刑法(傷害罪)

傷害罪(8) ~「傷害罪の故意」「傷害罪は暴行罪の故意があれば成立する」を判例で解説~

傷害罪の故意

 傷害罪、暴行罪などの故意犯については、犯罪を犯す意思(故意)がなければ、犯罪は成立しません(詳しくは前の記事参照)。

 傷害罪の故意は、

暴行罪の故意があれば足りる

とされます。

 つまり、相手に傷害を負わせる意思で暴力を振るうことが傷害罪の故意になることはもちろんですが、相手に傷害を負わせる意思はなく、暴力を振るう意思で暴行を行い、結果的に相手に傷害を負わせた場合でも、傷害罪の故意を認めることができます。

 暴行罪の条文(刑法208条)に「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」とあることから、暴行の意思をもって暴行を加え人を傷害した場合は、傷害にあたるとするのは当然の結論です。

 ちなみに、暴行罪を犯そうと思って、結果的に相手にけがをさせて傷害罪となる犯行態様を「結果的加重犯」といいます。

 傷害罪は、暴行罪の結果的加重犯という一面があります。

暴行の故意とは?

 暴行罪の故意を理解すれば、傷害罪の故意も理解したことになります。

 暴行罪の故意は、

人の身体に対して有形力を行使することの認識

と定義されます(詳しくは暴行罪の記事参照)。

 暴行罪の故意は、「暴行になるかもしれない」という未必的認識であっても成立します(これを未必の故意といいます)。

 暴行が人に対する不法な有形力の行使である以上、当然に傷害に至る危険性を内包します。

 したがって、「暴行の故意」は、「傷害の未必の故意」を潜在的に含むといえます。

 暴行それ自身が一種の身体侵害であることからして、それだけで傷害罪に必要な故意が十分に成立することになります。

傷害罪の故意に関する判例

 傷害罪の故意に関する判例を紹介します。

最高裁判決(昭和22年12月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 暴行の意思あって、暴行を加え、傷害の結果を生じた以上、たとえ傷害の意思なき場合といえども、傷害罪は成立するものといわねばならぬ

と判示し、暴行の故意だけでも傷害罪は成立するとしました。

最高裁判決(昭和25年11月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因たる暴行についての意思が存すれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としないのである
  • されば、仮りに、被告人には被害者に傷害を加える目的をもたなかったとしても、傷害の原因たる暴行についての意思が否定されえない限り、傷害罪は成立する

旨判示しました。

最高裁判決(昭和25年11月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 傷害罪又は傷害致死罪の成立に必要な主観的要件としては、暴行の意思を必要とし、かつこれをもって充分である
  • 暴行の意思以外に、さらに傷害の意思を要するものではない

と判示し、暴行の故意だけでも傷害致死罪が成立するとしました。

最高裁判決(昭和34年6月9日)

 被害者を突き倒し、右拇指長趾伸筋腱断裂の傷害を負わせた事案で、暴行と傷害との間に因果関係の存在を認め、なお、暴行による傷害罪の成立には暴行と傷害との間に因果関係の存在を必要とするにとどまり、傷害の結果についての予見は必要としないとしました。

 裁判官は、

  • 被告人の暴行と被害者の受けた傷害との間に因果関係の存在が認められ、かつ、その因果関係が被告人の所為につき傷害罪の刑事責任を負わしめるに十分なものであることは、当裁判所の判例の趣旨に徴し是認できる
  • なお、暴行による傷害罪の成立には暴行と傷害との間に因果関係の存在を必要とするにとどまり、傷害の結果についての予見は必要としないものである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和38年12月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • 傷害罪は、暴行の結果的加重犯としても成立する犯罪であるから、その犯意の内容には、傷害の認識ある場合はもちろん、暴行の認識あるに止まる場合をも包含する

と判示し、傷害の故意による傷害の訴因につき、暴行の故意による傷害を訴因変更手続(裁判において、起訴状に記載された犯罪事実の内容を変更する手続)を経ないで認定できるとしました。

東京高裁判決(昭和56年2月18日)

 フォークリフトを被害者に向かって走行させ、衝突させるかのような気勢を示しながらその身体に近接させた行為は暴行に該当し、真近に迫ってきたフォークリフトを避けようとしてフォークリフト前部に積載したバケットに当たり受傷した被害者の傷害の結果は、被告人の前記暴行によって生じたものというべきであると判示し、傷害罪の成立を認めました。

 フォークリフトを衝突させるかのように近接させた行為に暴行の犯意があったと認定し、したがって、暴行の故意があれば傷害罪も成立するのであるから、フォークリフトを避けようとして負った被害者の傷害につき、傷害罪の成立を認めたものです。