法律(刑法)

詐欺罪㊳ ~「郵便局長による他人名義を使っての郵便切手の販売詐欺」「電信の名義人を誤っていても不能犯ではなく詐欺罪が成立するとした判例」「既に本人に引き渡されている荷物に対し、本人と偽って荷物の引き渡しを受けようとした事案で、不能犯ではなく、詐欺未遂罪の成立を認めた判例」「誤振込みされた預金を引き出す行為は詐欺罪となる」を解説~

 詐欺罪(刑法246条)について、知識としておさえておきたい判例を紹介します。

郵便局長による他人名義を使っての郵便切手の販売詐欺

最高裁判決(昭和43年7月5日)

 郵便局長が、手数料を取得する目的で、郵便切手類と印紙の売りさばき人の名義を借りて、自己の計算のもとに郵便切手類を売りさばき、それをあたかも名義人自身が売りさばいたように書類を作成して、郵便局に提出し、歳出金支払証票の交付を受けた行為は、詐欺罪に当たるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人が、売さばき人の名義を借り受け、 自己の計算の下に郵便切手類等を売りさばき、その手数料を売さぼき人の名義で取得する行為は、郵便切手類売さばき所及び印紙売さばき所に関する法律(昭和24年法律91号)の認めないところである
  • 従って、そのような行為によって売りさばいた印紙等の手数料を請求する権利は被告人にはなかったのであるから、その事実を秘し、あたかも実際に名義人自身が郵便切手類を売りさばいたように書類を作成して指定郵便局に提出し、歳出金支払証票の交付を受けた行為は詐欺罪となる
  • 郵便切手類および印紙の売さばき手数料の支払に関し、指定郵便局から特定郵便局に送付される歳出金支払証票は、詐欺罪の対象となる財物になる

と判示しました。

電信の名義人を誤っていても不能犯ではなく詐欺罪が成立するとした判例

札幌高裁判決(昭和25年3月9日)

 被告人が、電信の発信人を旅行中のS名義とすべきところを誤って留守居中のR名義とし、受信人をSとして通信したが、被告人の発した虚偽の電信によりRの留守家族において、一旦欺かれ送金したという事案で、裁判官は、

  • 電信による詐欺行為の場合には、発信人と受信人の名義の誤りがあっても、その留守家族の者において欺罔せらる可能性が十分あるので不能犯ではない
  • 被告人の発した虚偽の電信により、被害者の留守家族において一旦欺罔せられ金送しているのであって、本件行為を不能犯とする所論(※被告人の弁護人の主張)は理由がない

と判示し、詐欺罪が成立するとしました。

既に本人に引き渡されている荷物に対し、本人と偽って荷物の引き渡しを受けようとした事案で、不能犯ではなく、詐欺未遂罪の成立を認めた判例

東京高裁判決(昭和26年8月14日)

 拾得した手荷物切符を利用し、荷受人本人のように装い、小荷物の引渡しを求めたが、たまたま真正の荷受人が引渡しを受けていたため目的を遂げなかった場合でも、不能犯ではなく、詐欺未遂罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、東京駅京浜線ホームで静岡駅発行の荷受人N名義の手荷物切符1通を拾得したのを奇貨とし、これを不正に行使して手荷物を騙取しようと企て、手荷物の着駅なる千葉県野田駅前の公衆電話により、同駅係員に対し、荷受人本人なるが如き言辞弄して手荷物の有無を確かめた上、直ちに同駅前露天商S方に至り、その長男に前記手荷物切符を交付して手荷物を受領して来るよう依頼し、情を知らない同人をして、同駅において手荷物切符を係員に呈示させ、あたかも荷受人が受領するものの如く誤信せしめ、荷受人N名義の手荷物1個を騙取しようとしたが、既に係員にその偽計を察知され、かつ、たまたま真正の荷受人が手荷物を受領した後であったため、その目的を遂げなかったものであるというのであり、鉄道便により手荷物を託送した場合に、手荷物切符を所持人が着駅の係員にこれを提出して手荷物の引き渡しを請求すれば、特別の事業がない限り、直ちに手荷物の引き渡しを受けることができることになっていることを認めることができる
  • 然らば、被告人が拾得した前記手荷物切符を利用し、野田駅係員を欺罔して、前記手荷物を騙取しようとした行為は、本来その結果の実現が絶対に可能性がなかったものではなく、ただ本件の場合において、たまたま荷受人が被告人より先にその手荷物を受領していたため、被告人の偽計が看破され、騙取することができなかったに過ぎない
  • すわなち、被告人の意図し実行した詐欺行為は、通常の場合その結果の実現が不可能のものではなく、かつ、いわゆる具体的危険性のあるものではあったが、前記の特殊事情により、たまたま不能となったのであるから、被告人の本件行為は、いわゆる不能犯ではなく、詐欺の障害未遂に該当するものである

と判示し、鉄道便により手荷物を託送した場合に、手荷物切符の所持人が着駅の係員に手荷物切符を提出して手荷物の引渡しを請求すれば、特別の事情がない限り、直ちに手荷物の引渡しを受けることができることになっていることを指摘し、詐欺未遂罪が成立するとしました。

誤振込みされた預金を引き出す行為は詐欺罪となる

札幌高裁判決(昭和51年11月11日)

 銀行の自己の普通預金口座に誤って入金の取扱いがなされているのを奇貨とし、その入金額について払戻請求権があるように装い、普通預金払戻請求書を作成して銀行窓口の担当者に提出し、払戻金名下に金員を交付させた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 事案は、S社が、H銀行T支店の「B水産株式会社」の普通預金口座へ振り込むべき商品代金228万円9946円につき、誤ってH銀行C支店のB水産株式会社を受取人として、Y銀行G支店に対して振込依頼をしたため、これがテレタイプにより片仮名で通知され、H銀行C支店において「B水産代表甲」名義の普通預金口座へ入金の取扱いがなされたところ、B水産札幌営業所に勤務する被告人が、これを奇貨として、その入金額について払戻しを請求する権利がないのに正当な権利にもとづく払戻しのように装って、B水産代表甲名義の普通預金払戻請求書を作成してその払戻しを受けたというものです。

 被告人の弁護人は、

  • 振込入金につき、被仕向銀行たるH銀行C支店に過失はないから、預金債権は有効に成立しているし、たとえそうでないとしても、被告人は、対銀行との関係で預金の払戻を正当に受けうる地位にあり、また、金員は振込入金がなされた時点で既に被告人の占有に帰していたとも考えることができる
  • したがって、詐欺罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤りがある

として、詐欺罪は成立しないと主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 一般に預金者の預金に対する占有を認めるとしても、本件のような誤入金の場合には、銀行はこれを知れば自由に入金記帳を訂正することができるのであるから、入金の取扱いを受けた金員が預金口座の権利者の事実上の支配内にあるということもできるのであって、その意味でも被告人の占有を認めることはできない

と判示し、

  • H銀行C支店のB水産代表甲名義の普通預金口座へ振込入金の取扱いがなされた金228万9946円について、有効に預金債権は成立しておらず、したがって被告人に右金員の払戻請求権はないから、被告人の本件所為は詐欺罪を構成する

としました。

 なお、本件事案においては、銀行係員に対し、正当な払戻請求であるように装って、普通預金払戻請求書を提出した点を捉えて、作為により人を欺いた行為であると解されます。

 これに対し、誤振込みされた預金を引き出した事案において、不作為により人を欺いた行為であるとして、詐欺罪の成立を認めた以下の判例があります。

最高裁決定(平成15年3月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 受取人においても、銀行との間で普通預金取引契約に基づき、継続的な預金取引を行っている者として、自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には、銀行に措置を講じさせるため、誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務がある
  • 社会生活上の条理からしても、誤った振込みについては、受取人において、これを振込依頼人等に返還しなければならず、誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき実質的な権利はないのであるから、上記の告知義務があることは当然というべきである
  • そうすると、誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の欺罔行為に当たる
  • また、誤った振込みの有無に関する錯誤は、詐欺罪の錯誤に当たるというべきであるから、錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には、詐欺罪が成立する

として、不作為による詐欺罪の成立を認めました。