安心できない人からは逃げたくなる ~信頼とオキシトシン~

快楽への接近と危険の回避

 人間は、近くに信頼・安心できる他者がいるときには、心が落ち着くシステムを持っています。

 そのため、その場にとどまることができます。

 人間には、快楽(この場合は信頼・安心できる人)に接近する本能があるので、自然とその場にとどまる行動がとれます。

 逆に、近くに信頼・安心できない他者がいるときは、その相手を避けようとするシステムを持っています。

 いても立ってもいられない気持ちになり、その場から離れたくなります。

 人間には、危険(この場合は信頼・安心できない人)を回避する本能があるので、その場から逃れたい衝動におそわれます。

 職場や友人関係など、「気持ちがざわついて、この人と同じ空間にいれない」と感じたことが誰しもあると思います。

 この原因は、危険を回避する本能が働いていることによります。

 自分の本能が『この人は危険だ』と自分に信号を発信しているのです。

信頼・安心できる人になるためには

愛情ホルモン「オキシトシン」

 人が他者に対し、信頼・安心を感じることができるかどうかは、オキシトシンという脳内物質が分泌されるかどうかにかかっています。

 オキシトシンは、愛情ホルモンとも呼ばれ、脳に愛情を感じさせたり、親近感をもたせたりして、人と人との絆をつくるホルモンです。

 オキシトシンは、「薬瓶に詰められた信頼」ともいわれます。

 オキシトシンを吸引した人は、他人を信頼することが研究で分かっています。

行動主義経済学者のエルストン・フェールらの実験
  • 参加者(投資者)はまとまった額のお金を与えられる
  • 投資者がそのお金を別の人間(受託者)に渡せば、受託者は受け取ったお金を常に3倍に増やす
  • ただし、受託者は投資者にお金を戻す必要がないルールなので、受託者は3倍に増やしたお金を好きなだけ自分のものにできる
  • 投資者は、受託者が投資額より多いお金を自分に還元してくれると信頼するなら受託者にお金を渡す判断をすることになる
  • お金は自分に還元されないと考え、受託者を信頼しないと考えるなら金を渡さない判断をすることになる

 この実験で、研究者は、参加者(投資者)の半数にオキシトシンを鼻腔用スプレーで投与しました。

 参加者(投資者)は、オキシトシンを吸入しただけで、受託者にかなり多くのお金を進んで渡すという結果が出ました。

 さらに、フェールらは、その後の研究で、オキシトシンの量を増やすと、人はたとえ裏切りにあっても相手を信頼し続けることも研究で明らかにしています。

 

 このように、オキシトシンが脳内に分泌されるかどうかで、その人に対し、信頼・安心を感じるかどうかが決まります。

 つまり、信頼・安心を感じてもらえる人になるためには、オキシトシンの分泌を目指せばよいのです。

オキシトシンを分泌させる方法

 オキシトシンを分泌させる方法は、やさしさや思いやりのある行動を相手に提供することです。

  • 感謝の言葉をかける
  • ほめたたえる
  • ご飯をおごる
  • プレゼントを贈る

などの行動を提供し、相手がその行動に対し、純粋なやさしさや思いやりを感じることができればオキシトシンの分泌を促すことができます。

 ここで、相手を操作したいという意図(下心)が相手に伝わってはダメです。

 ちなみに、サイコパス的な人は、相手を操作するために、計算の上で、やさしさや思いやりのある行動を提供してきます。

 もし自分が、相手から操作目的で親切な行動を提供された場合は、オキシトシンを分泌させられないように注意する必要があります。

いったん他人から強固な信頼を得ると無双状態になる

 信頼には、

  • 相手の好意的な幻想を増大させる
  • 相手を実際以上に信頼できる人だと思わせる

という効果があります。

 このことは、先に説明した「オキシトシンの量を増やすと、人はたとえ裏切りにあっても相手を信頼し続ける」というフェールらの研究結果とも整合します。

 信頼は、相手の信頼度を過大評価しやすくする心のエラーを生み出します。

 私たちは、いったん信頼した人に対しては、気づかないうちに、相手に身勝手さ・理不尽さ・不合理さが多少あったとしても、それも許す方向に心が導かれるのです。

 このように、人間の心の中では、思いもよらない動きが起きているのですが、ほとんど人が自分の心の動きを自覚していません。

 だからこそ、いったん他人から強固な信頼を得てしまえば、『人は信頼を過大評価してしまう』という心のエラーを利用して無双できるのです。

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