刑法(電子計算機使用詐欺罪)

電子計算機使用詐欺罪(3) ~「電子計算機使用詐欺罪の前段が適用された判例」を解説~

電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の前段が適用された判例

 電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の前段は

人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた

行為を罰する規定です。

 この前段が適用された裁判例を紹介します。

大阪地裁判決(昭和63年10月7日)

 銀行の女子行員がオンラインシステムの端末を操作して、同システムの電子計算機に対し自己の預金口座等に振替入金があったとする虚偽の情報を与え、同計算機に接続されている記憶装置の磁気ディスクに記録された同口座の預金残高を書き換えた事案につき、財産上不法の利益を得たとして、電子計算機使用詐欺罪の前段の罪が成立するとしました。

高松地裁判決(平成元年4月26日)

 部外者が点検員等を装って、農協のオンラインシステムの端末機を不正に操作して、自己の仮名口座に振込入金を行った事案につき、財産上不法の利益を得たとして、電子計算機使用詐欺罪の前段の罪が成立するとしました。

東京地裁八王子支部判決(平成2年4月23日)

 オンラインによる電信為替送金のシステムを悪用して、勤務先の電算機の端末から不正の振込発信をし、これと接続している被仕向(振込先)銀行の電算機に接続された磁気ディスクに記憶された預金口座の預金残高を書き換えた事案につき、財産上不法の利益を得たとして、電子計算機使用詐欺罪の前段の罪が成立するとしました。

東京地裁判決(平成7年2月13日)

 国際電信電話株式会社(KDD)の電話交換システムに対し、料金着信払いサービス(IODC サービス)を利用する旨の番号を送信して不正の指令を与え、同サービスを提供している外国の電話交換システムに自己の電話回線を接続させた後、「ブルーポックス」と称するソフトを使用してパソコンから同電話交換システムに対して業務用信号に模した不正信号を送り出して、IODCサービスの申込みを取り消すとともに、同システムからKDDの電話交換システムへ送信される同申込み取消しの送信を妨害することによって、KDDにおいても着信先の外国の電気通信事業者においても自らが課金すべき通信であると認識できない状態に置いた上で、国際通信を行ってこれに相当する額の支払を免れた事案において、上記不正の指令により、KDDの電話料金課金システム上のファイルに上記国際通信がIODCサービス利用の通話である旨の記録を作出させたことが、財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作ったことに当たるとして、電子計算機使用詐欺罪の前段の罪が成立するとしました。

東京地裁判決(平成7年12月26日)

 1万円紙幣大の紙片の束の上下を、1万円紙幣の真券ではさんで作った偽の札束を真券の札束のように装って信用組合の支店長Aを編して入金処理させ、これを引き出し可能な状態にして財産上不法の利益を得ていたところ(この行為については刑法246条2項に該当)、Aが真券でないことに気づいてから後の行為について、Aとの共謀を認めた上で、Aが情を知らない支店係員をして、同支店に設置されたオンラインシステムの端末を操作させ、同組合本部の電子計算機に虚偽の入金情報を与えて、預金残高を増加させた不実の電磁的記録を作らせた行為に対して、電子計算機使用詐欺罪の前段の罪が成立するとしました。

長野地裁諏訪支部判決(平成8年7月5日)

 パチンコ用プリペイドカード(パッキーカード)を店内に設置されたカードユニット(自動玉貸装置)に挿入してパチンコ玉を排出させると、そのカードの消費金額がカードユニット等を経て、集計され、パッキーカードの支払に関する事務処理を行っているコードシステム会社に毎日送信された上、同社のホストコンピュータにおいて、毎月の消費金額と当該パチンコ店に対するパッキーカードの販売代金等との相殺処理と差額の請求・支払を自動的に行う電子計算機システムにおいて、パチンコ店の従業員が、使用済みのパッキーカードを変造した上、カードユニットに挿入使用し、これにより電話回線を通じて、カードシステム会社のコンピュータに、これに相応するパッキーカードの消費金額名下に不法た利得を同パチンコ店に得させ、又は得させようとした行為につき、カードユニットへの挿入使用の段階で、カードシステム会社のホストコンピュータに対し、真正なパッキーカードの使用によるパチンコ玉の排出があった如き虚偽の情報を与えて、その結果、同コンピュータ上に誤った消費金額との相殺処理による不実の記録を作出させた行為に対して、電子計算機使用詐欺罪の前段の罪が成立するとしました。

名古屋地裁判決(平成9年1月10日)

 部外者が、電話回線に接続したパソコンを操作して銀行のオンラインシステムに虚偽の振込送金情報を与え、銀行の他の預金者の口座から共犯者らの口座に送金させた、合計16億3000万円の財産上不法の利益を得又は第三者をして得させたとの事案につき、電子計算機使用詐欺罪の前段の罪が成立するとしました。

東京地裁判決(平成9年11月7日)

 韓国硬貨である500ウォン硬貨の一部を削り取るなどして、日本の500円硬貨と酷似するものを作った上、これを銀行の現金自動預入支払機(ATM)に投入するなどして、自己の預金口座の残高を増加させた行為につき、電子計算機使用詐欺罪の前段の罪が成立するとしました。

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