刑法(事後強盗罪)

事後強盗罪(10) ~共同正犯②「事後強盗罪を共謀していない窃盗犯人に対しては、事後強盗罪の共同正犯は成立せず、窃盗罪が成立する」「事後強盗罪の共謀をした者のうち一人が強盗を行った場合は、共犯者全員に強盗罪の共同正犯が成立する」を判例で解説~

事後強盗罪を共謀していない窃盗犯人に対しては、事後強盗罪の共同正犯は成立せず、窃盗罪が成立する

 窃盗犯人である2人以上の者が共同し、事後強盗罪(刑法238条)所定の目的で暴行又は脅迫をした場合には、全員について事後強盗罪の共同正犯が成立します。

 これに対し、2人以上の窃盗犯人のうちの一人が、他の者との意思連絡もなく、事後強盗罪所定の目的で暴行又は脅迫をした場合には、他の者は刑法38条2項の適用により、窃盗の限度で刑責を負うことになります。

 この点について判示した以下の判例があります。

福岡高裁宮崎支部判決(昭和30年3月11日)

 被告人YとMが窃盗を共謀し、小学校から衣類を窃取した後、被告人Mが追跡してきた被害者に脅迫を行い、事後強盗を行った事案で、裁判官は、

  • 被告人Yは、K小学校の先生からその犯行を発見せられるや、直ぐその場から逃走したので、被告人Yは、その後において、相被告人(共犯者)Mが、逮捕を免れるため、被害者らに対し、持っていたジャックナイフを被害者に突きつけ、被害者を脅迫した事実については、全然関知しなかったばかりでなく、しかも、そのことについては、初めから全然予期しなかったことが認められる
  • それで、被告人Yの所為と相被告人Mの所為とを同一に評価するわけにはゆかないから、被告人Yに対しては、被告人Mに犯意のあった窃盗罪の既遂をもって論ずべきが相当である
  • 被告人Yが予期しなかった相被告人Mの準強盗(現行法:事後強盗)の所為に対しては、被告人Yに準強盗(事後強盗)の刑責を分担さすべき筋合のものではない

と判示し、被告人Yに対し、事後強盗罪の共同正犯は成立せず、窃盗罪が成立するとしました。

事後強盗罪の共謀をした者のうち一人が強盗を行った場合は、共犯者全員に強盗罪の共同正犯が成立する

 事後強盗罪の共謀をした者のうち一人が刑法236条の強盗をなした場合には、全員について強盗の共同正犯が成立すると考えられます。

 この点について判示した以下の判例があります。

名古屋高裁判決(昭和35年10月5日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人ら3名の共謀にかかるところは、準強盗(事後強盗)にあたる事実であった
  • さて、しかし、共謀に基いて、D銀行E支店内のカウンターから現金をかっぱらう役割を担当したAは、銀行員F、Bの両名が、収納係窓口付近のカウンターで現金150万円を整理しているのを認め、Bの左背後に近づき、Bの肩越しに右現金をひったくって盗もうと考えたが、Aは、Bらが感づいて騒ぎ立てたら、その盗取の目的を達することができないと思うと共に、盗みに踏み切る決心がつかなかったので、とっさに所携(しょけい)の飛び出しナイフをひらき、その刃先をBの腰の辺りに突きつけ、B及びFに対し、騒ぐとBを刺すぞ、という態度を示し、Bらを脅迫し、その反抗を抑圧して、右カウンター上の現金を奪取すべく、右ナイフをBの左背部に突きつけ、更にその刃先をBに対し押しつけ、同時に左手をBの肩越しに出して、前記現金を奪取しようとしたところ、Bは自己の左背部に押しつけられたナイフを、背後からピストルでも擬せられているものと思い、極度の恐怖の念に駆られて、右Aの左手が現金の方にのばされてきたのを見ながら、Aの行動を制止することを断念して息を殺していたが、Bの右横に立っていたFが、Aの左手が現金の方にのびてきたのを見て金を盗まれると思い、とっさにその現金をカウンターの方に押しやると同時に、Aがひらいたナイフがピカッと光るのを見てとって、大声をあげて同銀行警備員Gが駆け出したために、Aは身の危険を感じ、あわててその場を逃げ出した事実を、認定できるのである
  • 被告人らの準強盗(事後強盗)の共謀に基づいて、共犯者Aが現実に実行したところは、Bに対し暴行を加え、その反抗を抑圧して現金を奪取する強盗の行為であつた
  • ところで、このように準強盗(事後強盗)を共謀した共犯者の一人が、他の者に諮ることなく強盗行為に及んだ場合であっても、その共謀にかかるところも又強盗をもって論ぜられるものである以上、その共謀にかかるところと実行行為との間に、その共同意思実現の態様としては異るところがあっても、両者は共に強盗罪としての刑法的評価に服するわけのものであるから、現実にその実行行為としての強盗を行わなかつた他の共犯者全員について又強盗罪の成立があるものというべきである
  • されば、被告人も又前記Aが前示被告人らとの共謀に基づいて強盗について、当然その責めを負うべきものである
  • そして、この場合、Aのした強盗行為によりBに傷害の結果を生ぜしめた以上、被告人において、右傷害の点についての認識を欠いていたとしても、被告人がAらとの強盗の共同正犯としての罪責を負うべきものである以上、いわゆる結果的加重犯としての右Aのした強盗致傷罪について又被告人もその罪責を免れることのできない筋合である

と判示し、事後強盗罪の共謀をしたAが強盗をなした場合には、Aと一緒に事後強盗を共謀した共犯者に対しても、強盗罪(この場合は被害者が傷害を負っているから強盗致傷罪)が成立するとし、事後強盗罪を共謀した全員に強盗致傷罪の共同正犯が成立するとしました。

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