前回の記事の続きです。
証拠開示に関する裁判所の裁定
公判前整理手続において、証拠開示の要否をめぐり、当事者(検察官、被告人・弁護人)の間で争いが生じた場合、当事者の請求により、裁判所が証拠開示の可否について判断する(裁定する)ルールになっています。
これは、証拠開示をめぐる争いによって、公判前整理手続の進行が阻害されないように、裁判所の間に入って、証拠開示の要否を判断し、公判前整理手続を円滑に進めるために設けられた仕組みです。
証拠開示に関する裁定には、
の2種類があります。
① 証拠調べ請求した証拠の開示方法等に関する裁定
検察官、被告人・弁護人が、裁判所に対し、取調べ請求した証拠(公判で裁判官に提出することを求めた証拠)は、相手方(検察官又は被告人・弁護人)に対して、速やかに開示しなければなりません(刑訴法316条の14本文、316条の18本文)。
しかし、速やかに開示することが弊害になる場合があります。
そのような場合には、裁判所は、証拠の開示の必要性の程度、証拠の開示によって生じるおそれのある弊害の内容と程度、その他の事情を考慮して、必要と認めるときは、証拠を開示すべき当事者(検察官又は被告人・弁護人)の請求により、決定で、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができるものとされています(刑訴法316条の25第1項)。
補足説明
裁判所が主体となって、証拠開示の時期、条件等を指定するのは、検察官、被告人・弁護人が取調べ請求した証拠(公判で裁判官に提出することを求めた証拠)は、公判において使用されるものであり、かつ、開示が原則であるため、開示の時期、条件等の指定は、当事者の判断によるのではなく、裁判所の判断において、開示の心要性と弊害を勘案の上、決定するものとされます。
これに対し、検察官が主体となって、証拠開示の時期、条件等を指定する場合があります。
その場合とは、検察官が、被告人・弁護人に対し、「類型証拠」又は「争点関連証拠」を開示する場合です。
「類型証拠」又は「争点関連証拠」は、検察官が取調べ請求した証拠(公判で裁判官に提出することを求めた証拠)ではなく、公判において使用される証拠ではないので、検察官において開示の時期、方法を指定し、又は条件を付することができるとされます(刑訴法316条の15第1項本文後段、316条の20第1項後段)。
② 証拠開示命令に関する裁定
検察官、被告人・弁護人が、公判前整理手続における開示のルールに従って開示すべき証拠を開示していないと認められる場合、裁判所は、相手方の請求により、決定で、その証拠の開示を命じなければなりません。
そして、この場合に、裁判所は、証拠の開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができます(刑訴法316の26第1項)。
証拠開示命令の対象となる証拠は、検察官が保有している証拠に限られない
刑訴法316の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は、必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず、事件の捜査の過程で作成され、又は人手した書面等であって、公務員が職務現に保管し、かつ、検察官において人手が可能なのを含むことが以下の判例で示されています。
この判例で、警察が保管している取調べメモと備忘録が証拠開示命令の対象となる証拠と認められ、裁判所から開示が命令されています。
この判例で、警察官が作成した取調べメモについて、
- 職務の執行のために作成したものであり、その意味で公的な性質を有するものであって、職務上保管しているものというべきである
- したがって、本件メモは、本件犯行の捜査の過程で作成され、公務員が職務上現に保管し、
- かつ、検察官において入手が容易なものに該当する
と判示し、証拠開示命令の対象となるとしました。
この判例で、警察官が作成した備忘録について、
- 犯罪捜査に当たった警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって、捜査の経過その他参考となるべき事項が記録され、捜査機関において保管されている書面は、当該事件の公判審理において、当該捜査状況に関する証拠調べが行われる場合、証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である
- そして、警察官が捜査の過程で作成し保管するメモが証拠開示命令の対象となるものであるか否かの判断は、裁判所が行うべきものであるから、裁判所は、その判断をするために必要があると認めるときは、検察官に対し、同メモの提示を命ずることができるというべきである
と判示し、証拠開示命令の対象となるとしました。
証拠開示命令を行う前の証拠の提示命令
裁判所は、
についての証明開示命令を行うに当たり、必要があると認めるときは、検察官、被告人・弁護人に対し、裁判所に当該証拠の「提示」を命ずることができます。
この場合において、裁判所は、何人にも、当該証拠の閲覧又は謄写をさせることはできません(刑訴法316条の27第1項)。
また、裁判所は、被告人・弁護人からの証拠開示命令の請求について決定するに当たり、必要があるとめるときは、検察官に対し、その保管する証拠であって、裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表の提示を命ずることができます。
この場合において、裁判所は、何人にも、その一覧表の閲覧又は謄写をさせることができません(刑訴法316条の27第2項)。
一覧表の記載事項は、刑訴法規則217条の28で定められており、「証拠ごとに、その種類、供述者又は作成者及び作成年月日のほか、証拠の提示を命ずるかどうかの判断のために必要と認める事項を記載しなければならない」と規定されています。
証拠開示に関する裁判所の裁定に対する不服申立て
検察官、被告人・弁護人には、裁判所の行った
に対して不服がある場合は、即時抗告(刑訴法422条)により不服を申し立てることができます(刑訴法316の25第3項、316条の26第3項)。
次回の記事に続く
次回の記事では、
- 公判前整理手続終了後の新たな証拠調べ請求の制限
- 公判前整理手続に付された事件ならではの第1回公判での手続(被告人の弁護人の冒頭陳述、公判前整理手続の結果の顕出)
を説明します。