刑法(横領罪)

横領罪(6) ~「犯人が管理する預金口座の金銭は犯人の占有が認められ、横領罪が成立する」を判例で解説~

犯人が管理する預金口座の金銭は犯人の占有が認められ、横領罪が成立する

 横領罪が成立するためには、横領しようとする物や金を犯人自身が占有している必要があります。

 金銭を銀口座に預け入れたり、引き出したりして金銭を領得する行為について、横領罪を認めるには、銀行口座に預け入れた金銭について、法的理解として、犯人の占有が認められる必要があります。

 預金口座の金銭に対する事実上の支配を有しているのは銀行なので、犯人に預金口座の金銭に対する占有が認められるのかという議論が生じます。

 この点、判例は、横領犯人が銀行口座に預け入れた金銭について、犯人の占有が認められるとの立場をとり、銀行口座に金銭を預け入れたり、引き出したりして金銭を領得する行為について、横領罪の成立を認めています。

大審院判決(大正元年10月8日

 この判例で、裁判官は、

  • 村長として保管する村の基本金を銀行に預け入れても、公金の保管者たる地位に変動を生じさせるものではなく、当該公金は預け入れ後も村長の支配内にあり、自己の占有する他人の物に当たる

とし、預金に対する犯人の占有を認め、村の金を銀行の預金に預け入れる行為について、横領罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和59年11月6日)

 この判例は、手形債権の取立てを依頼された者が、自己の管理する口座に振り込まれた手形金を自己の債務返済のために払い戻すことは横領に当たるとしました。

東京高裁判決(昭和51年7月13日)

 当座預金契約に基づき、小切手振出の権能を有する者は、小切手資金として寄託されている金額の金員について、常時これを処分する権限を有するから、当座預金に対する占有を有するものと解されています。

 この判例は、小切手の振出権限を有する者が、自己の遊興費の支払のために小切手を作成して現金化した行為について、当座預金の横領を認めました。

横領罪、窃盗罪、詐欺罪との占有関係

 預金口座の金銭に対する事実上の支配を有しているのは銀行であるので、その意思に反して口座の金員を領得する行為は、詐欺(銀行窓ロでの引出し)、窃盗(ATM機での引出し)又は電子計算機使用詐欺(ATM機での振替送金)に該当し得ることになります。

 横領罪の成立を検討するに際して、詐欺罪や窃盗罪との関係で、預金の占有が銀行や口座名義人に認められると解したとしても、横領罪の関係でも、預金口座の金銭に犯人が認められると解すことができるのであれば、横領罪が成立することの妨げにはなりません。

【参考】

 預金口座の金銭を銀行窓ロで引き出す行為が詐欺罪になることについては、

前の記事『被告人が、銀行窓口で銀行係を欺いて現金を払い戻す行為については詐欺罪が、現金自動預払機から現金を引き出す行為については窃盗罪が成立する』

を参照。

 預金口座の金銭をATM機から引き出す行為が窃盗罪になることについては、

前の記事『ATM機から現金を不正に引き出した場合は窃盗罪が成立する』

を参照。

 預金口座に誤振り込みされた金銭の引き出しが詐欺罪になることについては、

前の記事『誤振込みされた預金を引き出す行為は詐欺罪となる』

を参照。

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