であって、独立した3個の犯罪と認定すべきではない

と判示しました。

 窃盗罪における包括一罪(接続犯)の認定基準は、おおむね、

  • 同一の犯意に基づく窃取か否か
  • 同ー機会における窃取か否か
  • 接着した期間内における窃取か否か
  • 財物の占有状態が同一か否か(被害者が同ー人か、犯行場所が同ーか)
  • 同種の財物か否か

などが判断の要素となります。

 判例では、これらが肯定されるときに、1個の窃盗罪が成立するしたものが多くあります。

 しかし、どのような場合に2回以上の窃取行為が1個の窃盗罪を構成するかについては、判例において、必ずしも見解が一致しているわけではありません。

 たとえば、被害者=占有者が同一人でない場合でも、同ー家屋内で次々に複数の財物を窃取したようなときには、包括して1 個の窃盗罪の成立のみを認める場合もあります。

 どのような場合に、窃盗罪の包括一罪(接続犯)が成立するかは、判例の傾向を追って理解していくことになります。

 なので、以下で複数の判例を紹介します。

窃盗罪における包括一罪(接続犯)を認めた判例

広島高裁判例(昭和28年11月27日)

 同じ道路に設置されている2枚のマンホールのふた2 枚を連続して窃取した事案で、裁判官は、

  • 第5の犯罪(2回目の窃取)は第4のそれ(1回目の窃取)に引続いて同一機会に行われ、その場所は、いずも道路上で、両者の距離はわずか20m内外であり、時間的にも場所的にも文字通り接着していたものであることが明瞭である
  • そして、各盗品が同種物件であり、その管理者が同一人であることは原判決の認定しているところである
  • 以上の事実関係の下では、前記第4、第5の事実は、単一の犯意にいでた一連の所為として、法律上、包括一罪と解するのを相当とする

と判示し、包括一罪(接続犯)になるとして、窃盗罪は一罪になるとしました。

仙台高検秋田支部(昭和25年3月29日)

 住居に侵入して窃盗を行うことを企てた犯人が、その敷地内の物置小屋で家人が寝静まるのを待っている間に、そこで木綿などを窃取し、続いて、その家の玄関・茶の間などで、現金や衣類を窃取した事案について、裁判官は、

  • 物置小屋と同家玄関、茶の間等は、場所を異にするが、物置小屋は、玄関の直ぐ前に建っておるものであり、ひとしく家人の管理するものであることが本件記録によって明らかであるから、両所の窃取行為は、結局、包括ー罪を構成する

と判示し、包括一罪(接続犯)になるとして、窃盗罪は一罪になるとしました。

東京高裁判例(昭和25年10月17日)

 約1か月の間に、数回にわたり、同居先の被害者方において、衣類を窃取した事案で、裁判官は、

  • 短期間内に、同居人の被害者が不在の機のみをうかがって、同一場所で、かつ、すべて同種類に属する衣料品を目的物としてのみなされた同種の動作であること、その他諸般の事情からして、原審は単一の犯意の発現下である一連の動作であると認め、法律上ー罪として処断したものと解し得られる

と判示し、原判決が包括一罪としたことを肯認し、窃盗罪は一罪になるとしました。

名古屋高裁判例(昭和28年7月20日)

 約1年間に、同ー場所で、同一被害者から、同種の糸を窃取した事案で、裁判官は、

  • 被告人が原判示の期間に多くの回数にわたり、同一の場所において、同一の被害者から反復して窃盗を敢行した事跡自体により、継続せる意思に出でたものであることを認める
  • その意思の中断があったことを認定することはできない
  • 然らば原審が証拠に基き、原判示のごとき包括的な犯罪事実を認定し、これを一罪として扱ったことは相当である

と判示し、包括一罪(接続犯)となるとして、窃盗罪は一罪になるとしました。

名古屋高裁判例(昭和34年6月15日)

 自分が住んでいる部屋の隣室に、他人の衣類什器などが置いてあるのに目をつけ、これらを盗み出して換金しようと思い立ったが、一度に盗み出してはすぐに自分の犯行であることが露見する危険があるので、日をおいて少しずつこれを盗み出すことを計画し、約4か月の間に24 回にわたって盗み出した事案で、裁判官は、

  • 本件のごとく、あらかじめ多数回の窃盗を行うべく包括した意思のもとに、その意思の実現として反復して窃盗を行い、しかも、その窃取により侵害される財物の所持が同一人に属するごとき場合には、窃盗の包括一罪を構成するものと解するのを相当とする

と判示し、窃盗は一罪になるとしました。

福岡高裁判例(平成6年6月21日)

 テレホンカード販売機から取り出して窃取した千円札を、その販売機の紙幣入り口に挿入してテレホンカードを取り出し、その千円札も後に、現金収納箇所から取り出す意図であった事案で、裁判官は、

  • 当初の千円札窃取とテレホンカード窃取とは窃盗罪の包括的単純一罪である

と判断しました。

窃盗罪の既遂と未遂が併発した場合の罪数(単純一罪または包括ー罪とした判例を紹介)

 単一の犯意に基づく窃取行為のうち、あるものは既遂に達し、あるものは未遂に終わった場合の罪数について、判例の見解を紹介します。

札幌高裁函館支部判例(昭和30年5月10日)

 犯人が、被害者の家において、まず米1袋を窃取して屋外に持ち出した後、さらに、別の米1袋に手をかけて窃取しようとしたときに、家人に発見されたため、屋外に飛び出し、先先に持ち出した米1袋も屋外に放置したまま逃走し、窃盗の既遂罪と未遂罪に問われた事案で、裁判官は、

  • 前者はすでに一旦屋外に持ち出し、これを所有者の支配から自己の支配内に移したものであ り、窃盗の既遂というべく、後者は窃取行為に着手したが自己の支配内に移す以前に発見され逃げ出したのであるから、窃盗の未遂であるといわなければならない
  • しかして、本件のように単一意思に基く同一日時、同一場所における同様手段による数次の窃取行為は、これを単純一罪と認むべきである
  • り、かかる事犯において、目的物の一部につき既遂、他の一部について未遂に終わった場合は、全体を通じて窃盗既遂の一罪として処断すべきものと解するを相当とする

と判示し、この判例では、全体を通じて窃盗既遂の単純一罪が成立するとしました。

東京高裁判例(昭和26年12月5日)

 この判例は、ほぼ同じ機会に行われた窃盗既遂と窃盗未遂を包括ー罪として認定した判例です。

 裁判官は、

  • 窃盗ならびに窃盗未遂の所為は、同日時同一機会に、同一の被害者に対して、被害者の所持する財物に対して行われたものであるから、これを包括して一罪をなすものと解すべきである
  • 然るに原判決は、これを刑法45条前段の併合罪として、同条及び同法第47条を適用している
  • この点について、原判決は法令の適用を誤ったものである

と判示し、窃盗罪と窃盗未遂罪の併合罪ではなく、包括一罪が成立するとしました。

 これらの判例から、

  • 数回の窃盗行為が、いずれも既遂に達した場合において、単純一罪と認められるような事案のときには、ー部が既遂、一部が未遂となった場合でも、全体として窃盗既遂の単純ー罪が成立する
  • 数回の窃盗行為が、いずれも既遂に達した場合において、包括一罪と認められるような事案のときは、窃盗既遂と窃盗未遂の包括一罪となり、窃盗既遂の刑で処断される

という理解ができます。

窃盗罪の間接正犯と教唆犯が併発した場合の罪数(包括一罪とした判例を紹介)

 窃盗罪の間接正犯教唆犯が併発した事案で、窃盗罪の併合罪ではなく、包括一罪になると判示した以下の判例があります。

広島高裁松江支部判例(昭和29年12月13日)

 事件の内容は、犯人が、責任能力ある14歳3か月の子供1名と、刑事未成年の子供数名を同時にそそのかして、位牌堂から1人数枚ずつ古銅板を盗んでこさせたという事案です。

 原審では、窃盗の間接正犯(一罪)と窃盗教唆の併合罪とする判決を出しました。

 この原審の判決に対して、高裁の裁判官は、

  • 子供らは、同時に同所で同一の所有者所有の古銅板を剥ぎ取ってきたものである
  • 被告人は、それらの子供を使って、1個の窃盗罪を敢行したものと言うべきである
  • たとえ、その子供らのうちに一人の責任能力を有する子供があったとしても、全体を包括的に観察して、被告人に対して、1個の窃盗罪をもって問擬(もんぎ)するを相当とする

と判示し、この事案は、窃盗罪の包括一罪になるとし、一罪の窃盗罪が成立するとしました。

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