刑法(横領罪)

横領罪(29) ~横領罪における不法領得の意思③「一時使用の目的でも横領罪は成立する」を判例で解説~

一時使用の目的でも横領罪は成立する

 不法領得の意思において、自己の所有物とする意思や、専ら所有者のように振る舞う意思をその内容とする以上、一時使用の目的で委託物を用いただけでは、不法領得の意思は認められないことになります。

 ただし、窃盗罪においては、一時使用の目的であるというだけで不法領得の意思が否定さず、窃盗罪の成立が認められます(一時使用の窃盗罪(使用窃盗)については前の記事①前の記事②参照)。

 そして、横領罪においても、所有者が許容しないと考えられるような程度・態様での利用の場合には不法領得の意思が認められ、横領罪の成立が認められます。

 参考となる判例として、次のものがあります。

大阪高裁判決(昭和46年11月26日)

 この判例は、昼頃までに返す趣旨で午前9時頃に自動車を借り受けた者が、その許諾の限度を超えて8日間にわたり自動車を乗り回した場合には横領罪となるとしました。

東京地裁判決(平成10年7月7日)

 この判例は、会社の従業員が保管する会社の機密資料をコピー目的で一時的に持ち出すような場合にも不法領得の意思が認められ、横領罪が成立するとしました。

東京地裁判決(昭和60年2月13日)

 時期によって10名から30名程の人員によって構成された会社内のグループによって10年以上にわたり開発をしていたコンピューターシステムの設計書、仕様書、説明書、回路図等で自らが保管責任者となっていたものを、コピーするために勝手に社外に持ち出して領得した行為に対し、業務上横領罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 他人の物を一時的に持ち出した際、使用後返還する意思があったとしても、その間、所有権者を排除し、自己の所有物と同様にその経済的用法に従ってこれを利用し又は処分をする意図がある限り、不法領得の意思を認めることができると解される
  • 持ち出された資料は、会社が多大な費用と長い期間をかけて開発したコンピューターシステムの機密資料であって、その内容自体に経済的価値があり、かつ、同社の許可なしにコピーすることは許されないものであるから、その許可を受けずコピーする目的をもって資料を同社外に持ち出すに当たり、その間、所有者を排除し、 自己の所有物と同様にその経済的用法に従って利用する意図があったと認められる

として、一時使用の横領行為について、不法領得の意思を認定しました。

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