刑法(総論)

共同正犯(共犯)① ~「一部行為の全部責任の原則」「犯意が食い違う場合の共同正犯」を判例などで解説~

共同正犯(共犯)とは?

 共同正犯とは、

2人以上の行為者が共同して犯罪を犯した場合

をいいます。

 共同正犯は、共犯ともいいます。

 テレビ報道などでは、共犯という表現が使われるので、共犯という言い方の方が馴染みがあると思います。

 共犯は、任意的共犯と必要的共犯の2パターンがあります。

 任意的共犯とは、法律が、単独犯による犯罪実現を予定している犯罪行為を、2人以上の行為者が共同して実行する場合をいいます。

 たとえば、窃盗罪殺人罪詐欺罪などは任意的共犯です。

 ほとんどの犯罪は任意的共犯です。

 必要的共犯とは、法律が、もともと2人以上の行為者による犯罪実現を予定している犯罪をいいます。

 たとえば、内乱罪騒乱罪が必要的共犯にあたります。

 必要的共犯にあたる犯罪は少数です。

一部行為の全部責任の原則

 たとえば、犯人Aが電話で高齢者をだまし、だまされた高齢者から犯人Bが1000万円を受け取ったという詐欺の共犯のケースがあったとします。

 犯人Aと犯人Bは、全体の犯罪行為のうち、一部の行為しか担っていませんが、詐欺罪の刑事責任は、犯人Aと犯人Bで、それぞれ全て負うことになります。

 これを「一部行為の全部責任の原則」といいます。

 ちなみに、民事の損害賠償責任も、犯人Aと犯人Bがそれぞれが全て負うことになります。

 被害に遭った高齢者から1000万円の損害賠償を申し立てられ、犯人Aの所在が不明の場合、犯人Bが1000万円すべてを弁償しなければならないということです。

 TwitterなどのSNSで、バイト感覚で犯人Bのような詐欺の受け子を募っていることがあります。

 これに引っかかって犯人Bのように詐欺に加担してしまうと、刑事罰を受けた上、多額の損害賠償を負うことになるので、人生が詰みます。

共犯の犯意が、犯人Aと犯人Bで食い違った場合

 たとえば、傷害罪の共犯で、犯人Aは、被害者を殺すつもりで殴り、犯人Bは被害者に傷害を負わせるつもりで殴ったとします。

 結果、犯人Aの攻撃で被害者は死亡しました。

 この場合、

  • 犯人Aは、殺人罪を犯す意思と行為
  • 犯人Bは、傷害罪を犯す意思と行為

で犯罪を実行しています。

 犯人Aと犯人Bには、それぞれどのような犯罪が成立するでしょうか?

 結論として、この場合、

  • 犯人Aには、殺人罪の単独犯が成立し
  • 犯人Bには、傷害致死罪の犯人Aとの共犯が成立する

と考えられます。

 犯人Aと犯人Bの共同行為が原因で、被害者が死亡しているのだから、AとBの両方に殺人罪の共犯が成立するという考え方もあります。

 しかし、この場合、犯人Bとして「俺は傷害行為はしたけど、殺人行為はしてない!殺人罪の罪が科させるのは不当だ!」となります。

 そのため、犯人Bには、殺人罪の共犯ではなく、傷害致死罪の共犯が成立することになるのです。

判例

 共犯の犯意が、各共犯者で食い違った場合に、各共犯者にどのような犯罪が成立するかについては、判例で結論が出ています。

最高裁裁判所 決定(平成17年7月4日)

事件の内容

 教祖Aと、信者B(被害者の親族)が、入院中の被害者に対し、教祖Aの独自の治癒を施すため、退院は無理であるという医師の判断に反して、被害者を退院させた。

 教祖Aの独自の治療で被害者が回復するはずもなく、被害者は死亡した。

判決の内容

 裁判官は、

  • 被告人(教祖A)は,自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上,患者が運び込まれたホテルにおいて,被告人を信じあがめる患者の親族(信者B)から,重篤の患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあった
  • その際,被告人(教祖A)は,患者の重篤な状態を認識し,これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから,直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていた
  • にもかかわらず,未必的な殺意をもって,医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させた被告人(教祖A)には,不作為による殺人罪が成立し,殺意のない患者の親族(信者B)との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となる

と判示しました。

 殺人の共犯の事案ですが、教祖Aには殺意があったので、殺人罪の単独犯が成立し、殺意のなかった信者Bには、殺人罪ではなく、保護責任者遺棄致死罪の共犯が成立するとしたものです。

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