刑法(横領罪)

横領罪(12) ~「共同占有物を領得した場合は、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する」を判例で解説~

共同占有物を領得した場合は、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する

 数人が対等な立場で共同して他人の財物を保管する場合に、共同保管者の一人が他の保管者の同意を得ずに、不法領得の意思をもって、当該財物を共同保管の状態から自己単独の占有に移したときは、他の保管者の占有を侵害して他人の財物を自己の支配人に移して不法に領得したものであって、窃盗罪となります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判例(大正8年4月5日)

 銀行の支配人が、頭取および常務取締役が共同して保管中の有価証券を、銀行の金庫内から取り出した事件で、有価証券の占有は、頭取および常務取締役との共同占有であるとした上で、支配人に対する窃盗罪の成立を認めました。

最高裁判例(昭和25年6月6日)

 石炭窒素の倉庫の鍵を保管し、倉庫への石炭窒素の出入りをすべて自己の責任で行っていた石炭窒素部の主任が、倉庫の石炭窒素を領得した事件で、石炭窒素の占有は、石炭窒素を領得した主任と、その上司である係長との共同占有であるとした上、主任に対して窃盗の成立を認めました。

 この場合、主任に対しては、窃盗罪のほか、業務上横領罪も同時に成立しますが、このような場合、判例は窃盗罪で犯人を処罰しています。

大審院判決(昭和13年8月3日)

 賭博の当事者双方が、同額の賭け金を一個の容器中に混和して事実上共同保管している間に、その一方が相手に無断でその金員を抜き取った行為について、横領罪ではなく、窃盗罪の成立を認めました。

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