刑法(総論)

誤想避難、誤想過剰避難とは? ~判例で解説~

 前回記事では、緊急避難過剰避難について書きました。

 今回は、誤想避難、誤想過剰避難について書きます。

誤想避難とは?

 誤想避難とは、

  • 現在の危険がないのに、危険があると誤信して(勘違いして)、避難行為をすること(「現在の危険の誤信」といいます)

または

  • 相当な避難行為をするつもりで、不相当な避難行為をすること(「避難行為の相当性の誤信」といいます)

をいいます。

「現在の危険の誤信」について

 たとえば、目の前にいるヤクザ風の男に殴られると誤信して、パンチを避けるために、隣にいた友人を突き飛ばしてケガをさせた場合、誤想避難となります。

「避難行為の相当性の誤信」について

 たとえば、目の前にいるヤクザ風の男がビンタをしてきたので、ビンタを避けるために、隣にいた友人を思いきり突き飛ばして骨折させた場合、避難行為の相当性を欠くとして、誤想避難となる可能性があります。

誤想避難が認められると、どうなる?

 誤想避難が認められると、犯罪の故意(犯罪を犯そうとする意志)がないとされ、故意犯は成立せず、過失犯が成立します。

 たとえば、誤想避難行為をして、他人にケガをさせてしまった場合、他人にケガをさせようとする故意(意志)はないので、故意犯である傷害罪は成立しません。

 しかし、誤想(勘違い)して他人にケガをさせたという過失があるので、過失犯である過失致傷罪が成立します。

誤想過剰避難とは?

 誤想過剰避難とは、

誤想避難と過剰避難が競合した場合

をいいます。

誤想過剰避難を認めた判例

 誤想過剰避難の判例として、東京地裁判決(平成9年12月12日)があります。

事件の内容

 夫婦喧嘩をした際に、夫は、妻がベランダから飛び降り自殺しようとしていると勘違いをし、自殺を止めるため、妻の両肩を両腕で力強く突いて転倒させました。

 妻は、頭部打撲により死亡しました。

 夫は、傷害致死罪で起訴されました。

判決の内容

裁判所は、

  • 客観的には、妻が飛び降り自殺をする「現在の危険」は存在しなかったものの、夫は、妻が飛び降り自殺をするものと誤想したことを認めた
  • 夫の行動は、やむを得ない程度を超えたものであり、正当化できないとした
  • 夫は、妻が本気で自殺を図っていると誤信して、妻の自殺を制止しようとし、その際、やむを得ない程度を超えた暴行に及び、妻を死亡させたので、誤想過剰避難が成立するとした

という内容の判決をしました。

 誤想過剰避難が成立すると、刑法37条ただし書きにより、刑を減軽または免除することができると考えられますが、この判決では、刑の減軽または免除はされずに、傷害致死罪が言い渡されています。

 ちなみに、誤想過剰避難の判例は、かなり少ないようです。

まとめ

 これで、緊急避難シリーズ(緊急避難過剰避難、誤想避難、誤想過剰避難)の解説は終わりです。

 次回は、正当行為について書きます。

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