刑事訴訟法(捜査)

取調べとは?⑤ ~「供述調書の作成目的・作成方法」「署名・押印のない供述調書の証拠能力」を判例などで解説~

供述調書とは?

 供述調書とは、

捜査機関(警察官、検察官など)が、刑事事件に関し、被疑者・被告人・参考人の取調べを行い、聞いた内容をまとめた書面

をいいます。

供述調書を作成する目的

 供述調書は、

犯罪事実を証明するための証拠

とするために作成されます。

 供述調書は、刑事事件の裁判において、証拠として裁判所に提出され、裁判官が犯罪事実を認定するための証拠になります。

供述調書の作成方法

 供述調書は、検察官・検察事務官・警察官が取調べを行って作成します(刑訴法198条Ⅰ)。

 具体的には、検察官・検察事務官・警察官が、被疑者・被告人・参考人などの供述人から、事件に関する話を聞き、聞いた内容を供述調書という書面にまとめます。

 供述調書の文章を作ったら、被疑者などの供述人に閲読させ、読み聞かせ、誤りがないかどうかを確認します (刑訴法198条Ⅳ)。

 この時、供述人が、供述調書に記載された文書に対し、訂正や記載事項の追加を申し立てた場合は、取調べ官は、供述人が申し立てた訂正や記載事項の追加内容を供述調書に記載しなければなりません(刑訴法198条Ⅳ刑訴法規則59条)。

 供述人が、供述調書の記載内容に対し、誤りがないことを申し立てたら、取調べ官は、供述人に対し、供述調書に署名・押印することを求めることができます。

 ただし、署名・押印を強要することはできません(刑訴法198条Ⅴ)。

 もし、供述人が、供述調書に署名・押印することを拒否した場合は、作成した供述調書は、裁判で犯罪事実を認定するための証拠にすることができません(刑訴法321条1項)。

 余談ですが、裁判の証拠として採用することができる証拠は、

証拠能力がある証拠

と表現します。

 供述人の署名・押印のない供述調書は、裁判の証拠にすることができないので、

証拠能力がない証拠

と表現されます。

 署名は、自書が原則になります(プリンタによる印字や、名前のゴム印の押印ではダメです)。

 供述人が、文字が書けないなどの理由で、自書できない場合は、取調べ官・家族などが代筆し、代筆者が代筆した理由を供述調書に記載して署名押印する対応ができます(刑訴規則61条Ⅰ)。

 供述人が、供述調書に署名・押印したら、供述調書の作成者である取調べ官は、供述調書に、供述調書の作成年月日、所属の官公署を記載し、取調べ官の署名・押印をした上、供述調書に契印します(刑訴規則58条)。

 これで供述調書が完成します。

供述人の署名・押印ない供述調書でも、裁判の証拠とすることができる場合がある

 先ほど、

供述人の署名・押印のない供述調書は、裁判で犯罪事実を認定するための証拠にすることができない(刑訴法321条1項

という話をしました。

 もし、供述人の署名・押印のない供述調書でも、裁判の証拠にすることができたら、捜査機関が好き勝手に供述調書を作成できてしまうことから、供述人の署名・押印のない供述調書を証拠にできないのは当然のことです。

 しかし、ここで、供述人の署名・押印のない供述調書を証拠とすることができる場合があります。

 この点について判例があり、福岡高裁判例(昭和29年5月7日)において、裁判官は、

  • 刑訴法321条1項が、供述者の署名もしくは押印の存することを条件としているのは、これにより供述調書の正確性を保障するにあるものと解すべきである
  • 供述調書に供述者において署名もしくは押印(指印を含む)することのできないことにつき正当の事由があるときは、たとえ供述調書に供述者の署名もしくは押印がなくても、…証拠能力を有するものと解するのを相当とする

と判示し、

供述者において署名もしくは押印(指印を含む)することのできないことにつき正当事由があるとき

は、供述者の署名・押印がない供述調書でも、証拠能力が認められるとしました。

 なお、この判例においては、

犯人が取調べを受けた際に瀕死の重傷であり、供述調書に自ら署名・押印することができなかったため、供述調書の作成に立ち会っていた被疑者の父が代署の上、押印した

という事案に対し、裁判官は、供述者において署名もしくは押印(指印を含む)することができない正当な事由に当たるとし、犯人の署名・押印のない供述調書の証拠能力を認めました。

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