脅迫と警告の区別
警告とは、「よくない事態が生じそうなので気をつけるよう、告げ知らせること」をいいます。
脅迫罪(刑法222条)において、加害の告知が、脅迫ではなく、警告に当たると認定された場合、脅迫罪は成立しません。
加害の告知が脅迫になるか警告にすぎないかの区別は、客観的に具体的事情を総合して判断されます。
判例
脅迫と警告の区別に関する判例として、次のものがあります。
脅迫罪の成立を否定した判例
広島高裁松江支判判決(昭和25年7月3日)
この判例で、裁判官は、
- 「云々の警察官は、人民政府ができた暁には、人民裁判によって断頭台に裁かれる。人民政府ができるのは近い将来である」と申し向けただけでは、断頭台上に裁くことが、行為者自身又は行為者の左右しうる他人を通じて可能ならしめられるものとして通告されたのでない以上、警告にすぎない
として脅迫罪の成立を否定しました。
大阪高裁判決(昭和29年5月1日)
団体交渉の際、労働組合の組合長が、会社側に、「組合員が被除名者に対して危害を加える危険性がある」旨を申し向けた事案で、裁判官は、
- 被告人が組合員を利用して害悪を生ぜしめる地位にあること及び害悪行為をなさしめることを相手方に告知した事実がなく、むしろ単に警告した趣旨と推知できる
として脅迫罪の成立を否定しました。
名古屋高裁判決(昭和45年10月28日)
「遠からぬ将来において、人民と正義の名において、貴様に厳烈な審判が下されるであろう」と記載した葉書を郵送した事案で、裁判官は、
- 意味内容が漠然としており、害悪の告知であるとしても、被告人の手によって、あるいは被告人が影響を与え得る何人かによって加えられるという点について、全然明確にされていない
と判示し、脅迫罪の成立を否定しました。
脅迫罪の成立が肯定された判例
東京高裁判決(昭和29年9月9日)
この判例で、裁判官は、
- 警察官に対して「人民裁判でまたあおう」と告げた行為は、「われわれにつまらぬことをすると、われわれの手でおまえを人民裁判にかけ、ひどい目に合わせてやるぞ」という意味に解され、被告人の力の及ばないことを告知したとはいえない
として、「人民裁判でまたあおう」という告知は、警告ではなく、脅迫に当たり、脅迫罪が成立するとしました。
札幌高裁判決(昭和29年7月8日)
この判例で、裁判官は、
- 「お前はSの子分か、死刑台に立ちたいか」との言辞のみでは警告のようにみえるが、直前にS方に脅迫状を投げ込んだのを見て追いかけた家人に対するものであることを考慮すると、直接又は間接に害悪を加えうる立場にあると感得させるに足りる
として、客観的状況を考慮し、「お前はSの子分か、死刑台に立ちたいか」との告知は、警告ではなく、脅迫に当たり、脅迫罪が成立するとしました。