刑法(横領罪)

横領罪(31) ~横領罪における不法領得の意思⑤「穴埋め横領」を判例で解説~

穴埋め横領

 委託を受けた金品の一部の横領を行った後に、その補填のために、更にその委託を受けた金品の横領を重ねる場合を「穴埋め横領」といいます。

 判例は、「穴埋め横領」について、横領罪の成立を認める立場をとっています。

東京高裁判決(昭和26年12月27日)

 出納官吏が、自己の業務上保管中の公金を過去の横領金額の穴埋に使用した事案で、裁判官は、

  • 出納官史が自己の業務上保管する公金を自己の過去の横領金額の穴埋に使用することは、これを不法に領得したものであつて、業務上横領に当ることは、言うまでもない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和39年1月21日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、市民から徴収したガス利用組合への加入金の一部のみならず、工事金の一部をも着服して使い込んでいたのであるが、工事金の使い込みだけでも穴埋めしておこうと考え、4回にわたり、加入者より受け取った加入金の中から、合計9万2516円を割いて、これを工事金にまわし、これを実際に受領した工事金に加え、その全部を工事金として受領したもののごとく手続上作為したものであることが明らかである
  • ところで、横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいい、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要としないものと解すべきである
  • 工事金を着服して使い込んだ被告人が、その使い込みの穴埋をするため保管する加入金の中からまわした合計9万2516円の現金につき、右の意味の不法領得の意思を有しなかったものということはできないから、右穴埋めにまわした加入金についても横領罪は成立するものといわなければならない

と判示し、穴埋めの横領行為について、横領罪の成立を認めました。

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