刑法(横領罪)

横領罪(33) ~横領罪における不法領得の意思⑦「不法領得の意思は、犯人自身のほか、第三者に領得させる意思であってもよい」を判例で解説~

横領罪における不法領得の意思は、犯人自身のほか、第三者に領得させる意思であってもよい

 不法領得の意思は、横領する目的物を「自己に領得する意思」であることはもちろんのこと、「第三者に領得させる意思」でもよいとされます。

 この点について、以下の最高裁判決があります。

最高裁判決(昭和24年3月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 横領罪の成立に必要な不法領得の意志とは、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その物につき、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意志をいうのであって、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではない

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年6月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 横領罪は、他人の物を保管する者が、他人の権利を排除して、ほしいままにこれを処分すれば、それによって成立するものであることは明らかであり、必ずしも自分の所有となし、もしくは自分が利益を得ることを要しない
  • 他人の物を保管する者が、他人の権利を排除して、ほしいままにこれを処分すれば、横領罪は成立するのであるから、判示玄米を処分したことは、村民救済のためであるとしても、犯罪の成立をさまたげるものではない
  • また、処分によって得た金銭は一銭も私しないとしても、横領罪が成立することは明らかである

と判示しました。

最高裁判決(昭和32年6月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • 横領罪は、他人の物を保管する者が他人の権利を排除して、ほしいままにこれを処分することにより成立し、必ずしも自己の所有となし又は自己が利益を得ることを要しない

と判示しました。

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