刑法(横領罪)

横領罪(54) ~「委託物の処分が、権利行使の範囲内であれば、横領罪にならない」「可罰的違法性がないとして、横領罪の成立が否定された事例」を判例で解説~

委託物の処分が、権利行使の範囲内であれば、横領罪にならない

 委託物の管理を受けた占有者が、法律上有する権利の行使として、委託物の処分行為を行ったときは、その行為は横領とはなりません。

 参考判例として、以下のものがあります。

大審院判決(昭和9年4月28日)

 この判例は、金銭債務を負担する者が、その弁済担保するために、白紙委任状付きで株券類を債権者に交付した場合に、債務者が弁済期に弁済をしないときは、債権者が任意に担保株券を売却処分して弁済に充当することができるという商慣習が存在することは裁判所に顕著な事実であり、当事者間の担保契約の趣旨も、この慣習に依拠する意思の下に行われたと認められるので、担保株券の売却処分は違法性を有しないとしました。

権利行使とは認めれず、横領罪となる行為

 上記とは逆に、権利行使とは認められず、横領罪となる行為があります。

 典型的な行為を示した判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治43年2月17日)、大審院判決(昭和16年7月14日)

 受託者が、委託者に対し、債権を有する場合であっても、他人に金員を支払う旨の委託を受けた場合、その金銭を委託者に対する債権との相殺ないし弁済として充当する行為は許されず、その行為は横領罪となるとしました。

東京高裁判決(昭和26年4月12日)

 会社に対し、歩合で報酬を受ける権利があったとしても、集金した金員を会社のために保管中に、自己の用途に供する目的で、会社に入金せずに着服する行為は許されず、その行為は横領罪となるとしました。

可罰的違法性がないとして、横領罪の成立が否定された事例

 可罰的違法性とは、

犯罪が成立するためには、行為が違法だというだけでは足りず、犯罪として刑罰を科すに値する程度の実質的違法性も有していなければならないとする考え方

をいいます。

 たとえば、Aが、普段は仲が良い友人とけんかをした際に、友人に対し「殴ってけがさせるぞ」と脅迫して脅迫罪が成立した場合(その後、Aと友人は仲直りしている)、Aに対して脅迫罪の成立を認め、刑罰を受けさせるのは妥当でないと考えられます。

 このように、犯罪に該当する行為をしても、内容が軽微である場合は、裁判官は、可罰的違法性がないとして、犯罪が成立しないと判断する場合があります。

 横領罪において、可罰的違法性がないとして、横領罪の成立が否定された判例として、以下のものがあります。

札幌高裁判決(昭和46年10月26日)

 被告人が、知り合いの材木商(以下「被害者」という)から預かり保管中の時価650万円相当の雑木丸太を、第三者に320万円で売却したという事案です。

 裁判官は、以下の①~④の事実を前提として、被告人の売却処分行為をもって、横領罪として処罰さるべき実体を具有する違法な行為であるとまでは断定できないとし、横領罪の成立を否定しました。

① 被告人は、被害者から立木の伐採を依頼され、月額10万円の報酬で引き受けたが、被害者からの人夫賃等の経費の支払が滞りがちになったために、被告人が一部を立て替え、作業終了時には伐採に関するもの以外も合わせて、210万円分の手形が未決済となっていたほか、被告人は、被害者に対し、100万円以上の債権を有していたところ、被害者が計画倒産を図って、不渡手形を出して倒産した

② そのため、被告人は、被害者に対し、債務の弁済を強く迫った結果、被害者は、これを事実上担保する趣旨のもとに、材木を被告人に売り渡す旨の仮装売買契約書の作成に応じたものの、隠し財産の詳細や債務の弁済時期等については一切説明しようとしなかった

③ その上、被告人は、債務の支払のため、その決済を迫られて、資金繰りが苦しくなっていたので、被害者に対し、―定の日までに連絡がなければ、木材を処分する旨を通知したものの、被害者からは何らの連絡もなかった

④ そのため、被告人は、材木を適正価格で第三者に売却し、被害者に対する債権に充当した

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