脅迫罪の成立個数
脅迫罪について(刑法222条)について、被害者が複数名いる場合や、複数の脅迫行為をした場合などにおける脅迫罪の成立個数について説明します。
同時に数名を脅迫したときは、数個の脅迫罪が成立し、数個の脅迫罪は観念的競合として一罪になる
同時に数名を脅迫したときは、数個の脅迫罪が成立し、数個の脅迫罪は、観念的競合として、一罪になります(東京高裁判決 昭和30年10月28日)。
同一機会に同一人に対し、二種の法益に害を加えるべきことを告知した場合は、1個の脅迫罪が成立する
同一機会に同一人に対し、二種の法益(たとえば、「お前を殺す」「家に火をつける」)に害を加えるべきことを告知した場合は、脅迫罪は一罪とされ、1個の脅迫罪が成立します(仙台高裁判決 昭和33年4月10日)。
脅迫罪と暴力行為等処罰に関する法律1条の共同脅迫罪が行われた場合は、共同脅迫罪のみが成立する
単独犯での脅迫罪と、暴力行為等処罰に関する法律1条の共同脅迫罪が引き続き行われた場合は、共同脅迫罪のみが成立します。
この点について、以下の判例があります。
広島高裁岡山支部判決(昭和30年4月7日)
Aが、警察官に対し、暴行脅迫を加えているとき、Aの同僚であるB、C、Dらが、Aに加勢し、Aと共に、警察官の駐在所を襲い、共同して暴行脅迫を加えた事案で、Aの当初の暴行脅迫は、後の脅迫と区分せず、包括して評価すべきであり、全員に対する暴力行為等処罰に関する法律1条の共同脅迫罪のみが成立するとしました。
裁判官は、
- 被告人A、B、Cほか数名の者が、共にAの脅迫暴行に加勢し、Aと共同して暴行脅迫を慣行したというのである
- すると、Aは、脅迫暴行と共同脅迫暴行の両事実について関与したものであるから、脅迫暴行は、共同脅迫暴行に至ったその過程における行為と観察することが出来るから、Aの犯行は脅迫暴行と共同脅迫暴行とに区分して評価すべきではなくして、両者を包括して評価されるべきものといわなければならない
- 従って、Aを含めた多数人による一連の共同行為は、Aの当初の犯行にこだわらず、これに関係したすべての者にとって、暴力行為等処罰に関する法律第1条の犯罪の構成要件を充足し、ただその罪のみが成立し、これの罪のほかに暴行、脅迫の罪が成立し、両者が並立するということはあり得ないと解すべきである
と判示しました。