刑法(電子計算機使用詐欺罪)

電子計算機使用詐欺罪(1) ~「電子計算機使用詐欺罪とは?(詐欺罪で処罰できない詐欺行為を処罰)」「本罪の具体例」「財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録とは?」を判例で解説~

電子計算機使用詐欺罪とは?

 電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)とは、

コンピューターや電磁的な記録を不正に操作するなどして、詐欺罪(刑法246条)にあたる行為をする罪

をいいます。

 分かりやすくいうと、電子計算機使用詐欺は、

事務処理システムを悪用して、人を欺くことなく電磁的記録上で財産上不法の利益を得る行為

をいいます。

電子計算機使用詐欺罪の具体例

 たとえば、

  • 銀行のオンラインシステムを利用して、端末機から虚偽の入金データを入力したり、不正に他人の口座からの振替操作を行い、自己の預金口座の残高を増額させる行為
  • 他人のキャッシュカードを不正に使用し、自動振込機により他人の預金口座から自己の預金口座に振込を行う行為
  • 虚偽の度数が記録されたプリペイドカードを端末機に挿入して使用し、サービスの提供を受ける行為

は、電子計算機使用詐欺罪を構成します。

電子計算機使用詐欺罪の設立理由(詐欺罪で処罰できない詐欺行為を処罰)

 電子計算機使用詐欺(刑法246条の2)は、詐欺罪(刑法246条)の処罰規定できない詐欺行為である

  • 人に対する欺罔行為
  • 財物の占有移転を伴わない詐欺行為

を処罰するために設けられた規定です。

 人に対する欺罔行為がない詐欺行為、財物の占有移転を伴わない詐欺行為は、詐欺罪の構成要件を満たさないため、詐欺罪で処罰することができません。

 そこで、電子計算機使用詐欺罪を新設し、上記詐欺行為を処罰できるようにしました。

 電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の条文には、「前条(刑法246条)に規定するもののほか」と規定されており、詐欺罪を補充する規定であることが明示されています。

 なので、ある犯罪に対して、詐欺罪が成立する場合は、電子計算機使用詐欺罪は適用されず、詐欺罪で犯人を処罰することになります。

 詐欺罪の構成要件を満たさず(人に対する欺罔行為がない、財物の占有移転がない)、詐欺罪を適用できない場合に、電子計算機使用詐欺罪を適用して犯人を処罰することなります。

 たとえば、電子計算機使用詐欺に外観上は該当する行為であっても、事務処理の過程に人に対する欺罔行為が存在し、詐欺罪が成立すると認められる場合には、詐欺罪が適用されることになります。

行為

 電子計算機使用詐欺(刑法246条の2)の行為類型は、本条の前段と後段とに分かれます。

 前段は、

  • 人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作る行為

であり、後段は、

  • 財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供する行為

です。

 いずれも、財産権の得喪、変更の事務が、電磁的記録に基づき、自動的に処理される場面において、このような取引ないし事務処理システムを悪用して、人を欺くことなく、財産上不法の利益を得る行為です。

「財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録」とは?

 電子計算機使用詐欺欺(刑法246条の2)の前段と後段のいずれの行為にも共通するのが、「財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録」という概念です。

 この概念について説明します。

 「財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録」とは、

財産権の得喪・変更の事実、又はその得喪・変更を生じさせるべき事実を記録した電磁的記録であって、一定の取引場面において、その作出(更新)により、事実上、財産権の得喪・変更が生じることとなるようなもの

をいいます。

 このような電磁的記録として、

  • 金融機関のオンラインシステムにあって、事務センターのコンピュータに接続された磁気ディスク等(いわゆる元帳ファイル)に記憶・蓄積された預金残高の記録(※銀行口座データ)(大阪地裁判決 昭和63年10月7日、東京地裁八王子支部判決 平成2年4月23)
  • 売掛金等の請求や、買掛金・給与の支払の事務処理の目的で作成される企業内のファイルのうちで自動引落し用に作られた記録
  • 国際通信センター内に接続された国際電信電話株式会社(KDD)の通話料金課金システムファイル上の記録(東京地裁判決 平成7年2月13日)
  • テレホンカードやパチンコ用のパッキーカード等のプリペイドカード中の残度数等の記録
  • 自動改札に用いられる切符や定期券の磁気面の日付・金額・発車駅コード等の記録

が該当します。

 これらの電磁的記録は、そこに記録されたデータによって、特定の財産権の内容が事実上決せられ、権利者や所持人において、改変された内容を前提とする権利の行使・利益の実現が事実上可能となるものであり、

電磁的記録と事実上の財産権の得喪・変更の効果との間の直接的あるいほ必然的な連関性が認められる

点がポイントになります。

 このポイントを踏まえると、逆に、本罪の電磁的記録に該当しないものとして、

  • 登記簿をコンピュータ化させたいわゆる不動産登記ファイルのように、財産権の得喪・変更の事実を公証するための記録
  • キャッシュカードやクレジットカードの磁気ストライプ部分のように、一定の資格を証明するための記録

があげられます。

 これらの記録は、いずれも財産権の得喪・変更に関するものではありますが、財産権の得喪・変更の効果との間の直接的あるいほ必然的な連関性が認められる電磁的記録ではないため、本罪の電磁的記録に該当しません。

 例えば、他人のキャッシュカードを不正に作った上、これを自動振込機で不正に使用して振込を行ったような場合について、キャッシュカードの磁気ストライプ部分の不正作出または供用の段階では、いまだ財産権の得喪・変更に係る虚偽又は不実の電磁的記録は存在するに至っていないため、電子計算機使用詐欺が成立しません。

 この場合、振込が完了した段階で、被仕向銀行の元帳ファイル上に不実の電磁的記録が作出されたこととなり、電子計算機使用詐欺が成立することになります。

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