法律(刑法)

占有が認められる判断基準① ~「現実的握持・監視」「機械・器具等による確保」を判例で解説~

 財物に対する占有を認める判断基準と種類は、以下の①~⑧に分類できます。

  1. 財物に対する現実的握持・監視がある場合
  2. 財物が自己の支配下にある機械・器具等により確保されている場合
  3. 財物が自己の包括的に支配する場所内にある場合
  4. 財物の自然的性質により自己の支配内に戻ることが予想される場合
  5. 財物の性質等からその所有者が推認できる場所的区域内に財物が存在し、その所在が判然としている場合
  6. 財物が他人から発見されにくい場所にあり、かつ、その場所を認識している場合
  7. 財物の性質等から現在地に遺棄されたものはなく、占有の意思が留保されていると推認され、かつ、その所在を認識している場合
  8. 財物が現実的握持を離れて間がなく接近した場所にあり、その所在が判然としている場合

 これから、①~⑧について、3回に分けて解説していきます。

① 財物に対する現実的握持・監視がある場合

 『財物に対する現実的握持・監視がある場合』は、財物に対する占有があると認められます。

 現実的握持とは、

物を手に持っている状態

です。

 現実的監視とは、

物があることを目で見て、見張っている状態

です。

 占有(財物を事実上支配し、管理する状態)があるかどうかは、

  1. 現実的な実力行使の可能性
  2. 排他性

の2点で決せられます。

 現実的握持があるときは、財物に対し、簡単に実力行使ができますし、監視があれば財物に対する他人の支配を実力で排除できる可能性が高いため、排他性も認められます。

 物を、現実的に握持し、または監視している状態であれば、文句なしに占有があると認められます。 

 とはいえ、判例は、刑法上の占有を幅広く認めるため、現実的握持・監視をゆるく認める立場をとっています。

 大審院判例(明治44年4月17日)において、占有の認定に関し、『刑法上の占有を認めるため、必ずしも現実的握持または監視を必要とするものではないことを表明する』旨判示しています。

財物に対する現実的握持・監視があるとして占有を認めた判例一覧

大阪高裁判例(昭和25年5月10日)

 被害者が、一時、その場に米を置き去り、付近に隠れて監視していたところ、被告人がその米を奪取した事案で、米の占有は被害者に帰属していたとして、窃盗罪の成立を認めました。

高松高裁判例(昭和25年6月2日)

 所有者が県交通自動車営業所のごみ箱の上に置き忘れた靴につき、営業所の用務員が被告人に「この靴はあなたのですか」と尋ねたのに、被告人が窃盗の故意をもって「私の靴です」と答え、そのまま靴を持ち去った事件で、用務員を介した営業所管理人の靴に対する占有があるとして、窃盗罪の成立を認めました。

大審院判例(明治29年4月14日)

 紙くず屋が購買した紙くず中に混入していた金銭を窃取した事件で、金銭は遺失物にほかならないとして、遺失物横領罪の成立を認めました。

大審院判例(大正6年10月15日)

 誤配された為替証明書在中の封緘郵便物を領得した事件で、誤配により差出人は、封入物件に対する占有を失い、郵便物全体が占有離脱物になるとして、窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪が成立するとしました。

② 財物が自己の支配下にある機械・器具等により確保されている場合

 『財物が自己の支配下にある機械・器具等により確保されている場合』は、物に対する占有があると認められます。

 たとえば、ゲームセンターの両替機内にお客さんが500円玉を取り忘れたとします。

 そして、その両替機内にある500円玉を、誰か別の人が「ラッキー!」などと思って自分の物にした場合、その人に対し、窃盗罪が成立します。

 両替機は、ゲームセンターのオーナーが管理しており、両替機内に残された500円玉の占有は、ゲームセンターのオーナーにあると法的に判断されます。

 そのため、ゲームセンターのオーナーが占有(管理)する500円玉を盗んだとする窃盗罪が成立するのです。

 『財物が自己の支配下にある機械・器具等により確保されている場合』は、占有ありと認められる理由は、

  1. 財物が自己の支配下にある機械・器具等により確保されているときには、その機械・器具等の所在を意識している限り、いつでも財物に対する実力行使が可能である
  2. 財物に対する支配の排他性は、実力によって、あるいは他人の支配下にある機械・器具等に対して払う一般人の尊重心に訴えても獲得される

ためです。

 この理論により、先ほど例に挙げた両替機内にある500円玉のほか、

  • 仕掛けた罠にかかった獣
  • 郵便ポストに配達された郵便物

にも占有が認められることになります。

 仕掛けた罠にかかった獣の占有は、罠を仕掛けた人にあると認められます。

 なので、その獣を盗んだ場合、罠を仕掛けた人が占有(管理)する獣を盗んだとして、窃盗罪が成立します。

 郵便ポストに配達された郵便物の占有は、郵便ポストの所有者にあると認められます。

 なので、郵便ポスト内の郵便物を盗んだ場合、郵便ポストの所有者が占有(管理)する郵便物を盗んだとして、窃盗罪が成立します。

財物が自己の支配下にある機械・器具等により確保されているとして占有を認めた判例一覧

東京高裁判例(昭和33年3月10日)

 通話者が取り忘れた公衆電話内の硬貨を奪った事件について、公衆電話の管理者の硬貨に対する占有を認定し、窃盗罪の成立を認めています。

 裁判官は、

  • 公衆電話機は、その所属の電話局長または電話分局長の管理下におかれているものであるから、それらの局長の管理権は、電話機内に存置する金銭にも及ぶ
  • 硬貨が電話機内に存置するものである以上、硬貨は電話局長または電話分局長の管理に服するものであるから、硬貨に対するこの管理を侵害する行為は、刑法上、窃取の観念を持って律しなければならない

と判示し、電話局長または電話分局長の硬貨に対する占有を認め、窃盗罪の成立を認めました。

札幌高裁判例(昭和34年4月14日)

 海中に仕掛けた網に入ったサケを奪った事件について、網を仕掛けた者のサケに対する占有を認定し、窃盗罪の成立を認めています。

 裁判官は、

  • いったん、ふくろ網に入ったサケが自力によって、網の外に逃げ去ることは、容易でない
  • したがって、そのサケの水揚の確率は、極めて高率なものである
  • してみると、漁業権に基づいて、サケを採捕すべく、ふくろ網の中で遊泳しているサケに対しても、事実上これを支配・管理している
  • したがって、サケは、水揚するまでもなく、窃盗罪の客体となることは明らかである

と判示し、網を仕掛けた者のサケに対する占有を認め、窃盗罪の成立を認めました。

仙台高裁判例(昭和28年2月14日)

 さい銭箱内のお金を奪った事件について、神社の管理者のさい銭箱内のお金に対する占有を認定し、窃盗罪の成立を認めています。

 裁判官は、

  • 平素、社殿内外の事実上の管理が神官に任され、さい銭箱が鍵のかけてある拝殿内部に備え付けられ、神官が、随時、開箱してさい銭を取り出していたときは、さい銭箱中の金員に対する神官の占有が認められる

旨判示しました。

東京高裁判例(平成6年9月12日)

 銀行口座に銀行の手違いで、自己の普通預金口座に過剰入金された現金に対して、銀行の占有を認め、過剰入金された現金をATMからおろして奪った事件について、窃盗罪の成立を認めています。

 裁判官は、

  • 預金口座の名義人と銀行との関係は、預金口座の名義人に正当な払戻し権限がある場合であっても、債券債務関係が成立しているだけであって、銀行の現金自動支払機内の現金について、預金口座の名義人が事実上これを管理するとか、所持するとか、占有するとかという立場になく、現金は銀行の管理ないしは占有に属すると解するのが相当である
  • もっとも、横領罪との関係においては、預金口座の名義人に正当な払戻し権限がある場合に、預金債権に対する管理、占有ひいては銀行が事実上占有する金銭に対する預金額の限度での法律上の占有という観念を容れる余地がある
  • しかし、本件は送金した銀行の手違いにより、誤って被告人の預金口座に入金があったにすぎず、被告人に預金について正当な払戻し権限のない場合であるから(このことは、受け入れ銀行の側に何ら過誤がない場合も同様である)、自動支払機内の現金について、被告人がこれを所持(支配)していたということのできないことはもとより、被告人が法律上の占有を取得することもないと解される
  • したがって、本件について、横領罪が成立する余地はなく、詐欺罪が問題にならないことも明らかであり、銀行の預金に対する占有を侵害したものとして、窃盗罪が成立するというべきである

と判示しました。