刑法(窃盗罪)

窃盗罪⑨ ~「目的物の占有を第三者に移転する方法での窃取」「窃取はひそかに行うことを要件としない」を判例などで解説~

目的物の占有を第三者に移転する方法での窃取

 窃取して被害者から奪った目的物の占有を、犯人自身ではなく、第三者に移転した場合でも、窃盗罪は成立します。

 目的物の占有を第三者に移転する場合にあっては、被害者の占有を奪って、いったん犯人に占有を移した後、あらためて第三者に占有を移転する場合に限らず、情を知らない第三者に直接占有を移転する場合でも窃盗罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判例(昭和31年7月3日)

 他人の物を、自分が所有者であるかのように装って、第三者に売却し、搬出させた行為についいて、窃盗罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 炭鉱構内にE会社が採炭運搬のために据えつけたドラグライン一台につき、何ら処分権限のない被告人が他人と売買契約を締結しても、ただそれだけでは窃盗罪は成立しない
  • けれども、被告人は、ドラグラインを、鉄くず類を取り扱っている情を知らないFに、自分に処分権があるように装い、鉄くずとして、解体運搬費等を差し引いた価格、すなわち買主において解体の上これを引き取る約定で売却した
  • その翌日、Fは情を知らない古鉄回収業Gにドラグラインを古鉄として売却し、Gにおいて、ドラグラインを解体の上、順次搬出した
  • 解体搬出されたドラグラインにつき、被告人は、窃盗罪の刑事責任を免れることはできない

旨を判示し、窃盗罪の成立を認めました。

広島高裁判例(昭和27年10月3日)

 他人が所有する重油タンクなどを、自己の物と偽って他に売却し、情を知らない買主に引き取らせた事案について、窃盗罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 刑法235条の窃取とは、支配者の知らない間に、他人の財物に対する支配を排除して、新しい支配を獲得することをいい、その支配は、犯人においてこれを得ること、はたまた情を知らない他人をして直接これを得せしめるとを問わないものと解すべきである
  • けだし窃盗罪は、他人の支配内にある他人の財物を、支配者の意思に基づかないで支配を排除し、その上に自己又は第三者の支配を設定することによって所有権を侵害する犯罪であると解すべきだからである

と判示しました。

最高裁判例(昭和39年7月7日)

 他人の立木を自己に処分権限があるように偽って、他人に売却し、情を知らない買主にこれを伐採搬出させた行為について、窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 他人の立木がはえている土地の所有者が、立木の所有者に対し、その立木を永久に伐採しないことを確約しているような場合には、その立木の所持は、立木の所有者にあると解するのが相当である

と判示しました。

窃取はひそかに行うことを要件としない

 窃盗罪の成立に、被害品の占有移転が、公然と行われたか、ひそかに行われたかは無関係です。

 大勢の人が見ている前で、公然と他人の物を窃取しても、窃盗罪は成立します。

 この点は、以下の判例で明らかにされています。

大審院判例(大正15年7月16日)

 犯人が、他人が所有する畑を無断で耕作し、発芽した桑葉を摘採した事案について、裁判官は、

  • 窃盗罪は他人の所持を侵害するによりて成立し、その侵害が公然によると行わるると秘密に行わるるとは犯罪の成立に影響なし

と判示し、窃盗罪の成立を認めました。

最高裁判例(昭和32年9月5日)

 面談中の被害者らの面前で、約束手形などを公然と奪取した事案について、裁判官は、

  • 窃盗罪は、ひそかに行われたるを否とにかかわらず成立する

と判示しました。

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